ライブ配信での発言をきっかけに、所属チームから契約を解除されたeスポーツの人気プロゲーマーたぬかな氏。問題となったのは主に「(身長が)170ないと、正直、人権ないんで。170センチない方は“俺って人権ないんだ”って思いながら生きていって下さい」との発言で、「決して許されないものであり、自分の認識の甘さが招いたことであると重く受け止めております。深くおわび申し上げます」とツイートしている。
■乙武洋匡氏「ネット記事によって引っ張り出される時代だ」
一方、この“人権がない”という表現については、あくまでもステージクリアに必要なキャラやアイテムなどが揃っていないという意味で日常的に使われている、ゲーム業界の用語だとの指摘もある。
こうした“論争”について、23日の『ABEMA Prime』に出演した作家の乙武洋匡氏は「僕は問題となった配信を見ていなかったし、話題になっていることはネット記事を通して初めて知った。以前ナインティナインの岡村隆史さんがラジオでの発言をめぐって謝罪したが、あれもネットの記事によって広場に引っ張り出されたことでボコボコにされた。今回のたぬかなさんの発言がゲームをする人々の中だけで使われている用語、スラング、言い方だったとしても、それが“ネット記事”という存在によって“中央の広場”に引っ張り出されてしまう、それが良いことなのか悪いことなのかはさておき、そういう時代なんだという認識がまず必要ではないか」と指摘。
その上で「超無課金」としても活動するeスポーツチーム「αD」代表の石田拳智氏に対し、「昔は“子どもの遊びでしょ”と思われていたゲームプレーヤーが大金を稼げる時代になり、いよいよ社会で市民権を得ていこうとする今、“俺たちもいよいよ広場に引きずり出される存在になったんだな”という自覚を持ち、パブリックに合わせてべきだと考えているのか、それとも、“いやいや、あんな叩かれ方するならタコツボに戻ろうぜ”と考えるのか。その点を、ゲーム業界はどう捉えているのか」と投げかけた。
■石田拳智氏「僕だったら除隊にしていなかったかもしれない」
石田氏は「僕のチームでも、配信されているとは思っていなくて“ダウン症だ”と発言して炎上した子がいる。僕が思うに、能力は優れていても"有名になるべきではない"人たち、ゲーマーたちが有名になっている。また芸能人やプロスポーツ選手と違って日常的に配信をしちゃう環境にあることで、そういう発言が出てくるのだと思う。もちろんゲーマーでもまともな人のほうが圧倒的に多いわけだが、そういう自覚がない中、コミュニティで発言をしてしまう」との見解を示し、次のように持論を展開した。
「僕も(配信の映像を)見たが、発言が荒い。かなりきつい。ゲーム業界にいるが、これはゲームスラングではない。絶対に違う。僕らのゲームはFPS、銃撃戦、戦争ゲームだが、そんな過激なゲームですら、こういう言葉は聞いたことがない。それで傷つく人もいるだろうし、乙武さんや、170センチ以下の人たちがつぶやく分には良いと思う。ただ、“170センチ以下”というのは対象者が多いので、傷付いていない人たちまで、あたかも自分が被害を受けたかのようにつぶやいていると思う。リプも5000件とか来ていた。集団で叩きすぎ。正直気持ち悪いなと思っている。
本人に直接言って煽ったり、チームに言ったりというのは絶対に違うと俺は思うし、リスナーや第三者が“チーム運営がマネジメントしろ。アンガーマネジメントしろ”などと言うわけだが、無理だ。eスポーツは今の日本じゃ間違いなく発展しない。海外であればブックメーカーがあって合法的にお金を賭けることもできるが、日本では賞金も出ないので、お金を稼ぐにはスポンサーしかない。今回、(たぬかな氏の)契約を解除したチームからはスポンサーも離れるだろうし、売上も下がる。たとえ有名選手であっても蹴られることになる。そう考えると、ああいう発言をした選手たちを許すのかどうかはチームの判断でいいのではないか。応援してくれているファンの人たちの意見ももらうが、最終決定権は代表にあると思っているので、僕だったら除隊(契約解除)にしていなかったかもしれない」。
石田氏の主張に呼応する形で、タレントで女優の小椋梨央も「仮に“身長185センチ以上の男性には人権ない”と言っていたら、ここまで炎上していなかったと思う。自分の身長が低いことがコンプレックスになっている人たちが傷付いて不満を抱いて批判して、炎上して。そしてそれを見ていた大人が“人権はない”という最後のワードだけを切り取ったことで、人権の話になっちゃっている気がする。彼女からしたら、単純に自分のタイプじゃないとか、好きにはならない、異性としては見ないというような意味で使ったと思うし、そこまで大きくなることだとも思ってなかったと思う」と話した。
■成田悠輔氏「"オープンが前提なウェブ"を考え直す時期がくる
一方、リディラバ代表の安部敏樹氏は「僕は大学時代に“法と社会の人権ゼミ”という名前のゼミにいたが、大事なのは、“人権”という言葉が“無敵ワード化”するのは本当に良くないということだ。そもそも人権というのは、建前上は全て人に付与されていることになっているが、みんなが主体的に議論をし、守っていかなければ保障されなくなってしまうものでもある。“人権”という言葉を前提に思考停止して人を叩きまくることができちゃうと、人権に関する議論そのものがしづらくなってタブー化してしまうという、社会にとって非常にリスクが大きい事態に陥ってしまう。今回も、“とりあえず当事者をクビにして終わり”だと、単に“ああいうことに触れると損なんだな。ああいうことを考えたり、議論したりすると自分のゲーマーとしてのキャリアがなくなってしまう”と考えが残ってしまうだけになるのではないか」と指摘。
また、米イェール大学助教授で半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏は「結構どうでもいい問題なのに、こうやってみんなで議論したりするから、契約解除とかにまでなっちゃうのではないか。どうでもいいことについて、ちゃんとどうでもいいと言えるようになるためにはどうするかを考えるのも重要」と話す。
「もともとはタコツボ化した場での内輪ネタだったものが広場に引っ張り出されてくるという話があったが、そういう意味では、タコツボであるべきものをタコツボのままにするにはどうしたらいいのか、みんなが広場に集まりすぎないことをどうやって作りだせばいいのか、ということだ。そもそも不特定多数の人同士がリアルタイムで、ほとんどゼロコストでやり取りできるという環境自体、社会的には害悪の方が大きいかもしれない。
そこで例えば誰でもアクセスできる、オープンが前提のウェブというものを何らかの形で規制する。災害やテロが発生した時のように、何百万人同士がリアルタイムでコミュニケーションを取れることに意味がある状況を除いて、むしろそれを禁止したり、通信速度やコミュニケーションそのものに税金を課したりといった議論が出てくるのではないか。これは炎上ネタだけではなくて、政治との関係においても同じことが言えてると思う。僕たちはネットを使った、多対多で制限のないマスコミュニケーションで一体何を得たのか、何を失ったのかというところから考えなければいけない」(『ABEMA Prime』より)
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