ロシアによるウクライナ侵攻が先行き不透明な中、プーチン大統領を止めるカギを握っているとみられているのが、輸出入額で最大の貿易相手国である中国だ。
アメリカのブリンケン国務長官は「具体的にどう動くかは言わないが、我々は(ロシアへの支援を)黙って見過ごすようなことはしない」と中国を牽制。一方、中国外務省の趙立堅副報道局長は「中国への制裁に動けば反撃する」と対決姿勢も見せている。
ロシア、アメリカ、そしてウクライナの間に揺れる中国の今について、現代ビジネス編集次長の近藤大介氏と、元朝日新聞台北市局長の野嶋剛氏に話を聞いた。
■ロシアの侵攻に“大いなる誤算”
現状について近藤氏は「中国とロシアのちょっとした溝、意見の相違が生じ始めていると感じる」と話す。
「2月4日、プーチン大統領が北京で習近平主席と会談を行った。“今日から平和の祭典であるオリンピック・パラリンピックが始まるんだから、その期間中は戦争をするなよ”と言った習主席に対し、プーチン大統領は“中国はロシアにとって最も重要な戦略的パートナーだ”と答えたので、中国側としては約束をしたものと解釈したようだ。しかし北京オリンピックが閉幕した翌日の21日、プーチン大統領がウクライナに対する宣戦布告の演説をし、24日に侵攻を開始してしまった。
25日には両首脳の電話会談が行われているが、そこでは習主席とのプーチン大統領との間で“パラリンピックをどうしてくれるんだ”“数日で終わることなんだ”というやりとりがあったのではないかと推測する。中国としても一旦は矛を収めたのだろうが、ウクライナの抵抗が激しく、今に至るまで戦闘が続いている。国際社会の世論や制裁も厳しい。ロシアにとっても中国にとっても誤算だったのではないか。中国の世論も沸騰していて、“ウクライナを助けよう”という運動さえ起こっている。このままでは、プーチン大統領の刎頸の友だという習主席はどうなんだ、という話になってくる」。
野嶋氏も「このままロシアとくっついていてはヤバいんじゃないかと思い始めているという印象だ」と話す。
「ここ数年、アメリカが中国に対して非常に厳しい姿勢を取ってきたこと、そしてロシアとの関係も良くないということから、中国とロシアが手を組んで、アメリカ、あるいは西側と対抗していこうというムードがあった。その盛り上げのピークとして、北京での習近平・プーチン会談が行われた。しかし中国としては、ロシアのウクライナ侵攻がこれほど大規模なものになるとは思っていなかったのだろう。戦前・戦後を通して、これほど大義名分や正義のないむちゃくちゃな戦争の発動はそうない。
私たちは中国について、対外的にアグレッシブで乱暴な国だという印象を持っているし、事実、習主席の体勢になってからはそういう部分が出てきているが、元々は他国の内政には不干渉の立場を取ってきたし、アメリカなどには与しない、小さな国の権利も守らないといけないということも言ってきた。にもかかわらず、パートナーとして仲良くしているロシアがウクライナの主権を踏みにじる行為を行っている。これは中国にとっては格好悪い。
プーチン大統領の想定通り、あっという間にキエフを陥落させて傀儡政権を作る、民間人の被害もあまり生まれないというならまだしも、これほどロシアが悪者になってしまえば、中国としても支え続けられない。アメリカのCIA長官が先週、“習近平氏は動揺している”と指摘した。これは一種の情報戦、揺さぶりだろうが、やはり北京での会談、電話会談、そしてその後の中国当局のスタンスも、徐々にロシア寄りから中立へと軸足を移してきていると思う」。
■ウクライナとの経済関係も捨てがたい?
とはいえ、このままプーチン政権が崩壊するのを見過ごすわけにはいかない、しかもウクライナも助けたい、という事情もあるようだ。
近藤氏は「親欧米の人物がロシアの大統領になってしまえば、中国にとって最悪だ。やはり実利も取りたい。ロシアは国土面積が世界最大、1億5000万人の市場でもある。マクドナルドやサムスンが撤退した今、中国にとっては大チャンスだ。実際、自動車メーカーもどんどん進出しているし、携帯電話の売れ行きも戦争が始まってから3倍だ。SWIFTというが国際間銀行間決済でドルを利用させないということになったので、それなら人民元決済でどうかという話もしている。一方で、ウクライナには国有企業中心の“52社同盟”というのがあって、ここ数年は年間約20億ドル(2000億円)もの巨額のインフラ投資を続けてきた。今回の侵攻で壊れたインフラも、中国企業が直すことになるのではないか」と説明する。
野嶋氏は「やはりウクライナがこれほどまでに破壊されているのは惜しいという気持ちを持っているのではないか。もともとウクライナは旧ソ連の中でも軍事産業が盛んで、1991年の独立以降、職を失ってしまった技術者や専門家を中国が引き寄せ、軍事力の近代化、アップデートを図っていった。ウクライナ側としても当然、中国は良い商売相手だった。ところが2010年頃になると、中国がウクライナから学ぶ段階は終わりを告げた。
その頃タイミング良く出てきたのが、“一帯一路”構想だ。ウクライナはユーラシア大陸から見ればヨーロッパの入り口に位置しているので、ここをガチッと抑えておけば、行きは中国製品を運び、帰りはヨーロッパの食料庫であるウクライナの穀物を運んでくる。やはり今でも両国はウィンウィンの関係にある。その意味では、もともと親中国家だったウクライナという財産と、対米関係上のパートナーシップだったロシアとの板挟みになっているのが今の中国だ」と指摘した。
■両国の仲介が習近平主席の“ベストシナリオ”
今後の中国の動きについて、両氏はどのように見ているのか。また、台湾への侵攻の可能性はあるのだろうか。
近藤氏は「中国は16日から、“発展途上大国外交”という新しい外交政策を始めていて、習主席がインドネシアのジョコ大統領と電話会談を行い、“ウクライナ問題で一致していこうではないか”という話をしているが、首都移転を目指すインドネシアは中国からお金がほしいという事情がある。あるいは月末に王毅外相が2年前に戦争をしたインドに行く予定になっているが、これもウクライナ問題で一致団結して、仲良くしていこうよということだ。おそらく次はブラジルだろう。つまり、“世界には他にも国があるだろう”ということで、発展途上にある大きな国をまとめていくというものだ」と話す。
「一方、台湾問題については、この発展途上国外交をやりながら状況を見ていくことになると思う。このタイミングで台湾に侵攻すれば、ロシアと同じじゃないかということになってしまうし、今年後半に予定されている共産党大会を無事に終わらせたい。“レガシー”はそこからの5年で作ろうということで、今はじっと力を蓄え、最善策を模索していくと思う」。
野嶋氏は「中国にとっての“ベストシナリオ”は、ロシアとウクライナの仲介役になることだ。習主席は今年の党大会で、前例のない3期目に入ることを目指しているが、党内には色々な反発もあるし、アピールポイントもない。そこが今の弱点だ。ここで両国の仲を取り持って戦争を終わらせ、ロードマップのようなものを示すことができれば、大きなレガシーになる。しかしそれはアメリカが認めないし、“今までロシアに加担していたのに何をやっているんだ”と国際社会から袋叩きに遭うリスクもある。針の穴に糸を通すような作業で、非常に難しいだろう」とコメント。
「そして台湾についてだが、今、“今日のウクライナは明日の台湾”という言葉が流行るくらい、台湾の人たちは中国の侵攻を恐れている。ウクライナとロシアは歴史的にも一体で、ロシア人とウクライナ人は同じなんだとプーチンは言っているわけだが、中国もまた、台湾は歴史的に自分たちの領土で、中国人と台湾人は一緒なんだと言っている。しかしウクライナと台湾が異なるのは、台湾海峡という海があることだ。上陸作戦というのは難しく、簡単に地上部隊は入れない。その点は良かったと人々は言い合っている。それでも台湾の人々がどう思っていようが、いつか手に入れるんだというのは、一種の信仰だ。プーチン大統領のように、中国の指導者が“やる”と決めたらやってしまうのだろう」。(『ABEMA Prime』より)
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