国際的ハッカー集団のアノニマス(Anonymous)が、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国営放送や映像配信サービスをハッキングしたとTwitterで発表。『AnonymousTV』というアカウントは「現段階でこの紛争を止める最も平和的な方法は、ロシアの皆さんが立ち上がり、プーチンを追放することだ」と指摘している。
サイバー攻撃に詳しく、アノニマスについても当初から調査してきたSBテクノロジーのセキュリティーリサーチャーの辻伸弘氏は次のように話す。
「まず、日本の巨大ネット掲示板では投稿者の多くが“名無しさん”となっているが、海外の掲示板ではそれが“アノニマス”になっている。そうした中で自分たちの主義・主張に沿って“これに反対しよう、集まろう”という感じで集まってくる、緩やかな集団だ。だからリーダー不在、メンバー不確定だ。責任者というよりも“音頭を取っている”人がいるだけ、今日は参加した人が明日も参加しているかどうかは分からない、というようなイメージだ。だから全員がハッカーというわけではないし、“中にはハッカーもいる”と考えればいい。もちろん、日本人もいるだろう。
だからこそ一枚岩ではなく、逆に“親ロシア派”も少なからず存在していて、対ウクライナの攻撃リストを共有している人も中にはいる。また、複数ある広報的なアカウントについても、誰かの“こういうことができた”と報告を拡散する“広報アカウント”というだけで、別にリーダーや中心人物が投稿しているわけではない」(辻氏)。
アノニマスに関する情報をブログにまとめるなどの活動を行ってきた辻氏自身、アノニマスに攻撃されたことがあるという。
「その年は日本のイルカ漁に反対する立場からの攻撃が多く、日本の行政機関や安倍晋三さんのサイトがダウンさせられた。僕が“こういうところをターゲットにしていた”といったことをまとめているのが目に留まってしまい、“お前は俺らのことをストーキングしている”と。しかもFBIのような機関の者ではないかと疑われ。自分のウェブサイトがダウンした。ただこのときは僕が使っているサーバ業者から、アクセスが多すぎる、さらに増えると他のサイトにも影響が出るので遮断したということだった。後に攻撃をしたデンマーク人がデンマーク警察に逮捕された」(辻氏)。
こうしたことから、今回アノニマスの“戦果”とみられている事象も、実際のところどこまでがアノニマスのサイバー攻撃によるものなのかは不明確なのだという。
「今回もDDoS攻撃という大量のアクセスによって様々なサイトを見られなくしていたが、ロシアのサーバを経由してアクセスすると見ることができたサイトもあったので、実はロシア側が国外からのアクセス遮断していただけ、というオチのものもあった。
また、商品を販売している企業のサイトであればダメージはあると思うが、安全に関わるような情報を発信しているところ以外、行政機関のサイトがダウンすることの影響はそれほど大きくないと思う。このように、実際はダウンさせていなくても“ダウンさせた”と主張することで“アノニマスが頑張ったぞ”と皆が騒いでくれるという側面もある。問題意識を多くの人に知ってもらうという意味では、目的は達成されているということだ」(辻氏)。
一方、ロシアの通信規制当局は11日、Facebookに続きInstagramへのアクセスも遮断すると発表。すでにTikTokやNetflixがサービスを停止していることから、ロシア国民が西側諸国の情報に接触する機会が奪われてしまうとの懸念もある。
「逮捕はされないかもしれないが、アノニマスが行っていることは完全に違法行為で、日本の法律に当てはめれば不正アクセス禁止法違反、あるいは刑法の威力業務妨害罪にあたる場合もある。劇場型だし、“ダークヒーロー”のように盛り上がっているが、過去には10代の逮捕者も出ているし、サイバー攻撃に参加することはやめていただきたい。
一方で、アノニマス=悪とは決めつけられない部分もある。過去には『Operation Safe Winter』といって、ホームレスに毛布を配ろうというオペレーションもあった。今回で言えば、過去にトルコで行っていたように、ロシア国内から国外に向けて情報を安全に発信する手段の提供、逆に国外の情報を受け取るための支援を行ってはどうだろうかと思う。
最近ではTwitterがダークウェブ上にアクセスできるようにしたし、実はロシアでは安全に外のインターネットを閲覧するためのTorというブラウザーがそれなりにポピュラーだ。こうしたサービスの使い方やマニュアルを共有するといった取り組みなら平和的で、かつ合法的ではないか」(辻氏)。
米イェール大学助教授で半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏は「ハッカーやハプニングアーティストといった人たちは、何が善で何が悪なのか自体を考え直させたり再定義したりするのが仕事という部分もある。違法かどうかは議論できても、善なのか悪なのかという議論にはそんなに意味がない気がしているし、そういう議論している時点で彼らの手のひらの上、ということではないか。
また、もう“人類みな名無し”みたいな状況もあるので、アノニマスがやったのかどうかを確定させるのも難しい。むしろアノニマスのノウハウやツールを世界を良くする方向に使うにはどうしたらいいかということを考える方が重要ではないか」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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