ブルース・ウィリスが事実上の引退を表明した。なぜ彼はこのような決断をしたのか。
【映像】“じゃこ”を見て「いぬ」「くり」…YouTube「失語症チャンネル」動画
先月30日、娘で女優のルーマー・ウィリスは自身のSNSに「父ブルース・ウィリスは失語症と診断された」と投稿。認知機能に問題が出たため、第一線から退いたことを明かした。
失語症とは脳卒中などが原因で起きる脳の機能障害だ。話す、聞く、理解する、書く、読む、計算するなどがスムーズにできなくなり、人によって症状は多岐にわたる。
加藤俊樹さんも失語症に向き合ってきた一人だ。約10年前、加藤さんは脳出血の後遺症により失語症と診断された。言葉がスムーズに出てこないため、現在も話す・読む・書くことに苦労する日々を送っている。
ニュース番組『ABEMA Prime』に出演した加藤さんは「(失語症になって)すべてが遅くなった。何かを考えるとか、何をやってもそうだし、読むこともかなり遅くなった。普通の人の5倍〜10倍になることがほとんどだと思う」と話す。
加藤さんの場合、単語自体は間違えたり出なかったりするが、日本語の文法構造で間違えることは少ないという。
「言いたいことを言葉にすることに時間がかかる。伝えるときにどうすればいいのか。疲れも関係してくるので、たくさん話した後は、家に帰ったらすぐに寝たくなってしまう。トレーニングを行って最初の6カ月〜1年で変わることもあるが、2〜3年以上になるとそんなに(症状は)変わらなかった」
例えば“りんご”という言葉を忘れたとして、周りから「りんごだよ」と言われたときに、加藤さんは理解できるのだろうか。
「物自体は忘れていない。伝え方がわからないだけなので『あれですね』ぐらいは言える。自分の中ではわかっている」
「日本人が他の言語を学習しているときの状態に近いのか?」と聞かれると、加藤さんは「似ているかもしれない」と答えた。また、加藤さんの場合、漢字よりもひらがなのほうが理解に苦労するという。
「読めなくても漢字を見て『あれだ』と、パッとわかる。ひらがなで全部書いてあったら、わからない言葉を一個一個検索しなきゃいけなくなるので、長い文だと最初のいくつかだけで言葉を覚えていられない。何が書いてあったか、言葉を調べてから、もう一回読まないといけなくなる。ひらがなだけだと、そういう状態になりやすくなる。漢字は音読ができなくても、形で意味を覚えていることがある」
失語症を抱える多くの人が“理解”に関する障害も併せ持っている。加藤さんの妻で言語聴覚士の資格を持つ米谷瑞恵氏は「読んだり書いたりすることが特に苦手になる。長い文章が読めない。映画も洋画だと字幕に追いつけないので、観られない」とコメント。
「うちの夫はかなり軽度な状態だった。重症度は人によって違う。脳が損傷したダメージの大きさや、広さなどによって、本当に一生一言も喋れないまま人も中にはいらっしゃる。ご家族は本当に大変だと思う。苦しそうにしていても、どこが痛いのか言えないので、本人から何かを発信することがすごく難しい」
脳出血で倒れる前から、カメラ関係の会社で仕事をしている加藤さん。倒れてからも自身で写真を撮ったり、病院などで外出した際には写真展やギャラリーに行ったりするという。
復職時、加藤さんは自身の“取扱説明書”を用意した。これは、米谷さんのアイデアだった。この“トリセツ”は「会社の全員にメールで送った」といい、現在はバージョン8になっている。
失語症の患者を支える家族対象に、日本失語症協議会が発表した「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」では、「本人の思いを推測する」ことにストレスを感じている人は247人だった(対象者432人 ※複数回答あり)。
米谷さんは「夫は特に読む、書くが苦手。少し複雑な文章は必ず『読んで』と持ってくる。例えば、公的なワクチン接種の書類が届いたときに、どこを読めばいいのかわからなかったり、予約が1人でできなかったりする。支える人のサポートは、同じ失語症のご家族同士で情報交換をするのが一番だと思う。もしくは少し離れて、失語症の方のサポートをできる人が1日代わってあげられたらいい。一人暮らしで失語症を抱えている人は、本当に大変だと思う」と話す。
失語症を抱える人の中には、外出に制限をかけてしまう傾向もあるが、加藤さんは「人と会うことが嫌にはならなかった」と話す。
「最初からすごいラッキーなことばっかりだった。だから、今ここにいられると思う。なぜか分からないが、もともと外出に制限をかけることがなかった。ちょっと脳がハッピーになっただけ。会社に復帰するまでに時間がかかったし、普通、人と会う機会はなかなかないが、僕の場合は写真展に行けば写真家と会えたり、ギャラリーに行けば誰かいるので、自由に人と会えた。知り合いの写真家がギャラリーにいると『最近どうしてるの?』という感じで声をかけてくれる」
「みんなやさしい方ばっかり」と笑顔を見せる加藤さんに、米谷さんは「中にはそこでうまく話せなくなったことで、引っ込み思案になってしまう方も大勢いらっしゃる」と補足。「この人(加藤さん)の場合は別にへっちゃらだったので、へっちゃらに外出していた」という。
その上で、米谷さんは「特に男性で『できないからお願いします』と言うことが苦手な人がいらっしゃる。ただ、やっぱり言葉は双方向なので、歩み寄って『わからないから教えて』と言えば、周りは歩み寄ってくれる。それが言えるかどうかで、失語症の人の生活のしやすさは変わると思う」と述べた。
今は、文字を読み上げてくれる支援ソフトやアプリ、周りに気づいてもらうためのヘルプマークなどのツールもある。外見からは困っていることがイメージしにくい失語症だが、当事者や支援者は、日々苦労や努力を積み重ねている。(『ABEMA Prime』より)
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