「“専守防衛”という言葉を残してしまった」「ウクライナが侵略を受けているのに、この程度でいいのか」自衛隊元幹部が自民党の“国家安全保障戦略”提言に苦言
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 「国際的にも誤解を与えないネーミングだと思う」。26日、自民党の福田総務会長がそう評したのは、政府への提言の中に盛り込まれた、いわゆる「敵基地攻撃能力」の名称変更案「反撃能力」だ。

【映像】元自衛隊陸将と海将が「敵基地攻撃能力」めぐる議論に苦言

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 防衛費についてはNATO諸国が対GDP比2%を目標にしていることを念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化するために必要な予算水準の達成を目指すとしている。

 26日の『ABEMA Prime』では、元陸上自衛隊陸将で東部方面総監も務めた渡部悦和・渡部安全保障研究所所長と、元海上自衛隊海将で呉地方総監も務めた伊藤俊幸・金沢工業大虎ノ門大学院教授に話を聞いた。

■「“専守防衛”という言葉を残してしまった」

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 100点満点中「65点」、「まあ合格だが、良い点と残念な点の両方がある」と話す渡辺元陸将。まず“良い点”について、次のように説明した。

 「5年をめどに防衛費の対GDP比2%を達成するというものだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は“お土産はいらない。武器が欲しい”と述べたが、まさに防衛力整備はお金がないとできない。今の自衛隊が本当の“敵基地攻撃能力”、あるいは“反撃能力”を持っているかと言えば、それはかなり怪しい。その点、例えば長射程のミサイルなど、新たな防衛力整備をしようとしているところは素晴らしいと思う。

 そもそも今の自衛隊は、訓練をするのにもお金がない状態だ。燃料はない、弾がない。そういう状態で作戦を実施しなくてはいけない。持ちたい装備品も、非常に制約のある中で持たなければいけない。現場では、対GDP比2%になってもまだまだ足りないと言うと思う。それほど大変な状況だということをご理解いただきたい。

 また、提言は国家安全保障戦略を作るために出されたものだが、そこで大切なのは何が脅威かということだ。今回は、そこで“中国”だと示したことだ」

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 その一方、“残念な点”は、「“専守防衛”という、除いてもらいたい言葉を残してしまったことだ」と指摘する。

 「この極めて後ろ向きの言葉があるために、この提言は台なしになったと思う。専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けて初めて防衛力を行使するということが大前提で、それは自衛のための必要最小限に留めるというものだ。そして、保持する防衛力も自衛のための最小限に限るという、ものすごく重い限定を付けた考え方だ。今回の提言も、まさにこの概念に適した範囲の中で考えられたものだ。

 しかし専守防衛を真面目に守っていれば、戦場は日本だけになる。それはまさにロシアからロケット、ミサイルを徹底的に撃ち込まれ、施設が破壊されているウクライナのような状況になるということだ。これはどう考えても国際標準の考え方ではない。敵がミサイルを発射したならば、それを撃ち返しましょうというのが今回の考え方だが、専守防衛という言葉をまだ堅持しているからこそ、敵基地攻撃能力は、反撃能力は、といった議論が出てくるのだと思う。

 私は日本に普通の国家、国際標準の安全保障体制のある国家になってもらいたいが、今カモがネギを背負った“カモネギ国家”だ」。

■「いかにも“やっているぞ”と見せた提言に他ならない」

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 一方、共産党の志位委員長は「これまで敵基地攻撃能力の“保有の検討”だったのが、“保有する”という結論に持っていこうという動きだ。それは憲法9条との関係上、決定的な矛盾が起こってくる」と指摘している。

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 伊藤元海将は「軍事の専門家として言えば、今回の提言は60点ぐらいだ」と苦笑しつつ、次のように説明した。

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 「分かりやすく言えば、今の憲法解釈、あるいは専守防衛という考え方の枠で綺麗に整理し、議論が起きないようにした、極めてソフトな内容だ。つまり憲法解釈を何一つ変える必要がない、それをいかにも“やっているぞ”と見せたのが今回の自民党の提言に他ならない。逆に言えば、“それだけのことしか言っていない”ということだし、ウクライナが侵略を受けているのに、この程度の議論でいいのかという感覚がある。その意味では、この提言に文句を言うのは、憲法解釈を知らないということに他ならない。

 例えば敵基地攻撃は自衛の範囲内なのかという意見があるが、そもそも撃つ直前に叩くのも自衛の範疇だと、昭和31年の時点で日本政府は言い切っている。つまりやられるまで待つのではなく、相手が着手した時点で反撃をしても憲法からは逸脱していないというのが公式の解釈だ。野党の議論はそれを知らないだけの話で、そこを議論するというのなら、この昭和31年の鳩山一郎総理の“憲法上OK”という見解を否定することから始めなければならない。

 さらに言えば、これから起こり得るのは台湾有事に他ならない。今回のウクライナ侵攻を見て、習近平は間違いなく“俺はやるぞ”と決めただろう。仮に中台戦争が起きてミサイルが飛んで来る場合、国民保護はどうするのか。そういう“最悪のシナリオ”も想定し、“何をするか”をガチンコで書き込まなければダメだ」。

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 渡部元陸将も「アクティブ・ディフェンス(積極防衛)といって、普通の国が採っている考え方があるが、敵の攻撃に対して反撃をするために必要な力を持つ。そこに“必要最小限度”といった制限は加えないことが極めて大切だ。ゼレンスキー大統領以下、ウクライナ国民は敵が攻めてきたら逃げようなんていう発想ではなく、祖国防衛の意識が極めて高い。日本も内閣総理大臣以下、国民も自衛隊も、日本を防衛する意思をちゃんと持つこと、陸海空自衛隊を統合運用できる体制構築、サイバーや宇宙での戦いに備えることも必要だ」と応じた。

■「戦争なんか絶対反対なのに、“お前は戦争する気か”と言われてしまう」

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 脳科学者の茂木健一郎氏は「日本には実質的に軍隊があるのに、海外からは“机上の空論”のようなニュアンスで見られてしまう議論で無意味な時間を過ごしていると思う。9条を政治的なイシューにするのはやめて、外交的な努力をしつつ、渡部さんや伊藤さんのような、現場の視点をもとに装備を揃えていけばいいと思う。また、イギリスのMI6やアメリカのCIAのようなインテリジェンスが不足しているのも問題だ。“東大王”のようなクイズじゃなくて、知性の磨いたインテリジェンス・オフィサーを作らなくちゃダメだ」と懸念を示す。

 「そして何より感じたのは、お二人の空気感だ。不条理な考え方や議論と戦わなければならない、辛い状況でお仕事をされてきたんだろうなと思った。海外では国のために奉仕してくださった方には心から感謝するのが当たり前だ。アメリカでは、大リーグの球場で退役軍人の方に感謝するようなセレモニーもある。そういう課題も伝わってきた」。

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 ロンドンブーツ1号2号の田村淳は「“防衛費を見直した方がいいんじゃないか”とツイートをしたら大炎上したことがあるので、こういう話題は怖い。でもウクライナでああいうことが起きているし、日本に対してもどこかの国が武力を見せつけてくることが起こりうるという思いがあった。その時に、今の防衛費で本当に国を守れるのか。そこには額が多いのか少ないのかというよりも、本当に必要なものが揃っているのか、という疑問もある」と話す。

 「例えば守るための装備にはめちゃめちゃお金がかかると思う。でも、敵基地を攻撃できる装備の方が安いのであれば、見直してもいいのではないか。こういうことを言うと、“お前は戦争する気か”と言われる。戦争なんか絶対反対だ。そうではなくて、本当に専守防衛で行くためにも、より効率的な装備を持たないといけないんじゃないかということだ」。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「戦後の日本は、一貫して侵略する国にならないようにしようとしてきた。しかしウクライナ侵攻で明らかになったのは、現実に侵略される国になってしまう可能性があるということだ。その時にどうするのかという議論は、政治の世界でも、あるいはメディアの世界でもあまり行われてこなかったし、国際政治や安全保障の専門家よりも憲法学者が前面に出てきて議論をしがちだった。さらに言えば、軍事研究をしようとするとアカデミアの世界から干されるというようなことさえ起きてきた」と指摘。

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 「一方で、日本国憲法の前文では“われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う”と謳っている。要するに、日本も戦後のリベラルな国際秩序に参加し、それを守る側に立つんだということだ。アメリカが“世界の警察”という立場から撤退していく一方、ロシアや中国のような専制国家が出てきている以上、グローバル・スタンダードが好きな方であれば、むしろNATO諸国のように防衛費の対GDP比2%にするという気概を持たなければならないのではないか。でもこういう議論をすると、きっと“ネトウヨ番組”と言われてしまう(笑)」。(『ABEMA Prime』より)

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