「プーチン大統領を止められるのはロシア人だけだ。クーデターのような終わり方を迎えるのではないか」産経新聞・遠藤良介氏
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 国際社会からの非難を浴び、厳しい経済制裁を受けてもなお、ウクライナに対する攻撃の手を緩めないロシアのプーチン大統領(69)。旧ソ連時代には諜報機関「KGB(ソ連国家保安委員会)」に工作員として勤務していたことはよく知られているが、一体どのような人物なのだろうか。
 
 記者として11年半にわたってモスクワに滞在した産経新聞外信部編集委員兼論説委員の遠藤良介氏は、その内面の変化を指摘する。

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■スパイに憧れた青年が、激動の中で異数の出世

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 まず、その生い立ちについて簡単に振り返る。

 「レニングラード(現サンクトペテルブルク)の裕福ではない家庭に育ち、自身が明かしているところによれば“不良”で非常に喧嘩っ早く、路上でファイトをするということで、決して優等生ではなかったそうだ。それが変わったのが、柔道との出会いだったという。今の状況を見れば柔道の精神をどれだけ分かっているのか、“悪しき柔道家”としか言いようがないが、そこから勉強もするようになり、名門のレニングラード大学(現サンクトペテルブルク大学)に入学する。

 その直前のエピソードとして印象的なのは、数千人の軍隊でもできないようなことを一人でやってのけるスパイが出てくる小説や映画に非常に感銘を受けたということだ。KGBの支部に出向き、どうすれば就職できるか聞いたこともあるそうだ。そこで法学部を出るといいとのアドバイスを受けたという」(遠藤氏)。

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 首尾よくKGBに入ったプーチン大統領は旧東ドイツに赴任する。これもよく知られた経歴だが、そこで直面したのが東西ドイツの統一、そして旧ソ連の崩壊だった。

 「ドレスデンにおいて東ドイツの内政をフォローしたり、シュタージ(秘密警察)と接触したりしていたようだ。ただ、ドレスデンというのは一流のKGB職員の勤務先ではなく、ごくごく並の勤務評価をされていたのではないかとの見方もある。ところが89年、ベルリンの壁の崩壊という大事件に直面することになる。混乱の中で、秘密警察に対する怒りを爆発させた群衆が、プーチン氏の勤務先に押し寄せてきたこともあったようだ。

 こうした状況を目の当たりにしたプーチン氏は、“残念ながら東側営、共産圏、ソ連は終わりが近い”と悟ることになる。失意の中で帰国、異動したのは故郷の出身大学の学長補佐で、学生や教官に反ソ的な思想や言動がないかを監視していたようだ。そんな中、改革派の市長として非常に勢いがあったサプチャークとの面識を得て、副市長に招かれる。

 ロシアは今もそうだが、民間でも行政でも、信じられないくらいにコネで物事や人事が動き、若い人が驚くような出世をすることもある、この時のプーチン氏もその典型で、激動の中、驚くべき出世をしていく」(遠藤氏)。

■政治家に転身、実務能力を発揮して権力の掌握へ

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 KGBを退職、政治家として歩み始めたプーチン大統領は、サンクトペテルブルク市副市長、大統領府副長官と、急速に権力の階段を上り始める。わずか9年で首相となった1999年には、エリツィン大統領の辞任に伴い大統領代行。そして首相の期間を挟んで、大統領4期目を務めている。

 「人脈と能力、両方があったんだと思う。ロシアから外資がどんどん逃げている今から見れば驚きだが、サンクトペテルブルク副市長時代にはコカ・コーラの工場を誘致することに成功しているし、モスクワの大統領府に呼ばれたことを見ても、官僚としての実務能力は高かったんだと思う。2000年に大統領になった当時も、市場経済を重視するリベラル派と、自身のようないわば“武闘派”、シロヴィキの間でバランスを取っていたと思う。

 一方、90年代のロシアでは、日本語でいう“政商”のような新興財閥(オリガルヒ)が非常に力を持つようになっていて、そこに対しては警察権力を使ったり、言論に対してもやはり警察権力を使ってテレビ局を徹底的に支配下に置こうとしていった。そのようにして立法、司法、行政を固めてきた。つまり見た目上は選挙をやっているが、民主主義としては骨抜きされた国にしていったということだ」(遠藤氏)。

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 侵攻直前の2月21日に行われたロシア連邦安全保障会議で、ウクライナ政策について口ごもる対外情報局のナルイシキン長官に対し「支持するのかしないのか、はっきりと」「イエスかノーで」と厳しく詰め寄る様子は、国際社会に驚きを与えた。それでもなお、国民の支持率は6割程度に達している(ウクライナ侵攻前)。しかし内実はそうではないという。

 「対抗馬になりそうな人物は全て潰してきたし、主な放送機関は国営か政府系で常に自身を持ち上げるような報道をさせている。だから意識の高い人を除いて、“プーチン氏しか選択肢がない”という状況になっているわけだ。実際は、本当に強く支持している人は大体よくて4割、あるいは3割程度というのが専門家の見立てだ。

 やはり国のトップをあまり長く務めるのは良いことではなく、プーチン氏も2期目が終わった2008年のあたりで潔く辞めていれば今のような悲劇もなかっただろうし、今とは異なる評価で歴史に名前を残したかもしれない。ところが彼は一度首相になり、再び2012年に大統領になった。しかも憲法を改正し、事実上の“終身独裁”をやろうとしている。クリミア併合もそういう中で起きてきたし、彼自身も変わってきたと思う。

 本来のプーチン氏は合理主義的で、損失できるだけ少ない状況でどれだけの効果を得られるのか、と考えただろう。そういう意味で、今回は今までと違うと思う。人命が失われ、世界からも総スカンを喰らい、国内経済がここまでガタガタになって破綻に向かっている、それで何が得られるというのか。ウクライナを支配したいという、彼の妄信だけではないか。クリミア併合時には支持率が8割に達したが、これでは心あるロシア国民は付いてこないだろう」(遠藤氏)。

■クーデターのような終わり方になるのではないか

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 柔道だけでなくアイスホッケー、乗り物の運転など、スポーティーな面や肉体美を披露するなどの一面を見せ、人気もあったプーチン大統領。彼を止められる人物はどこにいるのだろうか。遠藤氏は、それはロシア人自身だと指摘する。

 「最近は健康不安説も囁かれていて、例えばパーキンソン病に罹っていて、その薬が非常に強く、手が自由に動かせていないのではないかという指摘もある。ただし確たることは分からない。

 では、彼を支えているのはどんな人達か。オリガルヒの人たちもいれば、情報機関、あるいは軍もいる。プーチン氏の力の源泉、上手いところは、そういう人たちの中にある勢力のバランスを取って、派閥争いが起きても仲裁をし、その上に乗っかるというところだった。しかし今回の侵攻に関しては、そうした財閥からも異論が出てきている。これは異例なことだ。

 そして小規模ではあるものの、反政府デモも起きている。当面は血みどろにしてでも押さえつけようとするだろうし、彼を止めることは難しい。もう、プーチン氏を止められるのはロシア人しかいないと思う。遅かれ早かれプーチン体制というのは終わりに向かうだろうし、それは選挙によらない政治体制である以上、クーデターのような終わり方になるのではないか。今回の侵攻で、それが早まるのではないかという気がしている」(遠藤氏)。(『ABEMA Prime』より)

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