1ドル121〜122円台だった円相場が、28日午後6時ごろ、6年7ヵ月ぶりに125円台をつけた。
発端はアメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が記録的なインフレの抑制に向け、政策金利の引き上げを決定。市場では「日米の金利差が広がる」との見方が広がり、ドルを買って円を売る動きが進んでいた。さらに28日、長期の金利上昇を抑える目的で日本銀行が実施した、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指値オペ」の“副作用”により、円安がさらに進むこととなった。
折からのウクライナ情勢を受け、世界的に原油や小麦など原材料の価格が高騰、コロナ禍による輸送コストの上昇もあいまって、日本国内では4月から様々な商品の値上げが決定している。与野党からはこれに連動した輸入物価の上昇や景気悪化を懸念する声が相次いでいるが、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は「為替については想定内だ」と話す。
「単純に日米の金融政策の差の問題で、アメリカはめちゃめちゃ景気が良くて経済が過熱しちゃっているので冷まさなきゃいけない。一方、日本は経済が冷え込んでいるので金融引き締めどころじゃなく、本当はもっと金融緩和したいんだけど、できない。そこで相対的にドルが買われているということだ。過去を振り返ってみても、アメリカが金融引き締めを行うと為替レートは120円台を超えてくるものなので、私としては現状にあまり違和感はない。
むしろ本質的な問題は、円安よりも原油や穀物の原材料がめちゃめちゃ上昇していることで、輸入物価はすでに前年比で3割~4割増くらいになっている。その意味では、そこまで円安を抑えるべきなのか、という疑問もある。また、ウクライナ問題も関係していて、29日夜には停戦協議の報道を受け、1ドル120円近くまで下がった。やはり交渉が前向き進み、遠くない将来にロシアへの経済制裁が緩むのではないかとの思惑からだ。原油価格についても1バレル100ドルを割っている。
そして、この円安のことを“日本売り”のように言う人もいるが、それは大きな間違いだと思う。本当に日本売りなら株価も下がるはずだが、今は円安による輸出関連企業の収益の期待から上がっている。“国債の信任”を言う人もいるが、これも先週、格付け会社のフィッチが日本の国債見通しを格上げしている。やはり無理やり円高に持っていくのではなく、原材料価格で上がっているところをいかにエネルギー効率によって下げるか、あるいは補助金で抑え込む。そうした政策が必要なのではないか」。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「自分自身の資産運用を考えると、これまでは金利が下がっていたので株を買っていたが、今後のことも踏まえると、このタイミングではドル建て債券の買い増しをせざるを得ないし、円を持つ意味がないと、日本に住んでいる私ですら思う。なんとか金利を上げる方向を考えないと、この傾向は止まらないんじゃないか。また、円安になると海外での売上が大きくなるので、短期的には過去最高益も出やすくなる。それが株高にも繋がるわけだが、この状態が続くことがいいのかどうか。実際、社員の給料にも反映されていない」と指摘する。
永濱氏は「円高だと海外の輸入品が安く入ってきてしまい、国内の生産品が駆逐されていってしまうとういうマイナスがある。それが円安になると逆に輸入品が高くなるので、必然的に国産品の消費のウエイトが増えていく。そういう意味でのプラスはある。これからの経済安全保障を考えても、やはり戦略物資はできるだけ国内に持っておかなきゃいけない。そうなると、単に円安を円高にした方がいいかというと、必ずしもそうではない。
穀物についても、2007〜2008年にも今回のような穀物高があったが、パンや麺類が値上がりした結果、みんなの消費が米や米粉に移り、日本の食糧自給率が上がって農家にプラスに効いた部分もあった。岸田政権は経済行動を変える方向性で経済対策に乗り出すと言っているが、そういう方向に持って行けば、必ずしも乗り越えられないことではないのではないか。
もちろん、ロシアやウクライナが供給していたエネルギーや穀物が滞るので、代替できるオーストラリアは豪ドルがものすごく上がるなど、恩恵を受けている。しかし日本のように、エネルギーや穀物を海外依存していた国はダメージが大きい。そういった意味での所得の移動というのは世界的に起こるだろう。アメリカの場合、いざとなればシェールガスを増やせるし、広大な土地で穀物も作れる。だからこそウクライナの影響を受けないという意味でのドル高もある。そういう意味ではリバランスが起きるだろう」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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