「泣いていても元には戻れない」交通事故で全身の60%に火傷を負った母、子どもたちとの距離が縮まるまで
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 交通事故に巻き込まれて全身を火傷。顔や腕の皮膚、指と耳たぶを失った森亜美さん(34)。3人の子どもたちのために、ひとつひとつ、できることを増やしてきた。

 事故から6年。果たせなかった願いがある。それは家族全員との思い出を、「写真」という形にして残すことだった。(名古屋テレビ放送制作 テレメンタリーメモリーズ〜再び、家族で〜』より)

■“これがママだぞ”って言っても、そっぽむいて

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 夫・常司さんの熱烈なアプローチを受け、18歳の時に結婚した亜美さん。しかし6年前、一家5人の日常が事故で奪われた。亜美さんが運転するワンボックスカーに、信号無視の車が時速100キロで衝突。一緒に乗っていた長女(当時1)はすぐに助け出されたが、車は衝撃で意識を失った亜美さんを乗せたまま炎に包まれた。

 全身の60%を火傷。意識を取り戻したのは、事故の2週間後だった。家族と面会ができたのは2カ月が経った頃のこと。まだ幼かった上の子ども2人は、戸惑いを隠せなかったという。

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 「二人ともびっくりして何もしゃべらんかったですね。“これがママだぞ”って言っても、そっぽむいて。別人というか、初めて見た人といる、というような感覚だったんじゃないですかね」(常司さん)。

 幼い頃は母親が仕事で家にいないことが多く、寂しい思いをした記憶があるという常司さんは、事故後、子どもと一緒にいる時間を増やした。「お母さんおらんというのが一番いかんもんで、自分と同じ目にあわせとるなと。それがいやで、少しでもお母さんっぽいことしたいなって」。

■泣いていても元には戻れない。前を向こう

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 事故から2年が経った頃。亜美さんはマスクを付ければ外出ができるようになった。この日は名古屋地方裁判所に出向いた。事故を起こした男の裁判で、被害者としての心情を述べるためだ。

 「子どもたちとも会えない日々が続いて…。長男の学校行事、次男の保育園最後の発表会、卒園式、入学式にも行けなくて」「長女は2歳の誕生日も祝ってあげることができませんでした」「今では、手をつなぐことや拍手、じゃんけんもできない」。判決は、禁錮3年10カ月の実刑だった。

 “泣いていても元には戻れない。前を向こう”と決めたのも、この頃のことだった。久しぶりにメイク道具を手にした亜美さん。もともとメイクを仕事をするのが目標で、事故に遭ったのも、その勉強に行った帰り道だった。

■一人でできることを増やしたい

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 人工の耳たぶを作ってくれた「マエダモールド」の前田一美さんの知人が参加する演奏会に誘われ、事故後、初めて外でマスクを外した。「夜だし、挑戦してみようと思って。自分が大丈夫って思えば大丈夫なんだなと思って。ちょっとずつマスクなしで外に行けたらいいなって思いました」。

 ヘルパーの手を借りていた家事についても、できることを増やしたいと努力を続けた。「やれないなと思っていたけど、やってみようと思ったらやれたんで、良かった」。そんな亜美さんの姿を見ていた子どもたちにも変化が見られるようになったという。「過去には戻れないけど、未来なら変えられるかなと思って」。

 事故を起こした男は、関東の刑務所に収監、今年2月に出所予定。しかし2021年11月現在、亜美さんや家族に手紙などは届けられていない。

■子どもたちとの距離感が縮まった

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 事故当時1歳だった長女は、7歳になった。以前はヘルパーや常司さんの役目だった、買い物の付き添いも任せられるようになった。一方、中学3年生になった長男は、部活のハンドボールの試合や練習の送り迎えを亜美さんにお願いするようになった。車の運転を再開したのも、子どもたちとの時間を作るため。「友達とかに見られてもいいんだと思って。マスク、化粧してないけど大丈夫?って言う時に、距離感が縮まったとも思う」。

 常司さんも「手がああいう状態で、昔のようにはいかなかいけど色々やってるのを見て、子どもも塾だったり習い事だったり、運動も頑張ってるのかな」と話した。

 ある日の夕食の支度中、長男から「リビングに友達を連れきていい?」と相談された亜美さん。「初めて来るかも。私がここにいる時はだめだよって言って、2階に行かせてたから…。いいかなぁ。多分大丈夫」。昔の自分を知る人には会いたくない。ずっとそう思っていたが、同じ年ごろの子どもがいる同級生とも会うようになった。

■3年ぶりに家族揃っての外出へ

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 成長すれば、子どもたちは離れていくことになる。家の中に家族の写真を飾るようになった亜美さんだが、そこに自分の姿はない。最後に5人で揃って撮った写真は事故の直前、自宅の地鎮祭の頃のものだという。

 再び、家族でー。その日がくることを心待ちにしながら、亜美さんは今の自分にあったメークを模索してきた。諦めかけたメイクアップの仕事をもう一度、目指そうと考えていた。そして3年ぶりに家族5人で出掛ける計画も。

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 付いて来てくれるのかが気がかりだったが中学3年生と小学4年生の息子も一緒だ。「毎日忙しくて、あっという間に過ぎていくから。今、充実してるかなって思います」。(名古屋テレビ放送制作 テレメンタリー『メモリーズ〜再び、家族で〜』より)

『メモリーズ〜再び、家族で〜』
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