元絶対王者を相手に終始劣勢の中、最後まで諦めない気持ちを見せたウクライナ人ファイター。意識朦朧となって崩れ落ち、レフェリーストップによる壮絶なTKO負けを喫するも、試合後には祖国の窮状のなかで参戦し、最後まで諦めなかった対戦相手の勇気を称えた元王者が、自身の勝ち名乗りそっちのけで突如、ウクライナ国旗を要求。ヒザを突き合わせて肩にかけ、真摯な眼差しで敬意を示した振る舞いに対して視聴者から「感動した」「美しい」「紳士的だ」など多くの反響が寄せられた。
3月11日にシンガポールで開催されたONE Championship「ONE: LIGHTS OUT」でマーティン・ニューイェン (ベトナム / オーストラリア)とキリル・ゴロベッツ(ウクライナ)が対戦。試合は3ラウンド2分18秒、猛攻を受けながらも勝負を諦めなかったゴロベッツをレフェリーストップによるTKOで下したニューイェンが自身3年ぶりとなる復活勝利を飾った。
かつてはONEを代表する絶対王者であるニューイェン。しかし、直近は2度のTKOによる連敗中で3年間も勝ちに見放されている。「もはや全盛期はすぎた」「時代は終わった」などの声が聞かれる中、再起をかけた重要な一戦となる。一方、今回がONEデビュー戦のウクライナ人ファイターであるゴロベッツは、本国で11勝1敗の戦績。現在ロシアによる侵攻によって激しい戦場と化しているウクライナ第2の都市ハリコフの団体を拠点に戦ってきた。
1ラウンド序盤、独特のスタンスからサイドキックを繰り出すゴロベッツに対し、ニューイェンは距離をとって様子をうかがいながら落ち着いた立ち上がりを見せる。ゴロベッツのテイクダウンにも落ち着いて対処したニューイェンは、ヒザの連打や離れ際のパンチなどで徐々にペースを握ると、左を当てヒザ、さらにボディを叩き込むなど、自身のペースでこのラウンドを終える。
2ラウンドに入ると「昔のニューイェンだ」といった声が聞かれるなか、ボディへの鋭い打撃でゴロベッツの足を止める。打撃の一つひとつが重く、もはや実力差は明らかだ。ラウンド後半にはパンチが効いたか、ゴロベッツが背中を見せる場面も。容赦ないニューイェンの猛攻、さらに背走気味のゴロベッツという構図に対して「もう終わりだ」「止めろ!」といった声が多くなっていく。しかしゴロベッツは、一度こそヒザを着きながらも、諦めずにこのラウンドを乗り切ってみせる。
最終3ラウンド、旗色が悪いゴロベッツが果敢に元王者に対峙していく。すでに息は切れ、的確なカーフキックに体のバランスを崩されながらも必死の反撃を試みるゴロベッツ。しかし、鋭いボディが入るたび実況席からは悲鳴にも似た絶叫が。ついには無慈悲なボディにうめき声を上げ、座り込んでしまったゴロベッツ。もはやここまでと思われたが、試合を諦めることはしない。
そんなゴロベッツの姿勢にABEMAの視聴者からは「しんどい。けど頑張ってる」「もう動けない」「止めてあげて」など複雑な反応が。解説を務めた大沢ケンジや仙三も揃って「止めた方がいい」と声をあげるなか、左の強烈なボディから顔面への連打を被弾したゴロベッツがたまらずに座り込むと、ここでレフェリーが割って入り試合を止めた。
元王者の貫禄、実力を遺憾なく発揮し、ゴロベッツを圧倒したニューイェンにとって、この白星はじつに3年ぶりとなる勝利だった。ようやく長いトンネルから抜け出し、大喜びするかと思いきや、その目は敗れたゴロベッツに。自らの勝ち名乗りそっちのけで突如、対戦相手の国旗を要求すると、ヒザを突き合わせて握手を求めながら、セコンドが差し出したウクライナ国旗をゴロベッツの肩へ。そして、力強く真っすぐな眼差しを向けると、母国が苦境の中でリングに上がり、勇気を示した相手に言葉を投げかけて敬意を示した。
その後の勝利者インタビューでも多くは語らなかったニューイェン。そんな元王者が見せた粋な振る舞いに対して、視聴者からは「感動した」「男らしい」「紳士的」「美しい」などの声が、一方、ゴロベッツに対しては「よく頑張った」「負けたけどいい選手だった」など、元王者に果敢に挑んだことに対する労いのコメントが並んだ。