「ジハード主義、過激ナショナリスト、Qアノン運動の陰謀論者はみな共通している。非常に洗練された勧誘手法や洗脳で、誰もが持つ心のすき間に入り込んでいく。SNSはもちろん、マッチングアプリやオンラインゲームなども利用し近づいてくる。私たちは誰もが組織に取り込まれ、過激化する可能性があるのだ」。
近年、過激思想や陰謀論に基づくグループの存在が世界で注目を集めている。ユリア・エブナー氏はテクノロジー企業や大学と連携、プロパガンダやフェイク情報、陰謀論 の監視を行う英ISD(戦略対話研究所、ロンドン)の上席研究員で、テロ攻撃を未然に防ぐため自ら囮調査に従事した経験を持つ。
これまで実に12の過激派組織に潜入、その成果を『GOING DARK』(邦題『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』、左右社刊))にまとめたエブナー氏に、『ABEMA Prime』が話を聞いた。
■“身バレ”や、感情移入しそうになる恐怖も…
まず、ISDと自身の役割についてエブナー氏は「過激派の組織や思想を研究、政治家や国の情報当局に提言を行うシンクタンクで、同時に人々を脱出させるためのシンクタンクでもある。私は実際に組織に参加することで、どのようなモチベーションがあるのかを見てきた」と説明する。
「潜入には、事前の準備が非常に重要だ。偽のアバター、アカウントを作るなどし、ソーシャルメディアなどを通して、組織内部で使われている様々な言葉も研究した。また、どんなモチベーションがあってその組織に入りたいのか、そうしたことを話さなければいけないので、大学でも色々なことを学び、数カ月にわたってアイデンティティを作り上げる。潜入の結果、人々がイデオロギーを強化されていく、そのプロセスを知ることになった。やはり社会的な運動であり、カウンターカルチャーの要素があるため、多くのメンバーが組織に留まりたいという思いを持っていた」。
その過程においては、“身バレ”の危機にも遭遇した。
「最も長いものでは、2年半にわたり2つのコミュニティに入り込んだ。まず、陰謀論を唱えるQアノンだ。当初は小さい組織だったが、今は世界的な組織になり、日本にも影響を与えている。そして、ドイツの選挙にも影響を与えたネオナチのトロール軍団だ。当時、ヨーロッパでも非常に大きな影響力を持ち、1万人規模のメンバーを抱えて反民主的な活動を展開していた。なんとか自分のアイデンティティを隠そうと必死で、常にリスクも認識していたが、やはり殺すぞと脅されたり、性的な脅しを受けたりしたこともあるし、疑われて追い出されたこともある」。
逆に、自分が過激思想にハマってしまう恐怖に駆られたこともあると話す。
「言わば感情移入しそうになることもあった。過激派組織の人々も人間なので、友達になることもある。いかに過激な思想を持っていたとしても、暴力に傾いたとしても、という思いを抱き、対話する中で、自分自身が過激思想に染まるのではないかと恐怖を覚えた。いずれにしろ、人間には弱いところがあるので、私たち全員が過激思想に染まってしまう危険があるということだと思う。
非常に面白いと思ったのは、IS、ネオナチ、あるいは男尊女卑のグループなど様々なイデオロギーの組織を見てきたが、共通点もある。いずれも、メンバーはアイデンティティ上の危機、それを感じている。そうした共通項があった。しばしばあることだが、自らのアイデンティティを諦め、グループのアイデンティティを持ち、グループのために暴力的な行為に走るようになってしまう人たちがいる。
これは社会心理学的な現象で、家族の問題から心が非常に傷付く経験、経済的な問題で生活を続けていくのが難しい経験、難民になるような経験している人たちは、新しいアイデンティティを模索しがちだ。過激派組織というのは、そうしたことで孤独感を抱いた人を利用し、オンラインなどを通して自らのコミュニティに引き込んでいく傾向がある。過激派組織の活動を妨げるためには、そうした点を見ていく必要があると思う」。
一方、近年では過激思想を持つ人たちのプロファイリングが困難になってきているようだ。
「社会的、経済的なバックグラウンドが多様になってきていて、Ph.D.、つまり博士号を取得している人、良い仕事に就いている人もいる。教育レベルの高い人がグローバリゼーションの危機を感じて陰謀論や極右思想に惹かれることもあるし、伝統的には男性が中心的だったのが、多様なリクルートが行われており、多くの女性が参加するようになってきた。これは非常に危険なことだし、若い世代を引き込んで、組織がさらに強力になっていくのではないかと考えている。伝統的な過激主義ではなく、新型コロナウイルスに関するグループも出てきているし、テロリズムを覆い隠した、姿の見えないようなグループも存在している」。
■ゲームやアニメ、日本文化なども利用し、新人勧誘をしている
ジャーナリストの常岡浩介氏は、ISの取材の中で知り合った司令官と撮影した写真が宣伝に使われてしまった経験があるという。
「ISには世界中からいろんな民族のメンバーが集まっているんだという内容のポスターだが、その中に日本人もいるということで、私の写真が使われた。中には首を切られるとまずいということで一緒に撮った人の写真や、全くISとは関係ない人までが仲間であるかのように捏造・利用されている。やはり取材のために接触しようとすれば、どんな形であれ宣伝に使われてしまう。
私の場合、ロシアの宣伝をする人間に使われたこともあるし、ベラルーシの国営ニュースで使われたこともある。しかも、ロシアの野党党首が殺された事件について、その主要な容疑者として私の名前が挙がったこともあった。ウクライナ東部でチェチェン人を率いて戦っている中隊長だという、全く事実とは異なるニュースが、レガシーなロシアメディアに出てしまっている」。
その上で常岡氏は「私は現在、国に旅券を奪われているのでどこにも行けない。そもそも日本では、取材内容によっては外務省や公安警察から追い回されることになる。その点、イギリスの捜査当局や情報機関との協力関係はどうなっているのだろうか」と尋ねた。
エブナー氏は「私は警察や治安当局、情報当局と協力して仕事をしてきた。それは潜入調査をしている間もそうだ。確かに誤解され、疑いを持たれることはあったが、治安当局にとっても必要な情報を提供できることがあるし、私は国家や国際社会の安全保障を脅かす存在ではないということを明確にしている」と回答。
さらにウクライナ侵攻を続けるロシアについては「ロシアのプロパガンダについては私も調査をしている。ロシア政府はヨーロッパの不安定化のため、自分たちの価値観とは異なる国々、組織を狙っている。ヨーロッパにはプーチン大統領を美化するようなグループもあるし、未来にとって危険な要素になり得る」と指摘、日本に対しても警鐘を鳴らした。
「やはり気候変動を否定する人たち、そしてコロナを否定する人たち、ウクライナを否定する人たちには共通項がある。それは、情報戦争の中で、科学の信頼性を貶めようとしているという共通点があると思う。そして、日本でもそれは変わらない。様々な組織が不満や恐怖心などを利用し、イデオロギーを吹き込んでくる。ゲームやアニメ、日本文化なども利用し、新人勧誘をしている」。(『ABEMA Prime』より)
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