文部科学省が先月、各都道府県の教育委員会に向けて“ある通知”を出した。朝日新聞などによると、この通知は新任教員が採用後の10年目までに、特別支援学校や小中学校の特別支援学級で複数年教える経験を積むよう求めたものだという。円滑な授業や学校運営につなげる狙いで、障害者教育などの経験者を増やし「2024年度からの実施を促す」としている。
【映像】「やっぱり教育現場はそうなんだね、と…」危惧する現役教員(取材の様子)
この要請について、現役の公立高校教師・斉藤ひでみさんは「意義のある取り組みだ」と話す。
「特別支援学校ではありませんでしたが、僕自身、配慮がとても必要な子たちの学校に勤務していたことがあります。普通の学校ですと1クラス35人~40人ですが、15人のクラスでみないといけないくらいの学校で勤務していました。そのときの経験は今、全日制の普通科の高校に来ても生徒に触れ合う中で、ものすごく生きています」
さまざまな事情を抱えた少人数のクラスでは、1人1人に合った教育を行え、教員としても将来に役立つ経験を積めるという。一方で、今回の文科省の要請には、別の問題が大きく影響しているのではないかと斉藤さんは指摘する。
文科省によると、全国の特別支援学校に在籍する子どもは2021年度でおよそ14万6300人で、2011年度の1.2倍に。特別支援学級はおよそ32万6500人で2.1倍と急増している。この現実に先月、末松信介文部科学大臣も「近年、特別支援教育を必要とする児童生徒数の増加で教室不足が生じている」と言及。教室を増やす取り組みを行っているが、問題の解決には至っていない。
斉藤さんによると、そもそも特別支援学校や学級は臨時的任用教員の割合が高く「特別支援教育を専門に学んだ教員が足りていないのではないか」と“人員不足”の問題を指摘する。
「本来、人員が足りていないのであれば、新たにお金を出して、ちゃんと免許を持った教員を雇わないといけない。結局、これまで行政が繰り返してきた教育の中で、お金をかけないで何とかやりくりしようとしている。そういった悪いところが出てきている」
近年、残業や部活動といった教員現場の在り方が問題視されている中、今回の要請について、斉藤さんは「さらなる負担に繋がる可能性がある」と言及する。
「教員の側としても負担が大きいですし、そういった(特別支援の)教育をちゃんと受けていない先生方が勤めることは、子どもたちにとっても決していいことではないのではないかと思います。1年、2年で先生がどんどん出ていって、ひっきりなしに先生が入れ代わることが起きると特別支援学校も混乱してしまいます」
まず、大切なのは、教員が前向きに取り組める“仕組み作り”だという斉藤さん。今回の要請が与える影響について、こう危惧する。
「教員不足は特別支援学校以外でも起きていて、教員倍率がどんどん低下しています。コロナ禍で不安定な時代になって、またなおさら落ちてきていますから。先生が持つ本来の専門性ではなく、人が足りていないところに半ば命令のような形で、もしかしたらやりたくない仕事をしている先生もいるかもしれません。一層若者が、教育業界に愛想をつかしてしまうことも考えられます」
(『ABEMAヒルズ』より)