ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、国連総会では40年ぶりの「緊急特別会合」が開かれており、2日にも非難決議案が採決される見通しとなっている。国際社会の“囲い込み”によって追い込まれているともいわれるプーチン大統領。1日の『ABEMA Prime』に出演した防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員(現代ロシア政治・安全保障研究)は「権力基盤に揺らぎがあるのではないか」と指摘、“3つの焦り”があるとの見方を示す。
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「まず、NATOの“東方拡大”がプーチン大統領とロシアにとって非常に脅威となっていて、いまも対NATO、対ウクライナで苦戦をしているということ。ただ、これまでのNATOとの関係がどうだったのか、そこも慎重に見なければいけないと思う。例えば1990年代後半には協調するような動きがあったし、それは2000年にプーチンが大統領に就任したあとも同様だった。『NATOロシア理事会』という制度的枠組みもあったし、歩み寄れる部分は歩み寄っていたということだ。
次に、権力維持への焦り。憲法改革によって、2036年まで大統領を務めることは制度的には可能だが、やはり国民からの一定程度の支持が集まらなければ正統性を保てず、政権が崩れてしまう可能性もある。2024年に予定されている次の大統領選挙に向け、なんとか求心力を高めたい、あるいは自分が引退した場合に誰が安全を保証してくれるのか、周囲に猜疑心を抱いているのではないか。
そして“レガシー達成”への焦りだ。プーチン大統領は大変な混乱と悲惨な状況にあったソ連崩壊後のロシアを“悪夢”と表現し、2000年代の高度経済成長によって政治的安定性をもたらした。そしてソ連時代の“負の遺産”だと考えているものを解決したいということが、今回のウクライナ侵攻にも関係しているのかもしれない。しかし国際市場を揺るがすような事態を招いてしまえば、自分自身が“負の遺産”になってしまう可能性があるということだ」。
長谷川氏は、そんなプーチン大統領を支える“最高意思決定機関”に懸念を示す。
「ロシアの大統領選挙は自由のない、形式上のようなものになっているし、政権交代ができるような政党を育成することを阻止してきたこともあって、『統一ロシア』というプーチン大統領を支える与党に対する代替政党がない。また、プーチン大統領の権力強化の動きもある。例えば憲法上の最高意思決定機関である『安全保障会議』は2000年以降、大きくメンバーが変わっておらず、人事が硬直化している。それに伴ってプーチン大統領だけでなく、周りにいる“インナーサークル”と呼ばれる側近たちもどんどん高齢化、意見も硬直化しているということだ。
そして2020年の憲法改革で、安全保障会議が“国家元首に協力をする場”という位置づけになってしまった。また、昨年7月に承認された『国家安全保障戦略』では、“伝統的な精神”とか“道徳的な価値”の重視など、より抽象的なものになっている。やはり、かつてのようなロジカルな部分がプーチン大統領から失われているというのが、ここ数年のトレンドだ。そこに加わったのがコロナ禍だ。安全保障会議が感染防止対策のために全面的にオンラインになったことで、多少は意見を言い、議論ができるような従来の雰囲気も失われてしまった。先日の会議もプーチン大統領が閣僚らに態度を表明させるような内容になっていたが、政策の一致、調整が図られているのか、見ていて不安になると思う」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「プーチン大統領には未来はないと思う。ウクライナに対し軍事的な勝利を収め、傀儡政権を作ることができたとしても、ウクライナ国民が従うとは思えない。反乱は起きるだろうし、西側の制裁が止まることはないだろう。むしろドイツが軍拡を始めたし、フィンランドやスウェーデンがNATOに入る可能性も出てくるなど、西側は“反ロシア”で固まって、国際秩序がかつてに戻るという、不思議な現象が起きている。また、侵攻前には握手をしていた中国の習近平国家主席も、プーチン大統領の擁護をすれば国際社会の中で悪人だと思われ、得することがない。ロシア国内にも資本主義的な生活が広まる中、今さらプーチン大統領が言うような19世紀の野望のようなものに、国民が付いていくのだろうか」とコメント。
東洋経済新報社の山田俊浩・会社四季報センター長は「日露戦争の時も第一次世界大戦の時もそうだが、ロシアの国内では反乱が起きている。プーチン大統領としても、“このままではヤバい”と考えているはずだ。一方で、世界がかつての“米ソ”から“米中”になる中で、ロシアをどう位置づけ、コントロールするのか。その意味では中国の役割は大きいだろうし、中国はここでうまい役回りをするともう少し中国のことも世界的に見直されるようになる」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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