ウクライナへの軍事侵攻は「我々の歴史と重なる」 平和的解決を願うケニア国連大使の“怒りのスピーチ”
【映像】ケニア国連大使の“怒りのスピーチ”
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 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから約1週間。世界からロシアに対し批判の声が向けられる中、“ある1本のスピーチ”が話題を集めている。

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 それは先月21日、アメリカで開催された国連の緊急会合でケニア共和国のキマニ国連大使が発したスピーチだ。この日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域の独立を承認し、この地域への軍の派遣を命令していた。

 かつて、イギリスをはじめとした欧州列強による植民地支配を受け、国境を決められ分断された過去を持つアフリカ――。軍事力を振りかざし、一方的に独立を承認したロシアの行動に対してキマニ大使は、アフリカの歴史と照らし合わせて憤りをあらわにした。内容は以下の通り。

ウクライナへの軍事侵攻は「我々の歴史と重なる」 平和的解決を願うケニア国連大使の“怒りのスピーチ”
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「この状況は私たちの歴史と重なる。ケニア、そしてほとんどのアフリカの国々は、帝国の終焉によって誕生した。私たちの国境は、私たち自身で引いたものではない。ロンドン、パリ、リズボンといった遠い植民地の本国で引かれたものだ。いにしえの国々のことなど何も考慮せず、彼らは引き裂いた」

「現在、アフリカの全ての国の国境線をまたいで、歴史的、文化的、言語的に深い絆を共有する同胞たちがいる。独立する際に、もし私たちが民族、人種、宗教の同質性に基づいて建国することを選択していたのであれば、この先何十年後も血生臭い戦争を繰り広げていたことだろう。しかし、私たちはその道を選ばなかった。私たちはすでに受け継いでしまった国境を受け入れたのだ。それでもなお、アフリカ大陸での政治的、経済的、法的な統合を目指すことにした。危険なノスタルジアで歴史に囚われてしまったような国を作るのではなく、未だ多くの国家や民族、誰もが知らないより偉大な未来に期待することにした。私たちは、アフリカ統一機構と国連憲章のルールに従うことを選んだ。それは国境に満足しているからでなく、平和のうちに築かれる偉大な何かを求めたからだ」

「帝国が崩壊あるいは撤退してできた国家には、隣国との統合を望む多くの人々がいることを知っている。それは普通のことで、理解できる。かつての兄弟たちと一緒になり、彼らと共通の目的を持ちたいと思わない人などいるものだろうか。しかし、ケニアはそうした憧れを力で追求することを拒否する。私たちは、新たな支配や抑圧に再び陥らない方法で、滅びた帝国の残り火から自分たちの国をよみがえらせないといけない」

「私たちは人種・民族・宗教・文化など、いかなる理由であれ、民族統一主義や拡張主義を拒む。我々は今日、再びそれを拒否したいと思う。ケニアは、ドネツクとルガンスクの独立国家としての承認に重大な懸念と反対を表明する。さらに我々は、この安保理のメンバーを含む強大な国家が、国際法を軽視するここ数十年の傾向を強く非難する」

「多国間主義は今夜、死の淵にある。過去に他の強国から受けたことと同様に、今日も襲われている。多国間主義を守る規範のもとに再び結集させるよう求めるにあたり、私たちはすべての加盟国が事務総長の後ろ盾となるべきだ。また、関係当事者が平和的手段で問題解決に取り組むように求めるべきだ。最後に、ウクライナの国際的に認められた国境と領土的一体性が尊重されることを求める」

 国境線を勝手に決められても、それを受け入れ、平和に共存していくため歩みを進めるアフリカの思い。ロシアを強い言葉で非難したキマニ大使のスピーチは、世界中で大きな反響を呼んだ。

 一方で、内戦が続くアフリカの現状はスピーチでのきれいごとだけは語れないという批判の声もある。複雑な歴史的背景を抱えるアフリカは、ロシアの軍事侵攻をどう見ているのだろうか。

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 このニュースを受けて、テロ・紛争解決に詳しい永井陽右氏は「まさに歴史に残る素晴らしいスピーチだった」とキマニ大使を絶賛しつつ、こう解説する。

「大使も指摘していたが、アフリカ大陸には植民地がものすごくあったので、どうしても『植民地支配前の領土に戻りたい』だとか、『不公平な中で領土を拡大したい』という思いがあったりする。今回のウクライナ情勢を受けて、『私たちが掲げていたのはきれいごとであって、(現実は)パワーゲームだ』と思うのではなく、改めて多国間主義を思い出す、植民地支配後や大戦後に人類が培った仕組みや合意した原則に立ち返ろうというスピーチだった」

 ロシアによるウクライナ侵攻で被害が拡大する中、私たちに何ができるのだろうか。永井氏は「どのような理想を掲げて、掲げた理想にどう一致団結して進んでいくかが問われている。ロシアの使った論理を使えば何でもできてしまうが、それではいけない。キマ二大使が言ったように、『我々が人類としてどのような理想を掲げているのか』『きれいごとかもしれないが、みんなで掲げた理想に向かっていこう』と国際社会として再確認していく必要がある」と訴えている。(『ABEMAヒルズ』より)

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「我々の歴史と重なる」ケニア国連大使の“怒りのスピーチ”
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