「圧倒的な“片思い”。アイスブレイクに半分以上の時間を費やした」…安倍政権の北方領土の返還交渉、成功の可能性はあったのか?
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 外務省が3月31日、自民党に2022年版の外交青書の原案を示した。そこでは北方領土について「日本固有の領土であるが、現在、ロシアに不法占拠されている」と明記、表現としては「不法占拠」が2003年版以来、「日本固有の領土」が2011年版以来の復活となった。

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 この間、第1次を含めると通算で3188日間にわたり政権を担ったのが安倍晋三元総理だ。両国にとって長年の懸案事項だった北方領土問題に力を注ぎ、2016年の会談では、日本がロシアに3000億円規模の経済協力を行うことで合意、北方領土での“共同経済活動”も視野に入ってきた。

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 そして2018年、「戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく私とプーチン大統領の手で終止符を打つ」として、従来の“4島一括返還”(国後島、択捉島、歯舞群島、色丹島)路線を変更、1956年の日ソ共同宣言に沿った“2島先行返還”(歯舞群島と色丹島)で議論を進めることになっていた。

 ところがロシアによるウクライナ侵略を受けて、今後の領土交渉の展望が見通せない中、外交青書の原案ではロシア側への配慮がにじんだ表現を一転させ、日本の主権を強調させた形となった。

■安倍さんの圧倒的な“片思い”だったと思う

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 テレビ朝日政治部の官邸キャップとして安倍政権を取材してきた吉野真太郎デスクは次のように振り返る。

 「終戦時、北方領土にいた1万8000人の日本人は進軍してきたソ連軍に追っ払われてしまったが、ご存命の方もいらっしゃる。その方々にとっては、やっぱり故郷の島だし、帰りたいという思いもある。そこに決着を付けるのが政治の役割だ。そして、北方領土問題を解決してから“第2次世界大戦が終わりました。今後日本とロシアは戦争しませんよね”という平和条約を結びましょうという順番で話をしていた。

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 日本としては、北方領土も含めた経済圏を作ってビジネスをガンガンしようと考えた。そうなれば帰属の問題も矮小化できるのではないかと。もともと北方領土は北海道に比べれば豊かじゃないはずなので、ロシアにもメリットがあるでしょう?と。それはプーチンさんとしても乗りたい。ただ、“島を返して欲しい“と言われて“いいよ”という人はロシアにはほとんどいない。

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 実際、今や北方領土には1万8000人のロシア人が住んでいる。それを返してくれというのは、まさにウクライナのドンバス地方のような話になる。しかし戦後70年以上にわたって返ってこなかった事実が100年間も続けば、いよいよ返ってこないことになるぞ、じゃあラストチャンスだということで、安倍さんはいろいろな資源を注ぎ込み、開かない口を開けに行ったわけだ。

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 その意味では、NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で北条義時が"フラれてからが勝負だ"と言われるシーンがあるが、まさにそんなところがある。プーチンさんの口がなかなか開かないというのは安倍さんも知っていて、じゃあ押しの一手だ、情に訴えるしかない、というところだった。その意味では、圧倒的な“片思い”だったと思う」。

■「最終的にはHPが足りなかった」

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 立憲民主党の小川淳也政調会長は24日、「安倍政権以降、2島返還論に目がくらんで、ずいぶんロシアに対して甘い対応を取ってなかったか?と」と指摘。杉尾秀哉参議院議員も28日、「プーチン大統領を増長させて、まさにこれ日本の経済協力って無駄金だったんじゃないか」と批判している。

 吉野デスクは説明する。

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 「よく言われる3000億円の経済援助も、日ロ関係を好転させていくための一つのテクニックだった。あるいはロシアに対して先端医療のようなものを支援する枠組みもそうだ。しかし、どうしても安全保障の問題が障害になった。安倍さんとプーチンさんの間では、“晋三、2島は返す。ただし米軍基地は置かないだろうな?”という話があったのではないか。日本としてはアメリカとの同盟関係がある以上、それに対する解を示すことができず、安倍さんは“いや、俺を信じてくれ。置かないよ。でも後で聞いてみるね”と言うことしかできなかったと思う。それがタイムオーバーになってしまったということだ。

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 私は安倍政権を9年間くらい見てきたが、基本的には外交で作ったエネルギー、得点で国内政治を突破するという“ビジネスモデル”だった。ロシアについては、当初4島から行って、それを2島に条件を下げていくアプローチの仕方だったが、それを立案するまでに政権の半分以上の時間を使っていたと思う。20回以上の会談も、最初は氷を溶かすための戦いだった。しかし2015、2016年頃になって話せるようになるようになった頃には国内では森友・加計問題が出てきて、政権の体力が弱くなり、苦しい時期に入っていた。日ロ関係については、最終的にはHP(ヒットポイント)が足りなかったということだ」。(『ABEMA Prime』より)

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