元K-1ワールドGPスーパーバンタム級王者の武居由樹(大橋)が22日、後楽園ホールで開催された「PXBフェニックスバトル87」でボクシング転向4戦目のリングに上がり、日本スーパーバンタム級16位の河村真吾(堺春木)に2回1分22秒TKO勝ち。キックからボクシングに転向して4連続KO勝利を飾った。
デビューから3試合連続初回KO勝ちの武居がまたしてもその実力を世間に知らしめた。今回の対戦相手、河村は25戦15勝8KO9敗1分の戦績で、負けは多いものの東洋太平洋王座に2度挑戦した経験を持つ粘り強いベテランだ。武居の力量をはかる上では格好の相手と言えた。
ゴングと同時に河村はガードを高く掲げながらプレッシャーをかけるボクシングで元K-1王者に向かっていった。体格差を生かして武居を押し込み、相手の強打を封じながらペースを作ろうという作戦だった。
判定勝利も頭にあったという武居は「1ラウンド目はいくつもりはなかった」との言葉通り、サイドに動きながら様子を見る静かな立ち上がり。しかし、格闘家の本能が己の肉体にゴーサインを出すまでに時間はかからない。左右に動きながら鋭いジャブを打ち始めると、左ストレート、右フックとつなげてたちまち試合をコントロール。前に出ようとする河村の勢いをあっという間に封じてしまった。
武居は2回も冷静に距離をキープしつつ、さまざまな角度からパンチを上下に散らしていく。河村は再びプレッシャーをかけようとするが、武居の動きを止めることはできない。そしてラウンド中盤、武居が飛び込むようにして右フックを叩き込むと、ちょうど右ジャブを出そうとした河村のアゴにパンチが直撃。河村は失神してキャンバスに仰向けになるという衝撃の結末となった。
「今日は4試合目で初めてボクシングという感じ。今までの3試合は格闘技という感じだった」。
試合後、大橋ジムの大橋秀行会長の口から出た言葉が武居の現在地を的確に言い表していた。キックボクシングの世界で頂点を極めた武居はボクサーとしても高い潜在能力を持つ。それは“キックボクシングのボクシング技術”だけでも、ボクシングの試合である程度勝てることを意味している。実際にデビューから3試合はすべて1ラウンドKOの圧勝だった。
ところが上を目指すとなると、やはり“ボクシングのボクシング技術”が不可欠になってくる。足技のない腕2本のボクシングだからこそのテクニックがあるし、キックボクシングと違って長丁場であることも技術の違いを生む。それこそが、武居がボクシングに転向してから八重樫東トレーナーと一貫して取り組んできたテーマだった。
この日、証明されたボクシング技術のひとつがストレート系のパンチだ。ジャブを突く、ストレートを打つはボクシングの基本。武居がこれまでの試合でジャブからていねいにボクシングを組み立てることはなかった。また、その必要もなく試合は終わった。
武居とタッグを組む元世界3階級制覇王者の八重樫トレーナーは次のように語る。
「(失神KOを呼び込んだ)右フックはもともと打てるパンチ。ただ右フックだけだと当たらなくなってくる。真っ直ぐのパンチを打てば、右フックもさらにいきてくる。ジャブを打っていこうと(1ラウンドが終わって)指示したのはそうした理由です。ボクシングは(ストレート系の)ワンツーが打てないとダメですから。スパーリングではだいぶ打てるようになってきています」
ボクシングのベーシックなところを抑えることで、武居がもともと持っている距離感やパンチ力がさらにいきてくる。ミット打ちできれいにワンツーを打つことは簡単かもしれないが、それを実戦で状況に応じて使い分けられるかはまた別の話だ。この日の武居はそれをしっかりやってのけた。元K-1王者が本格的なボクサーのホープに脱皮したのが今回の試合だったと言えるかもしれない。
武居本人も「八重樫さんと1年以上やってきて、(その成果が)だんだん動きにも出てきたのかなと思います」と手応えを感じている。豪快なKOとともに印象的だったのは、リングでの冷静で堂々とした立ち居振る舞いだ。この点を問われた武居は、当然とばかりに「リングでの経験値には自信があります」と即答した。キックと合わせてプロキャリアは29戦あるから、やはり並みのルーキーとは次元が違うのだ。
大橋会長は「最近ボクシングが本当に上手くなってきた。スパーリングではバンバン倒しているし、8オンスの試合ならこういう結果になると思っていた」と明かし、「次の試合を楽しみにしてほしい」と次戦で大きなチャンスを作る考えを示した。
大橋会長の言葉に「僕はどんな試合でもやります」と自信満々に応じた武居。スーパーホープの今後がますます楽しみになってきた。