国内の火事や事件・事故ばかりの日本のテレビ…ウクライナ以外の紛争や人道危機も見て見ぬふり?
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 テレビが連日にわたり報じているウクライナ情勢。しかし人道危機とされる問題は他にもある。

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 例えば反政府武装組織との戦闘が8年経った今も止まないイエメン紛争では、昨年末までに約37万7000人が死亡、約500万人が栄養失調の状態にあるとの推計もある。また、周辺国との紛争や内戦を抱えるコンゴでは、これまでに540万人を超える犠牲者が出ているとされる。

 中東やアフリカだけではない。国軍がクーデターを起こし政権を率いるアウンサン・スー・チー氏が拘束されたミャンマーでは、民主派に対する弾圧の手は緩められる気配はない。

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 こうした問題が、ウクライナ情勢と同様に報じられないのは、いったい何故なのだろうか。国際報道の分析や改善促進を行う研究機関「GNV」編集長も務める大阪大学大学院のヴァージル・ホーキンス教授は「やはり日本のメディアは基本的に世界の紛争について、見て見ぬふりをするばかりだ。今回、ウクライナ侵攻がこれだけ取り上げられているという意味では一歩前進だ。ただ、“なぜウクライナか”ということだ」と指摘する。

■「報道されないから知らない。知らないから遠いと感じる」

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 理由として考えられるのは、「アフリカの話は遠すぎる」「日本との利害関係から考えれば、ウクライナ偏重も仕方ない」といった理由だろうか。ホーキンス氏は次のように話す。

 「物理的な距離で言うなら、ウクライナだって十分遠い。つまりこれは、心理的な距離の問題で、そこには肌の色や経済状況の違いも含まれているのだろう。実際、貧しい黒人の問題は報道に値しないという暗黙の了解のようなものがあると思う。実際、アフリカは国際報道の中でも2〜3%だ。欧米でも6~9%ぐらいのレベルだが、日本はよりひどい。新聞でも0.2〜0.3%くらいではないか。

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 また、利害関係の問題だが、例えばコバルトが無ければ電気自動車も携帯電話もパソコンも動かないことになるが、その産出量の40%はコンゴだ。戦争が起きていても入手できているし、人命はどうでもいいということなのだろうか。あるいは日本の石油の4割近くが、人道危機を引き起こしているイエメン政府軍を支援するサウジアラビアから来ている。だから反政府勢力は、サウジアラビアの石油施設に攻撃を仕掛けている。日本の石油が狙われていると言ってもいい問題をスルーするのは、やはりサウジアラビアの機嫌を損なってはいけない、あるいはサウジアラビアをロシアのように悪者扱いしてしまうと、仲良くしてきた日本としては都合が悪い、というところがあるからではないか。

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 そもそもメディアは人の関心を掴まえるものというよりも、関心を作るものだ。イエメンに関してはアメリカを始め、複数の国が関わっているし、シリアやイラクの現地映像も、それこそYouTubeなど、色々なところにアップされている。ただ拾われていないだけだ。ウクライナ問題も、これだけ取り上げられているからこそ関心が湧いているのだろうし、プーチンについても過去20年間にわたって報道されてきたこそ知っている、だから関心が持てる、というサイクルがあるのだと思う。やはり報道されないから知らない。知らないから遠いと感じる、ということなのではないか」。

■「日本のメディアは英語のできる記者自体が少ない」

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 こうした指摘に対し、慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は映画に例えて「いわばプーチン大統領は知名度の高い、主役級の俳優だ。それが悪役の主人公を務める作品だから、これは観客を動員できる、単館ではなく全国のシネコンで上映するにふさわしい作品だ、と考えられているということだろう。逆に言えば、アフリカや中東の問題は、無名の俳優、売り出し中の俳優しか出ていないドラマをゴールデンタイムに流すようなもの。それでも勇気を持って放送するよう変わっていけばいい」と説明すると、ホーキンス氏は「ゼレンスキー大統領は“善”の役だ。まさにエンタメの一種になっている」と応じた。

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 また、慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「経済規模で見れば世界第3位の国なのに、日本は国際報道が極めて少ない。ものすごくドメスティックな人もいるアメリカだが、それでもCNNが24時間放送をしている。しかし日本では地方の火事や交通事故が取り上げられることの方が国際報道よりも多い。あるいはイギリスのBBCは世界中に特派員がいるが、日本のメディアは英語のできる記者自体が少ない」と指摘。

 その上で、「イエメンやコンゴの問題とウクライナの問題が違うのは、核兵器を保有する常任理事国の正規軍が、人口4000万人の国に堂々と攻め入ったというインパクトがあることではないか。しかも各国がどうしていいか分からず、21世紀の世界平和がウクライナ国民の抵抗にかかっているような状況だ。そう考えると、国際情勢に疎い日本のメディアですらこれだけ取り上げているくらい、影響の甚大な問題だ、と捉えた方が良いのかもしれない。

 それでも日本の民放的なビジネスでは、啓蒙的なものはできない。アメリカの場合、ケーブルテレビが主流ということもあってチャンネル数が多く、ニュース専門チャンネルもある。このスタジオ(テレビ朝日内)で言うのもなんだけど、電波は余っているにも関わらず、民放は“競争が激しくなるから”と言って新しいテレビ局への許認可を徹底的に阻止してきた。その結果がこうだ、という側面もあるのではないか」。

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 ホーキンス氏は「テレビ報道の中で国際報道が占める割合はスポーツ報道の半分くらいの約10%で、とても重要視しているとは言えない。欧米でも決して多いわけではないが、それでも日本の1.5〜2倍は国際報道をやっている。日本ではニュースがどんどんエンタメ化しているし、報道に責任はないのか、それでいいのか、と思う」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)

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