地元愛知が生んだ将棋界のスター棋士に、活躍中のアイドルも驚くばかりだ。アイドルグループSKE48のメンバーであり、将棋好きとしても知られる鎌田菜月は、2021年度も大活躍した藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)の活躍ぶりを日々チェック。昨年8月にはタイトル戦の一つ、叡王戦五番勝負の第3局、第4局が愛知県名古屋市で行われ、豊島将之九段(31)との「愛知出身対決」になったことも大いに喜んだ。「すごかったですね。愛知県の名前がたくさんニュースでも出ましたし。『将棋のまち』というのは全国にもあると思いますが、愛知もそういう形で盛り上がってくれるといいですね」と、期待はさらに膨らむ。3月16日には、新たに名古屋対局場(仮称)が新設されることが発表されたばかりだ。現在は最多の五冠まで保持する藤井竜王だが、将棋の記録だけでなく様々な経済効果までもたらしている。愛知の将棋ファンを代表して、鎌田に現地の盛り上がりや最近の将棋界についての印象も含めて聞いた。
今年度も、藤井竜王の快挙で沸いた地元愛知。鎌田は一つ、残念に思っていることがある。「号外がゲットできなかったんです!それが悔しくて(笑)」。竜王戦七番勝負で、豊島九段をストレートで下し竜王位を奪取、最年少での五冠を達成した際、名古屋駅では号外が配られた。「配っていたのは知っていたんですが、そのタイミングで名古屋駅に行けなくて。五冠の時は絶対に出ると思っていましたから」。過去にも快挙達成の際に号外は出たが、その時も手にすることはできず、今度こそはと思っていただけに、苦笑いするのも無理はない。
ただ盛り上がりの熱量は、日々感じている。愛知対決となった叡王戦では、藤井竜王の活躍とともに、豊島九段にもスポットライトが当たった。「藤井先生だけじゃないんだ!みたいなことをSNSとかで発信している人は、めちゃくちゃいましたね。私自身、藤井先生の人気もわかるけど、豊島先生ももっと見てほしいと思いましたし、そういった方の熱量はすごく感じました」と、一人のスターの誕生が他の棋士の注目度も上げるという好循環が生まれている。
藤井竜王の活躍は、周囲のいろいろなものを有名にしていく。代表的なのが、対局の合間の食事とおやつだ。特におやつは、かわいいものから渋いものまで、バラエティー豊か。それがSNSで拡散し、メディアに取り上げられるとなると、途端に売り切れ続出となる。「もなかとか、結構渋いチョイスもされますよね。かわいいスイーツとかは、ギャップな感じ。将棋だけ見ていると、どこまでも隙がなくて正解をたたき出しているイメージですけど、プライベートのお話をインタビューでされていて、料理は全くできないとか、そういうところは人間味を感じますよね」と、微笑ましいポイントもある。2社とCM契約もし、経済効果も実に大きなもの。「いろいろなところを盛り上げてくれる存在に、これからもっとなるんでしょうね」と、今後も活躍の場を広げることに期待が止まらない。
プロデビューは14歳2カ月。それが今年の7月では20歳。取材時の受け答えにも、余裕やユーモアを感じさせるものが増えてきた。「よくお話しされるようになりましたよね。『今、富士山何合目ですか』という質問に、『森林限界』という言葉を使われてみたり。そういう伝説のようなものが、どんどん増えていくのかと思うと楽しみです」。藤井竜王と言えば、「望外」「僥倖」といった日常会話では使い慣れない言葉で答えたことが話題になり、今では棋士たちも勝因を聞かれて「望外の結果です」と答えることも増えている。
ファン、メディアともにまもなく始まる2022年度には、前人未到の八冠独占に関する話題が増えていく。鎌田も「八冠は、現状ならいつかあるのかなと正直思っています」と素直に語ったが、別の期待・楽しみもある。周囲の棋士たちの奮起だ。王将戦七番勝負でストレート負けを喫した渡辺明名人(棋王、37)も、「ストップ・藤井」の1番手になることは変わらない。「藤井先生との対局のインタビューを見ても、素直に自分の弱みをおっしゃっています。年齢やキャリアを重ねられても、その分まだ伸びしろがあるように思えて、底が見えない気がするんですよね」。また藤井竜王の研究パートナーでもある永瀬拓矢王座(29)にも注目する。「永瀬先生と藤井先生は、お互いのことをリスペクトしているのがよくわかるので、微笑ましく見ているファンの人も多いんじゃないでしょうか。天才って孤立することが多い中で、今の将棋界はいろいろなところをオープンに見せてくれますから。他にも藤井先生に追いつけない、異次元だと言っている先生たちも『対藤井だ!』という気持ちが絶対にあると思うので、盛り返してくれることを期待しています」。
8タイトルのうち5つを保持し、いよいよ本格的な「藤井時代」が到来したという声も増え続ける中、やはり将棋界として盛り上がるには、完全なる一強よりもライバルたちとの切磋琢磨が必要。鎌田が見たいのは、さらにレベルアップする藤井竜王と、それに負けじと成長する棋士たちとの、熱い対局の数々だ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)