「軍事行動を止めるのは、ロシアの要求が満たされた場合のみだ」として、一切妥協しない考えを示しているプーチン大統領。ウクライナ侵攻について、どのような“出口戦略”を描いているのだろうか。
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『戦争はいかに終結したか―二度の大戦からベトナム、イラクまで』(中公新書)の著書もある防衛省防衛研究所主任研究官の千々和泰明氏は、「そもそも戦争とはパワーとパワーのぶつかり合いなので、“優勢勢力側”、つまりロシアがどういう考えに立っているかということが重要だ」と話す。
■ゼレンスキー政権の退陣と傀儡政権の樹立を狙う?
千々和氏によれば、戦争の集結には大きく3パターンがあるという。
(1)紛争の原因を徹底的に取り除くまで戦う=例:第二次世界大戦、アフガニスタン戦争・イラク戦争
(2)被害に耐えられず妥協的に和平を結ぶ=例:朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争
(3)その中間=例:第一次世界大戦
「まず(2)は現在の犠牲と将来の危険のどちらを取るかというトレードオフの中、犠牲を考えて妥協をするというものだが、結果として危険が残ってしまう可能性もある。
例えば湾岸戦争はクウェートに侵攻したイラク軍をアメリカ主導の多国籍軍が撃退するという戦争だったが、犠牲を懸念する意見もあって戦争を引き起こしたサダム・フセインを打倒せず、延命させてしまった。結果、アメリカは再びイラクで戦わざるを得なくなってしまった。単に戦争を終わらせるだけでなく、将来どういう平和が作れるのかも含めて問題を先延ばしせず考えなければならないということだ。
一方、(1)は将来の禍根を絶つことを目指し、犠牲も覚悟の上で交戦相手を打倒しようとするもので、まさに第二次世界大戦において連合国軍がドイツに対して取った態度が当てはまる。この時ソ連を含む連合国は首都ベルリンを陥落させ、ヒトラーを自殺に追い込み、ドイツという主権国家そのものが地上から消え去るまで徹底的に叩きのめした。
プーチン大統領は今回、開戦劈頭の2月24日の演説で“非ナチ化”という非常に衝撃的な言葉を使った。この“ナチ”は、もちろんナチス・ドイツのことで、ウクライナは“共存できない相手”ということだろう。その後もプーチン大統領はウクライナの“中立化”、あるいは“非軍事化”を主張、民間人の住む地域を容赦なく攻撃したり、原発を制圧したりと、その言葉を裏付けるような容赦のない侵攻を続けている。
とはいえ、プーチン大統領が何を将来の危険と考えているのかが今ひとつ判然としないのがこの戦争の不気味なところだし、専門家も含め多くの人々を悩ませているところだ。NATOの東方拡大を恐れているから、あるいはウクライナのNATO加盟を恐れているからともいわれているが、あす、あさってに実現するわけではない。
それでもプーチン大統領が相対的なバランスとして現在の犠牲が少ないと踏んだことが、原因の根本的解決としてのウクライナ打倒に進んでいる大きな要因、背景になっているのではないか。ただ、開戦後の数時間で“ウクライナの防空システムを破壊した”、“空軍基地を制圧した”などと発表していた。
また、西側諸国にとっては直接的な軍事介入のリスクを負うほど国益は見い出せないし、アメリカもオバマ政権以来の長期的な趨勢として“世界の警察官”をやめている。バイデン政権になってからも、しがみつく人を振り落としながら米軍機がアフガニスタンの空港を飛び立っていく衝撃的な映像が流れた。こうした姿がプーチンにも一定の影響を与えたことは想像できる。
そうしたことから、ロシア側が現在の犠牲についてかなり低めに見積もっていたものと思われるし、専門家の間ではゼレンスキー政権を強制的に退陣させて傀儡政権を樹立させるような形を考えているのではないかとみられている」。
■西側諸国が描く“ベストシナリオ”は難しい?
とはいえ、西側諸国が一致して強い態度で望んでいること、また、ウクライナが強い抵抗を見せていること、さらにロシア国内での反戦運動の高まりは予想外だったのではないだろうか。
「侵略によってウクライナの民族・国家としてのアイデンティティが高まっていったことは誤算だったと思うし、仮にゼレンスキー政権を倒して傀儡政権を樹立したとしても、長期にわたって抵抗運動が起こる可能性があるし、全土を占領するにしても、相当なコストがかかってくることになる。
また、国際社会は一致結束して経済制裁を強化しているし、ウクライナはヨーロッパと地続きなので、支援は継続して入ってくる。その意味ではロシアはかなり楽観的な前提で戦争を始めた可能性はあるし、現在の犠牲と将来の危険のバランスも世論のレベルで変わっていく可能性がある。
ところが民主国家であればそれが指導者に届くが、ロシアという国が難しいのは権威主義国家であることだ。独裁者が後退するということは、自らの権威を揺るがすことになってしまう恐れがある。これはプーチン大統領としては譲れないところだろうし、西側が望む通りの停戦が行われ、何も取らずにロシアが帰っていくという“ベストシナリオ”は相当難しい」(千々和氏)。
実際、7日にはウクライナとロシアによる3回目の停戦協議がベラルーシ西部で約4時間にわたって行われたが、停戦の実現につながる具体的な成果は得られていない。そんな中、ウクライナのゼレンスキー大統領を首都キエフから退避させ、別の国に“亡命政権”を樹立させるプランも練られていると報じられている。
「第二次大戦中の1940年の6月、ドイツに屈服したフランスでは国土の5分の3を取られ、残る地域でも親独のヴィシー政権が誕生することになった。一方、イギリスに亡命したド・ゴール将軍は亡命政府である自由フランスを作り、フランス国内のレジスタンスに指示を与え、ナチス・ドイツを苦しめた。ウクライナでも、これと似たようなことが起きるのかもしれない。
ただし第二次大戦では最終的にアメリカ軍とイギリス軍がフランスを解放し、さらにドイツに攻め込むという展開になった。いずれにせよ亡命政府を作ってウクライナ国内の抵抗運動を支えていくということは、劣勢側の犠牲を覚悟しなければならないことだし、非常に長期化する可能性もある」(同)。
こうした歴史の教訓を踏まえ、千々和氏は日本も含む今後の国際社会について次のように問題提起した。
「日本は先の大戦で、“やがてドイツが勝つだろう。そうすればイギリスが屈服する。そうすればアメリカも妥協に応じるはず…”といった“希望的観測”を積み重ね、ある種の“夢物語”のようなものを“出口戦略”だと称してアメリカに戦争を仕掛けた。さらに状況が悪化してからも、出口戦略をはっきり見いだせず、“損切り”のための判断もできず、ずるずると戦争を長引かせてしまった。結果、広島・長崎への原爆投下、そしてソ連参戦という、非常に悲劇的な最後を迎えることになってしまった。
今回、第二次大戦の反省から国防費の増額に消極的だったドイツが転換をした。戦後、“平和国家”という方向で進んでき日本も防弾チョッキの供与という形で、ウクライナ支援を行うという転換をした。仮に西側のベストシナリオが実現したとしても、ロシアという新しい危険に国際社会がどう付き合っていくのかという課題は残る。やはり戦争というものは“どういう形で収拾をつけるのか”を考えておかなければならないし、残念ながら今もそういう現実の世界に我々は生きているということだと思う」。(『ABEMA Prime』より)
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