「僕の顔にモザイクがかかっていたら声は届かない」「今すぐやめて真っ当な道に進んで欲しい」出所した元詐欺師が、今も手を染める人たちに必死の訴え
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 警察庁の発表によると、「振り込め詐欺」をはじめとする「特殊詐欺」の被害件数が去年は4年ぶりに増加を見せ、被害額は278億円に上った。また、コロナ禍を背景に、自治体などの職員を名乗り、返金のためATMに行くように誘導、口座に振り込ませる「還付金詐欺」が相次ぐなど、詐欺や悪質商法は跡を絶たない。

 こうした犯罪に手を染める人たちは、何がきっかけで、そしてどのような思いで人からお金を奪い取っているのか。11日の『ABEMA Prime』では、2015年、知人3人とともに特殊詐欺事案の主犯として詐欺罪で逮捕、懲役5年4ヶ月の実刑判決を受けて服役、去年、刑期を満了したフナイムさん(仮名)を直撃した。

【映像】高齢者を騙したときの電話を再現するフナイムさん(16分00秒ごろ〜)

■「まずはお詫びを申し上げたい。そこから入らせていただきたい」

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 スタジオに登場するや、「私は2015年10月に詐欺罪で逮捕され、5年4カ月の懲役刑の判決を受け服役し、昨年の1月20日に仮出所をして満期を迎えた。私は被害者の方々、また被害者の家族の方々、社会の方々に多大なるご迷惑をおかけしたことを、本当に、心から反省をしている。この場をお借りして、まずはお詫びを申し上げたい。そこから入らせていただきたい。本当に申し訳ございませんでした」と頭を下げて着席したフナイムさん。

 高校を中退後、役者・芸人として生計を立てるために工場や居酒屋などで働いていたが、結婚を機に引退。必要最低限の生活は送れていたというが、“稼がないといけない”という思いから、悪質な行為に手を染めるようになっていった。

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 「“こういう営業の仕事があって、お金も稼げるから、入ったらどう?”と友人に言われた。それが悪徳商法だった。そして、それがだんだん詐欺に向かっていった。最初は未公開株や転換社債の取引だったが、詐欺だという認識は無かった。そのうち、未公開株や転換社債が廃れていき、“売り上げ”、つまり被害金額が少なくなっていった。

 そんなとき、“こういうスキームがあるよ。やってみたらどう?という横のつながりからの情報が流れてきた。それが老人ホームの入居権詐欺だった。ネットを検索すると、“名簿屋さん”というのがいくらでも出てくるので、そこから訪問販売の購入者やサプリメント購入者、リフォームをされた65歳以上の方に絞って、上から電話をかけていった。“あなたには老人ホームに入居する権利がある。もし買わないなら、私たちが代わりに買うので名義だけ貸して”と言い、名義を借りるとその後で、“それは犯罪だ。しかし私たちがあなたの財産を守る”といった感じで騙す」。

■「演劇が好きだという思いを悪の道に使ってしまった」

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 芸人・役者を目指していた頃の経験も活きたようだ。「話を聞いてくれる人は、とにかく大丈夫で、騙しやすかった」と述懐する。

 「いま発している声は普通の声だが、電話で受付担当を演じる時は(声色を変えて)“お電話ありがとうございます。XX株式会社でございます”と。あるいは弁護士役を演じる時には、高齢で、権威があるように“ああ、どうもどうも。弁護士の田中と申しますが、この度は大変でしたね”と。子どもの頃は不器用で、部活でも補欠だった。でも演劇はすごく好きで、ずっとやりたいと思っていた。それを悪の道に使ってしまった」。

 それだけに、決して罪悪感が無いわけではなかったという。

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 「やっぱり初めてやった時には手が震えたし、うまく喋ることもなかった。マニュアルがあって、それをただ読むだけなのに言葉にも詰まった。相手から“詐欺なんじゃないの?”と言われて、言葉を全く返せなかった。そして、初めてお金を奪った時は本当に怖かったし、“とんでもないことをしたな”という気持ちもあった。でも何百万円というお金を受け取った時、“こんなに簡単にお金が手に入るんだ。仕事だと思ってやり続ければいい”と、自分で自分を洗脳していた。

 被害者に電話をしながら、“受け子”を被害者のところに派遣する時も同じだった。“今、うちの従業員が行きましたので”“どうも、従業員の方ですね。お金を用意しました”というやりとりが電話越しに聞こえてくる。そういう瞬間は、もう罪悪感でいっぱいだ。それでも何百万というお金を受け取った瞬間、罪悪感が一気に消える。…消していたと言った方がいい」。

■「僕の顔にモザイクがかかっていたら、声は絶対に届かない」

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 何も知らない高齢者から大金を騙し取っていくフナイムさん。もはや経済苦があったわけではないが、それでも詐欺から足を洗うことはしなかった。

 「人生=お金、世の中すべてがお金だと思うようになっていた。お金があれば良いものを着られるし、美味しい物も食べられる。女だって抱ける。電話の向こうにいる顔の見えない人間のことなんて、知ったこっちゃない。電話を切ってしまえば終わりだし、警察だって追って来られない。自分さえよければいい。そう思っていた。しかし、それは違った」。

 逮捕・服役を経験した今、カレー店で修行をしながら過ごす日々だというフナイムさん。顔出しでの番組出演を決めたのも、強い思いがあるからだ。

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 「詐欺師として、あらゆる嘘をついてきた。自分の妻や子供、家族、親戚、両親、友人に対してもそうだった。被害者の方々とは裁判で和解をし、被害弁済をすることになった。それで減刑にもなった。現状では接点が無く、連絡できず、全額弁済するまでは行ってないのが事実だ。

 しかし服役を終えた今、何かをするごとに、“僕はこういう罪を犯しました”ということを言わなければならない。だったら、今も犯罪を続けている方、あるいは被害を受けている方々の力になれるのではないかと。“レンタル元受刑者”というサービスをやっているのもその一つで、TwitterのDMで被害者・加害者、あるいはその家族の方からの相談を受け付けていて、そこで僕の持てる知識や経験をお伝えし、社会に役立てたいと思っている」。

■「今すぐやめて、真っ当な道に進んで欲しい」

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 立正大学心理学部の西田公昭教授は「犯罪に手を染めることについて一般に言われているのは、“慣れ”だ。特に詐欺はゲストがいっぱいいるので、失敗しても次の人に同じ方法を繰り返し、トレーニングができてしまう。最初は震えていてもすぐに慣れてくるだろうし、どんどん巧妙になっていくのが現実だと思う。

 一方で、被害者に関しては、“騙される方が悪い”なんていう言葉が社会に流れていることの方が問題だと思う。また、一度被害に遭えば“もう二度と”と思うはずだが、それでも二度、三度と騙されてしまう可能性が高まる。それこそ“この人は騙されるぞ”というような個人情報が流れていて、狙われやすいからだ。防備を強めるよりも、“嫌な思い出は忘れてしまいたいと思う方も多い」と指摘。

 その上で、フナイムさんの証言について、「このような話を聞くことは珍しいが、アメリカではフランク・アバグネイルという天才詐欺師が行政の側に雇われ、安全コンサルタントとして活動している。彼のことはレオナルド・ディカプリオさんが主演した『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でも描かれたので、知っている方も多いと思うが、日本の社会においても、例えば警察や消費者センターなど、詐欺対策をしているところにとって、フナイムさんが体験したようなお話というのはとても有用だろう」と話した。

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 最後にフナイムさんは、いまも犯罪に手を染めている人たちに向け「そういう僕の顔にモザイクがかかっていたら、声は絶対に届かない。だから顔を出した。僕はいろんなものを失った。今、あなたたちがやっていることは警察も必ず見ているし、捕まらないと思っていても絶対に捕まる。今すぐやめて、真っ当な道に進んで欲しい。あなたなら絶対にできるし、僕自身も実践してみせる」と呼びかけていた。(『ABEMA Prime』より)

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