ウクライナ東部の親ロシア派の支配地域で2014年に独立宣言をした“ドネツク人民共和国”と“ルガンスク人民共和国”に対し、ロシアのプーチン大統領が独立を認め、“平和維持”の名目で軍を派遣している。
ロシアの行動に国際的な非難が高まる中、ロシア国営メディアの『RIAノーボスチ』が、プーチン大統領が「西側を始めとする文明社会がウクライナ東部のジェノサイドに目をつむっていると発言」、また、ロシア国営通信の海外向けニュースサイト『スプートニク』は「ドネツク人民共和国でウクライナ側により給水施設が破壊されたのは数万人に対するジェノサイド」と報じるなど、あくまでも西側諸国やウクライナに非があるとの報道姿勢を見せている。
こうした状況について、ロシア外務省附属のモスクワ国際関係大学を卒業するなど、28年にわたってロシアに滞在、3年前に帰国した北野幸伯氏は次のように話す。
「長期的な視点で言えば、“アメリカが悪い”ということだ。東西ドイツが統一された1990年に、アメリカがソ連のゴルバチョフ大統領に“承認するか”と尋ねた。ゴルバチョフが“統一は認めるが、さらに東側にはNATOを拡大させないでくれ”と言うと、アメリカは“いいよ”ということになった。ところが冷戦崩壊の時点では16カ国だったNATOは拡大を続け、ソ連、そしてロシアの勢力圏にあった東欧諸国が加盟していく。さらに2004年には“バルト三国”と呼ばれるエストニア、ラトビア、リトアニアも入ってしまった。
ロシア人に言わせれば、自分たちの領土だったところが“反ロシア軍事ゾーン”に入ってしまった。しかもウクライナも入れたい、ジョージアも入れたいということで、こちらに向かって拡大してきている。これは脅威だということだ。今回も、ロシアがウクライナのドネツク、ルガンスクに入っていったというのは事実だし、ウクライナ人からすれば自分たちの領土に大国が攻めてくることが恐怖だということはわかる。つまりどらちが“真実”なのか、立場によって違うということだ」。
では、こうした報道をロシア人はどのように受け止めているのだろうか。
「ロシアの場合、メディアは基本的にテレビが中心で、世代によってはテレビしか見ない。また、日本の場合は民放もあるし、総理大臣の悪口を言うこともできるが、ロシアのテレビは国営メディアしかないので、プーチンが完全に支配している。だからプーチンの悪口を言ってはいけないし、クレムリンによる主張だけが流れる“プロパガンダ・マシーン”になっているということだ。今回も、“ウクライナ軍がドネツク、ルガンスクを攻撃し、ジェノサイドをしている”という主張だけしか見られない。
だからテレビでクレムリンの主張を毎日聞かされている中高年のテレビ中心世代はプーチンの言うことを信じていると思うが、ロシアにも日本と同じく、ネット世代が出てきている。10〜30代には、プーチンの言ってることはおかしいんじゃないか?という疑問もあるはずだ。とはいえ、ネットも2018年頃から規制が強化されている。私が日本への帰国を決意したのもそれが理由だ。
例えば“反汚職基金“というものを作り、ロシア政府高官の汚職をどんどん暴いていったナワリヌイさんという人がいる。YouTubeのチャンネルは登録者数が650万人にも達する“反プーチンのラスボス”のような存在になったことから、“このまま放置しておいたらどんでもないことになる”と、クレムリンが規制を強めていき、去年1月には逮捕された。
こうした動きに対しては、ものすごい数のデモも起こった。しかしプーチンは香港と同様に、武力で押さえつけることを決意、取締のための法律を作った。私の知り合いの大学生にも、デモに行って捕まった人がいる。そのことで会社をクビになったり、学校を辞めさせられたりする人も相次いでいるので、挫けてしまう。今年に入ると、デモがほとんどなくなってしまった状況だ」。
一方、アメリカで生活した経験のあるライターの中川淳一郎氏は「わしはアメリカという国のメディアをあんまり信用しとらん」と断言する。
「わしは1987年〜92年まで、アメリカにおった。湾岸戦争が始まると、“クウェートに侵攻したイラクのサダム・フセインが悪い、アメリカは素晴らしい”と放送しまくっていた。そして学校では生徒たちが“アメリカすごい。イラクは最悪”と言っていて、わしも(拳を振り上げて)“USA!”とやらされたわけ。ムチャクチャだと思ったのが、WWWF(現WWE)というプロレス団体が、“イラクに魂を売ったレスラー”を作り、それを愛国者を代表するハルク・ホーガンというレスラーが倒して改心させる、という演出までしていた。そのくらいアメリカという国はプロパガンダに長けているので、みんなも信じる。しかしイラク戦争の時には、“大量破壊兵器があるはずや”と言って行ってみたが、無かったわけだ。わしはアメリカが今回のロシアの行動に対しても同じことをやると思っている」。
北野氏は「イラク戦争の話はまさにその通りで、大嘘だったことが後でバレてアメリカは恥ずかしい思いをした。その意味では、まあ、どっちもどっちじゃないか。ただ、ロシア語が分かる日本の言論人の中には、ロシアから流れてくる情報を丸ごと信じちゃう人もいる。しかし日本や欧米とはまったく正反対の情報がロシアのメディアには流れているし、逆にロシア側から見れば、欧米のメディアは嘘ばっかりついている、ということになる。やっぱりロシアの立場はこうで、アメリカの立場はこうで、そしてウクライナの立場はこうで、と見ていくのが正しいと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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