ロシアのウクライナ侵攻を巡って国連総会は2月28日、安全保障理事会の要請で40年ぶりに「緊急特別会合」が開催された。ロシアへの非難決議案は2日にも採決される見通しとなっている。
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国連の安全保障理事会では常任理事国(中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ)のうち1カ国でも反対する国が出れば重要事項の決定ができない仕組みになっており、25日にもアメリカなどが提出した侵略を非難し即時撤退を求める決議案がロシアの拒否権行使によって否決されている。
■「日本政府の制裁措置も、もう少し踏み込むべきではないか」
国連安保理・元専門家パネル委員で、現在はオーストリアのシンクタンクで国際情勢の研究に従事する古川勝久氏は「こういう緊急時には、例えばユニセフ(UNICEF=国連児童基金))やFAO(国連食糧農業機関)といった機関による人道支援は非常に迅速に行われるが、問題はこの安全保障理事会が関わる部分が明白に機能不全を起こしていることだ」と話す。
「この緊急特別会合というのは1950年に国連総会で決議が採択されたもので、安保理のどの国であっても7カ国以上が賛成すれば開催できる。1956年、ロシアの前身の旧ソ連が、支配に反抗して一斉蜂起したハンガリー国民を武力で平定しようとして数千人を殺害、25万人の避難民が生まれてしまった時にも開かれた。今回も安全保障理事会で拒否権を使うロシアが反対したが、緊急特別会合は開催された。まさに歴史が繰り返されていると思う。
ここではロシアに対して具体的な法的拘束力を持つことはできないが、大きく2つのことはできると思う。1つは、より多くの国々がロシアへの非難に加盟することにより、現時点ではアメリカや欧州、日本などしか科していない制裁のネットワークを広げていくこと。もう1つが、ロシアが出してくるであろうカウンタープロポーザル、具体的にはウクライナ東部の2州の独立承認は認めないんだということを突きつける。こうしたことは最低でも可能なのではないか」。
さらに古川氏は、ロシアへのさらなる制裁強化、そして協力関係にあるベラルーシへの制裁も急ぐべきだと指摘する。
「安保理に対して過大な期待をする必要はなく、安保理が動かなくてもアメリカ、欧州、あるいは日本をはじめとして有志連合による独自の制裁措置でロシアを囲い込んでいくことは可能だし、今はそちらの方がはるかに重要だと思う。決定的なSWIFTからの排除についても、欧州勢が二の足を踏んでいるために、北朝鮮のようにロシア全体を追放するというところまでは至っていない。
SWIFTをはじめとした金融制裁が始まると、経済全体のパイが減っていくことになるが、我々が痛めつけたいのはロシア国民の方々ではなく、プーチン大統領個人だ。1990年代からマフィアと結託して世界各地でマネーロンダリングのネットワークを築いてきたということが欧州の司法機関などからも指摘されている。これを丁寧に見つけて潰していく作業もまだ不十分だ。もっと言えば、日本政府の制裁措置も、もう少し踏み込むべきではないかと考える。ロシアの銀行に対しての制裁も、まだ3行だけだ。
そして喫緊の課題がベラルーシだ。例えばウクライナに対してベラルーシの落下傘部隊が出発準備を整えており、参戦する予定であるという報道も出ている。こうした動きを止めるためにも、日本政府も含めた国際社会がベラルーシを囲い込み、(経済)制裁を科すべきだと思う。そうでなくても、メッセージをルカシェンコ大統領に伝えるべきだ」。
■「国際機関が果たせる役割は、まだゼロではない」
古川氏の指摘を踏まえ、元防衛省防衛研究所主任研究官で上智大学教授の湯浅剛氏は「やはり70年間以上も続いてきた国連の枠組みの中で、できることとできないことがかなりある。特に安全保障の分野では機能不全に陥ってきている状況もあり、致し方ない部分もある。ただ、組織としてはないよりはあった方がましだと。数日前にもロシアの国連大使が安保理で責められている状況を全世界の人々が目にしたし、そういう状況を作っただけでも意味があったと思う。非常に間接的なものかもしれないが、国際機関が果たせる役割は、まだゼロではない」と話す。
「これから私が注目するのは、どのくらいのロシア包囲網を敷くのか、そして、どの国がロシア側に付くのか、というところだ。中国、あるいはロシアがドンバス地域の“国家承認”の直後に下院議長が出かけて行って支持を取り付けたニカラグア、中央アジアの中でも特にロシアへの依存度が高いキルギス、タジキスタンといった国々がロシアを支援することが想像できる」。
また、今後について古川氏は「ロシアに対する制裁によって、欧州経済も打撃を受けることになる。世界経済全体の急速な悪化にもつながるし、アジア各国、日本に波及するということも十分にあり得る。その意味では“諸刃の剣”だし、我々がどこまで自己犠牲を覚悟し、ウクライナを支援できるかになる。
その上で申し上げたいのは、私はオーストリアのウィーンに住んでいて、日常生活に何ら不便を感じていない。今も大変暖かいオフィスで過ごしている。東日本大震災の時に私たちが行ったような、停電に備えて電気をセーブするといった努力をしてまでロシアとの経済的関係を断つというところまでは至っていない。ロシアと取引をしている大手の銀行もいくつもある。それがヨーロッパの現実だ。
国際秩序は、もう崩れつつある。プーチン大統領の揺るぎない狙いは、最低でもウクライナから民主政権を追い出し、傀儡政権を立てることだ。バルカン半島のボスニア(・ヘルツェゴビナ)連邦共和国のような親ロシア派の国が触発されて独立を宣言することもあるかもしれないし、1990年代に起きた虐殺、内戦が再び始まるかもしれないといった、非常に大きな問題を孕んだ状態が今後も続く」と話した。(『ABEMA Prime』より)
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