「コロナ禍で厳しい状況にある子育て世帯には、重層的な支援を実施してきたところであり、さらに足元の物価高騰等に直面し、困窮する方々の生活を守るための支援にも取り組んでいく」。
19日の国会でそう訴えた岸田総理大臣。政府が総合緊急対策の柱の一つとして打ち出す方針だと報じられたのが、生活に困窮する子育て世帯に対する子ども1人当たり5万円の給付案などだ。一方、その財源について、自民党幹部は「補正予算を組むとなったら予算委員会をやることになって火だるまになる」と懸念を示し、公明党幹部も「給付については参院選前だから機動的な対応として当然やった方がいい。でも、うちも必ずしもばらまきを求めているわけではない」と話しているという。
■「国民一律10万円支給への批判、思い出していただきたい」
政府の財政審議会の委員も務める一橋大学大学院の佐藤主光教授(財政学)は「思い出していただきたいのは、2020年度、国民一律に10万円を支給したことだ。バラマキではないかという批判はあの時もあったし、困っている人はそれでも足りないが、困っていない人はお小遣いだと喜んだという問題もあった。そこで政府としても対象を絞り込むことを始めた。しかし、その“絞り込み方“がなかなか国民の納得を得られていないということだ」と話す。
「"非課税世帯”について言えば、たとえば年金収入だけの高齢者世帯は対象になってしまうが、貯蓄はあるケースがある。一方で、働いていて税金も払っているが生活は苦しいという世帯もある。そして困っているのは子育て世帯だけではない。単身、あるいは子どもが持てないでいる夫婦の世帯もある。やはり、“本当に困っている人を対象にしているのか”という批判が出てくるということだ。それでも、今の制度の枠内でやれと言われたら、この線引きしかない。
なぜかといえば、支給を行うのは、この人は税金を払っているかどうか、あるいは子どもがいるかどうかの情報を持っている地方自治体になるからだ。また、あなたには受給資格があるので申請してください、と促すアプローチもしやすい。一方、これ以外の線引きでやれと言われたら、改めて所得を申告してもらったり、貯蓄がいくらか聞き出したりしなければならない。迅速な支給ができなくなるし、嘘をつく人も出てくるかもしれない」。
■「国による情報の把握、メディアも国民も反対してきた」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「不公平だという意見が出てくるのは、やはり金融資産が捕捉されていないからだと思う。低い収入であっても親に建ててもらった家に住む地方の世帯もあれば、高い収入があっても家賃に苦しんでいる東京の世帯もある。本当であればそうした部分も把握し、そこに基づいて給付ができればいい。しかしマイナンバーもそうだが、日本では昔から国民IDのようなものに対してメディアが“監視社会になる”などと反対したために実現が難しかった。そして様々な給付や補助の制度が用意されていても、ネットで検索することができず、テレビのワイドショーしか見ていない場合、申請までにたどり着かない。結果、予算が消化されずに残るという現象まで起きてしまっているのではないか。ここをどう解消するかも重要な問題だ」と指摘。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏も「2000年前後に“国民背番号制”が議論された時、様々な個人情報をリンクして国が把握し、プッシュ型にしていくのは嫌だという世論がメディアと国民から巻き起こった。そして今回の案がそんなに悪い手だとは思わない。例えば同じ年収160万円の世帯でも、子どもがいる世帯と単身世帯では違う。あれだけ“一律はいけない”と批判していたのに、対象を絞ったらまた批判する。何でも批判すればいいものではないと思う」とコメントした。
佐藤教授も「この国の行政はすべてが“申請主義”で、自分から“くれ”と言わなければならない。その点、外国は“プッシュ型”という形になっていて、“あなたは困っている、資格がある、だからお金をあげる”と行政がアプローチしてくる。やはりそれは行政側が所得、場合によっては資産の情報を持っていて、困っている人、困っていない人、という線引きがある程度できるようになっているからだ。日本もそういうことをコロナ前にやっておくべきだった。その不作為が露呈しているということだと思う」と賛同。
その上で、「これまで、マイナンバーは納税のための所得の捕捉だから嫌だという感覚もあったと思う。もちろん、普段は所得を得ている人から税金を頂くためだ。しかし場合によっては国が助けることにも役立つインフラになる。そういうメッセージを出す機会にもなるし、それによって国民の抵抗感も和らいでいくのではないか」と訴えた。
■景気対策なのか?困窮者支援なのか?
さらに夏野氏は「これは景気対策ではなく、困窮者の救済策だ。ロシアへの経済制裁やエネルギー費用の上昇、さらに円安に伴って物価高の傾向にある中、最も影響を受けるのは食料や生活必需品の支出割合が大きい低所得世帯だ。ここに対する重点施策だということを踏まえないまま議論するのはいけない」とも指摘。
佐々木氏も「これが景気刺激策ならば国民一律に給付しても構わないし、困窮者支援策ならば、一度の10万円だけでなく、毎月3万円ずつ給付する方が助かるという場合もあるのではないか。もっと言えば、お金よりも仕事だ。景気が刺激されて企業が潤い、それによって雇用が増えて給料が増えていくという方向に持っていくことを考えた財政出動が大事だと思う。ヨーロッパやアメリカも財政出動に動いているし、単に“ばらまき”と言ってしまうからイメージが悪くなる」とした。
佐藤教授は「国民一律の10万円給付は、平均的に見ればほとんどが貯金に回ってしまっていた。もちろんコロナ禍や将来不安から支出を控えたという側面もあるだろう。しかし経済対策という観点から見れば、景気の浮揚には繋がらなかったと思う。それでも所得の低い人たちや、お金を借りるのが難しい人たちには効果があったという研究もある。つまり効果はかなりばらつきがあり、平均的に見れば効果は低かったということだろう。
アメリカの場合は人口が多いので、金額的に見れば日本の1人当たりの支出はかなりの規模だと思う。また、アメリカはトランプ政権で一律に近い形で配ったが、効果をちゃんと検証している。やはりお金を使ったのは困っている人たちで、彼らが景気を支えてくれた。一方、そうではない人たちはほとんどが貯金に回してしまい、あまり意味がなかった。そこでバイデン政権ではエビデンスに基づいて説明をし、年収で線引きをした。日本はそれがないままに、まさに景気対策なのか、困窮対策なのかが分からないままに議論が進んでしまっている面がある」。(『ABEMA Prime』より)
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