「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁
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 2021年10月、甲府市で起こった放火殺人事件により夫婦2人が亡くなった。当時、逮捕された19歳少年の名前は非公開とされた。

【映像】放火殺人事件が起こった住宅街(現場の様子)

 しかし、8日、検察は「重大事案で社会に与える影響が深刻」だとして今月1日に施行された改正少年法の「特定少年」として名前を公表。一部の18歳、19歳において実名報道が可能になった今、実際に名前を出すかどうかはメディアの判断にゆだねられている。

 Twitterでは「凶悪犯罪なら年齢に関係なく実名報道すべき」「18歳からもう成人だから実名報道は当たり前」など、実名報道を肯定する声が上がる中、更生の足かせになり、社会復帰が難しくなるといった意見もある。

「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁

 ニュース番組「ABEMA Prime」では、検討の結果、実名報道を保留。多くのメディアが実名報道に踏み切る中、どのような影響があるのか、専門家と共に議論を行った。

 番組に出演した龍谷大学教授・犯罪学研究センター長で弁護士の石塚伸一氏は「マスメディアが競うように実名を報道している。この状況はある意味、大本営発表のようで非常に気持ちの悪い現象だ」と話す。

「重大な事件について、なぜ18歳で実名報道ができるようになったのか。これがポイントで、メディアそれぞれのスタンスが問われている。競うように名前を報道し、卒業アルバムから取ってきたような写真を使う。本当にそれでいいのか。きちんとそれぞれのメディアがジャーナリズムを持って判断すべきことだと思う」

「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁

 石塚氏の意見に、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「石塚先生としては、有罪判決が出るまで、どんな年齢でも実名も写真も出さない方がいいと思っているのか」と質問。石塚氏は「基本的にそうだ。出す意味がどこにあるのか。今回の件は、もっと政策的な配慮があったように思う。なぜ今日(8日)起訴なのか。もし3月30日に起訴していたらどうなったか」と答えた。

 石塚氏は「ここ数年は少年のときに犯した事件だとしても、死刑判決が出ると実名発表をする」と述べ、「今回の件で検察は何をしようかと思っているか。19歳少年の死刑判決を取りにいった」と指摘。「少年のときに犯された2人の死亡事件で死刑が出るかどうか。検察は判断基準の勝負に出た。検察官同一体の原則から、山梨地検だけの判断ではない。検察全体で勝負に出たわけだ」と見解を語った。

 一方で、検察が実名を出す前に、取材の中で実名にたどり着き、メディアの判断で実名を報道するケースもある。デジタルタトゥー(インターネット上に一度掲載されたテキストや写真、動画などのデータが半永久的に残ること)によって、社会復帰が阻害されないだろうか。

「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁

 石塚氏は「マスメディアが実名報道するかどうかとは別に、名前はSNSの中で皆さんご存じだろう。マスメディアが出さなくたって、サーチ(検索)をかければ分かるし、顔だって出ている。旧少年法ができたのは昭和20年代だ。新聞だけがメディアで、そこから情報を得ていた時代とは違う」とコメント。

「犯罪に対する抑止力は刑罰が持っている。ただ18歳、19歳の子にタトゥーが貼られることと、僕は68歳だが、68歳の人の名前が報じられることは違う。社会に帰ってきたとき、採用担当者は、SNSで必ず名前を調べる。18歳、19歳で(犯罪者として)新聞に出たら『仕事はありませんよ』と言われるし、クレジットカードも作れない。少年に対しては重く、長い間タトゥーが貼られるが、僕のような高齢な人間は、そのタトゥーの効果が少ない。日本の刑事司法は若い人に制裁が重くなっている」

 一方で、『ぴえんという病』の著者でライターの佐々木チワワ氏は「名前を出すか出さないか、メディアが決めている状況に違和感を覚える」と発言。

「結局、SNSでは(実名が)突き止められてしまう。『こういう理由で実名を出した』とメディア側が言ってくれるなら、視聴者は『そういうジャーナリズムを持った媒体なんだ』と思える。でも今は判断の基準が、ジャーナリズムではなく、名前を出すか出さないかが問題になっている。犯罪の抑止力にもあまりなっていないのでは」

「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁

 また、佐々木氏によると、近年ではデジタルタトゥーを逆手に取りビジネスにつなげる事例も見られるという。

「実名報道をされた歌舞伎町の若者がまた社会に出てきたときに、自分の本名をTikTokのハッシュタグにしていた。スティグマを武器にして『僕が犯人なので会いに来てください』と、それで売上を作っている。あと、3年前にホストを刺してしまった女性の本名がハッシュタグの1個にされて、海外でファンアートができてしまった事例もある」

「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁

 ひろゆき氏も「結果としてSNSで名前が流れてしまう。名前を出さないのは現実的に不可能だ」とコメント。「たまに間違えられて、全然関係ない人の名前が流れてしまうことがあるじゃないか。それに比べたら、もう最初から『実名はこれです』と全員出しちゃって、裁判が終わったあとに簡単に名前を変えられる仕組みを作った方がむしろ抑止力としてうまく働くのではないか」と投げかけた。

「競うように報道して卒業写真を使う。それでいいのか」 19歳「特定少年」実名報道から考える“デジタルタトゥー”制裁

 ひろゆき氏の提案に、慶応義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「日本は報道で関係ないのに巻き込まれた人、あとで無罪になった人のケアがとても弱い」と指摘。「本当はそういう人たちのケアもセットで考えるべきだ。メディアはもっと関心を持つ必要がある」と述べた。

 4月1日より始まった改正少年法の施行。知る権利か、特定少年のプライバシーか。犯罪抑止の効果など、あらゆる視点から今後も議論が必要だ。(「ABEMA Prime」より)

【編集部追記】11日、甲府市で去年、夫婦が殺害され住宅が全焼した事件で、検察が初の「特定少年」として起訴した被告について弁護人が、実名報道は「遺憾」だとするコメントを発表。「少年法改正の趣旨や経緯を踏まえ、少年の健全育成、更生が不当に妨げられることのないよう、少年の本人特定事項を摘示することの必要性を厳格に判断し、これを摘示するか否かを含め、本事件の報道内容及び方法を慎重にご検討いただくことを引き続き求めます」としている。

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