ウクライナの惨状、子どもにどこまで触れさせる? 夏野剛氏「ネットで調べられる時代、変に隠すことには意味がない。テレビの“ぼかし”も、かえって想像をかきたてている」
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 ウクライナから届くむごたらしい現実。真偽不明のものも含め、それらの画像や映像はマスメディアだけでなく、SNSで瞬時に拡散され、子どもたちにも伝わることになる。

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 現状について数千人に及ぶ3歳〜12歳の子どもと関わってきたという教育家の小川大介氏は「僕も高校生になったばかりの息子を持つ父親として、何を話したらいいのかざわざわしている。強烈な映像や情報を子どもに渡した場合、心に深刻なダメージが残ってしまう危険性があることを理解しておく必要がある。子どもの状態をしっかり考え、合理的な配慮をすることが大切だ」と訴える。

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 「まず、年齢に応じて対応を分けてあげてほしい。例えば発達心理学の世界では、小学4年生くらいになると複雑で抽象的な内容が理解できるようになるという、“9歳の壁”と言われる考え方がある。だから5歳や8歳の子どもたちに遺体の写真や建物が崩れる映像だけを見せても分からないし、言葉の理解で補っていけないので、怖さや痛みだけが強烈に残ることになる。そこは生々しい映像ではなくて、例えば絵本、あるいは辛い、苦しいという親の悲しそうな表情を見せるという知恵もある。

 また戦闘が終わったとしても、5年、10年とかけて平和を作り直すことが続いていく。つまり子どもたちの世代に渡っていく出来事の入り口にいるということだ。その意味では、今起きていることを、今この瞬間に子どもに伝えるのは違う。一連の出来事の意味を彼らなりに考えて世界を繋いでいくためには、例えば5年後に伝える、ということがあってもいい。また、東日本大震災の時にも使命感を持ってボランティア活動をしていた人がPTSDになった事例が多く報告されている。本人が知りたいと思ったからだとしても、話し合っている途中で苦しそうな表情を浮かべたら話を止めるという配慮だ」。

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 では、子どもが質問をしてきたらどう応じるのだろうか。小川氏は「本当に質問の答えを欲しがっているのかどうかは見極めないといけない」と話す。

 「子どもの多くは、“安心させて”“大丈夫と言って”とメッセージを求めていることが多い。僕自身も安心が欲しいが、僕は仲間たちと話すことができる。だから子どもの問いに対して理屈を答えるのではなく、まず大丈夫なんだと。あなたは私の子どもとして、温かい気持ちを持っていていいということを渡す。その上で、段階に応じた説明をする。このステップを間違えないことは大事だと思う。

 そして、“あなたは子どものままでいていい”というメッセージを根っこに置くことだ。子どもだからこそ、大変なことが起きている、自分たちも何かしないといけないのではないかと悩む。大人たちも世界を平和な方向に向けようと頑張っている、だからあなたたちは子どものままでいていいということを前提にしてあげることだ」。

 また、戦争を語るのではなく、平和を語ることが大事で、そこを間違えてはいけないと思う。ローマ教皇が来日された時、“平和とは、戦争がないことを意味するのではなく、絶えず建設されるべきものだ”とスピーチした。戦争が終わったからといって平和にはならない。それはみんなで作っていくものだ。この悲劇を教材とするのであれば、平和を学び、考え、自分に何ができるのかを話し合う。その観点に立てば、未来に繋がっていく」。

■夏野氏「どんなに平和について考えていても、攻め込まれてしまえば終わりだという現実を突きつけられている」

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 一方、アメリカ出身のお笑い芸人パックンは「80年近く戦争が無く、敵を殺した自衛官もいない日本では考えづらいことかもしれないが、アメリカは最近までアフガニスタンで戦争をしていたし、父親が外国で敵を殺したという子どももいる。僕が生まれた頃はまだ徴兵制度もあった。そういう国でも考え方は同じなのだろうか。僕は子どものうちになんでも伝えておく方がいいと思う。大きくなって“お父さんやお母さんが隠していた事実があったんだ”という方がショッキングではないか」と疑問を投げかける。実際、当事国であるウクライナの親たちも、子どもへの伝え方に頭を悩ませているようだ。

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 小川氏は「ロシアとウクライナにおいても、誰もが人を殺めたり、傷付けたりしたいと思っているわけではない。自分自身の家族を守るために仕方なく武器を手にしている人の方が圧倒的に多いはずだ。大変な役割を担って世界のバランスを決めてきたアメリカも、避けざるを得なかった部分がある。現実には起きていることだが、それが5年後、10年後もOKだとは思っていないと伝え、“人を殺さなくても平和を作っていける世界を生み出していってほしい。できると信じたいし、あなたたちの世代はできると思う”と平和を語り続けることだ」との見方を示す。

 そして「プーチンが攻め込んだ。そしてウクライナの方々を何人も殺している。この事実は悪だ。しかし、だからプーチンは悪だというのはちょっと違うと思う。気を付けないといけない。歴史的な検証の中で、その時は必要だと思ったことが後で間違いだったということもある。だから大人同士の会話で善悪の問題になった場合でも、行為に対しては悪だ。でも、その人がどうかについては私は会っていないし、話をしていないから分からないという答え方をする。

 怒りや憎しみは爆発的な力を生んでくれるが、温かな信頼関係や幸福感、喜びを求めたいという心の方が何年、何十年とかけて培っていく時にははるかに力を持つ。敵、味方と分けることで目先の安心は得られるかもしれない。しかしその人たちとも繋がった平和な世界を作ることを考えれば、“黒いもの”として遠ざけていては結びつけ直すためのエネルギーがさらに大きく必要になることを分かっておくことだ」。

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 こうした小川氏の主張に対し、近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「平和が大事だと思っていない人がいるので、今このような状態になっている」と反論する。

 「難しい問題だが、社会が複雑化して、どんなに平和について考えていても、攻め込まれてしまえば終わりだという現実を見せつけられているし、もしロシアが北海道に攻め込んできたらどうしようもないわけだ。それでも平和を標榜しないともっと酷いことになるという中で、大人も解決できないでいる。だからこそ子どものうちに、“大人になったときにどうなるんだ”ということを考えるきっかけになればいいと思う。だから僕はあえて“この状況に本当に愕然としている、このままでは世界もお前達も大丈夫じゃない”と伝えている。

 そして僕が感じているのは、裸の王様は怖いな、ということだ。今のプーチンさんがこんなバカげたことをやっている背景には、都合のいい情報しか上がっていないからだという説がある。歴史上、独裁的な国家ではこういうことが何度も起きているし、それは企業でも同じだと思う。僕は子どもにはそういう観点で話している。

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 だからこそ、ありのまま感じてもらうしかない。戦後、平和な日本においては『戦争を知らない子どもたち』という歌が流行ったり、“戦争を記憶に残そう”と言われたりしてきたが、もうそれどころではない。まさにリアルタイムで戦争が伝わってきているし、関心があればネットで情報を調べられる時代だ。変に隠すことには意味がない。

 例えばおじいちゃんが亡くなったときに遺体と対面しても、子どもはそんなに怖がらない。もちろん強制的に見せることはしなくていいし、嫌なら目を背けると思う。その意味では、テレビが映像にぼかしを入れていることも、かえって現実よりも凄惨なことが起こっていると想像させている感じがしないだろうか」。

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 実業家のハヤカワ五味氏も「学校の授業で平和について扱った時に“暴力をふるうなんてよくない、話し合って解決しよう”みたいな話ばかりが出ていたというツイートを見かけたが、むしろ“そういう意見を言わなきゃいけない”みたいな空気になることもあると思う。そもそも、話し合って解決できていないからこそ今の状況があるわけで、取り扱える年齢であるにも関わらず、なんとなく“話し合っていこうね”と言ってなんとなく包み隠してしまうのはちょっと違うのかなと思った」と指摘した。

 小川氏は「私は“話し合えばいいよね”とは一切言っていない。平和を作るためにじゃ武力は必要だし、外交努力は必要だし、経済的関係性も必要だし、語学を学ぶことでコミュニケーション力を高めることも必要だ。話し合えば分かるよねと勝手に相手に期待する、それを平和だという受け取り方から、能動的な受け取り方に変わらなければいけないし、それは僕たち大人たちにとって待ったなしだという意味でお話ししている」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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