“お客様は神様”文化から、従業員を守る姿勢を示す時代に…厚労省も対策に乗り出す「カスハラ」問題
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 今年2月に厚生労働省が策定した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」。暴力を振るう客に対しては一定の距離を保って通報すべし、威嚇・脅迫をしてくる客に対しては安全確保を優先すべし…など、いわゆる“カスハラ”対策を扱ったものだ。

 背景には流通業やサービス業の従事者の約7割が“被害を受けたことがある”と回答するほどの実情がある。調査したUAゼンセン流通部門の安藤賢太副事務局長は「中にはカスハラが原因で辞めてしまったり、精神疾患になり大変な思いをした人もいる」と話す。

■やっぱり日本は「お客様は神様」だから…?

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 近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「やはり日本はお客様に優しい国なので、我慢してしまう従業員が多いと思う。つい2週間前にも、空港で航空会社の方に執拗に絡んでいるおやじがいた。子どもには見せたくない、気分が悪くなる光景だった。“申し訳ございません。善処するようにします”と繰り返していたが、“いい加減にしろよバカ野郎!”って言えばいいのにと思ったし、もう乗らなければいいじゃん、と思った」と憤る。

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 一方、パックンは「アメリカでは、“お客様は神様”ではない。お客様はお客様で、お店の人はお店の人なので、互いに気に入らなければケンカになる。コンビニの窓に“当店は失礼な人は入店お断りです。ご了承ください”みたいな紙を貼り、最初に姿勢を示しているので、日本よりもカスハラへの対処もしやすいと思う。その代わりに、アメリカではカスタマーサービスが日本ほどしっかりしていない。例えばクレーマーがサポートセンターに電話をすると、たらい回しにされたり、電話に出なかったりする。日本がそんなふうになってしまって、まともなクレームやまともな苦情も受け付けなくなったとしたら、それはもったいないなと思う」と指摘した。

■企業には「従業員をいかに守るのか」が求められる

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 関西大学社会学部の池内裕教授氏は「例えばカフェでいちゃもんつけているおじさんがいると、日本人は目を背けがちだが、アメリカ人は舌打ちをするような態度を見せることも多い。そういうことも違いかもしれない」とした上で、次のように話す。

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 「私はクレームの研究をしているので、スーパーマーケットで男性客に絡まれて非常に苦労されている様子を見て、“どうされたのですか?”という感じで割って入ったことがある。最初は私に対しても攻撃的だったが、同情するような姿勢を見せると収まっていき、最後は店員さんと和解して、良い気持ちで帰っていかれた。危険も伴うので必ずしも推奨はしないけれど、第三者が遠巻きに見るだけでなく、勇気を持って上手く介入することで解決する場合もあるということだ。

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 また、厚労省のマニュアルに書いてあることは“最大公約数”で、自由度が残されている。やはり業態・業種によって悪質クレーム、カスハラとされるラインは変わってくるので、指針は企業ベースで設けることが望ましい。クレーム・カスハラには一次対応が本当に重要だが、指針があればその場で判断もしやすくなる。最近では訴訟を見越して保険会社が企業向け商品も用意している。そうなるケースもあるし、企業が体制をとることは従業員の安心につながる。

 やはり従業員にとって最も辛いこととして耳にするのは、お客様から色々言われることよりも、上司や企業が自分の話に聞く耳を持ってくれないことだ。もちろんお客様も大切だが、その前に従業員をいかに守るのか。その姿勢を示すことが重要だと思う」。

■在宅ワークでクレーム対応は辛いだろうなと思った

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 ビジネス管理ツールを提供するヌーラボでは、「パワハラ防止法」が施行された2020年6月、「身体的な攻撃、精神的な攻撃などがあった場合、サポート停止の措置を行うことがある」とカスハラへの対応指針を明文化した。

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 同社の橋本正徳社長は「コロナ禍で在宅ワークを導入する際、サポート担当者が自分の部屋で過大な要求やクレームに対応するというのは大変だろうな、辛いだろうなと思った。自分の部屋なのに"入りたくない感覚"になってしまったら嫌だなと思った。ハラスメントにまで至ったケースはゼロに近かったが、コロナ禍でストレスフルになり、カスハラが増えているという報道もあったので、先んじて対応しようと思った。延々と対応するのはコスト的にもったいないし、何も利益を生み出さない」と話す。

 「この指針によって、言葉遣いの荒い方が、ちょっと丸くなったということがあった。大多数のお客様はハラスメントとは全く無縁の人だし、こちらが正義を盾にやりすぎになってはいけない。お客様に対しては丁寧に対応していて、今のところサポートの満足度は80%以上をキープしているが、定点観測を続けて、こちら側がわがままにならないようにしないといけないと思っている」。

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 前出の池内教授も「橋本さんの指摘は重要だ。それまでは普通のお客様だったのが、何かのNGワードをきっかけで着火してヒートアップしてし、カスハラ化してしまうケースもある。対応する側も慎重に対応をしないといけないということだ」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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