侮辱罪の“厳罰化”案、ネットの誹謗中傷に抑止力は働く? 識者「運用次第で諸刃の剣にも」「量刑引き上げは“適正化”に過ぎない」
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 国会で審議入りした刑法改正案。「侮辱罪」の法定刑について、従来の「1日以上30日未満の拘留または1000円以上1万円未満の科料」を「1年以下の懲役か禁錮または30万円以下の罰金」とし、公訴時効についても「1年」から「3年」に延ばす“厳罰化”が盛り込まれている。

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 契機となったのは、女子プロレスラー・木村花さんの問題だ。木村さんが亡くなる前、SNSには多数の誹謗中傷の書き込みがあった一方、投稿者の特定には時間がかかり、実際に書類送検されたのは2人に過ぎず、9000円の科料だった。こうした状況に対しては“軽すぎる”と批判の声が相次いでおり、母・響子さんも「その抑止力で被害者も加害者も減らしていくことができると思っている」と厳罰化を訴えてきた。

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 一方、龍谷大学教授で弁護士の石塚伸一氏(刑事法学)は「重罰化・厳重化は諸刃の剣だ」と指摘する。

 「害悪を加える目的、ということは立証するのが難しく、検察も立件にまで持っていかないだろう。また、初犯であれば間違いなく執行猶予がつくことになる。そのことで、かえって運用そのものの信頼が失われてしまうのではないだろうか。やはりきちんと処罰されるということが重要だ。また、誹謗中傷が犯罪として重いのかどうかをきちんと議論していない、1年くらいならいいだろうという妥協案に思える。

 刑罰の効果については、対象や科学的なエビデンスを考えなければならない。法定刑を引き上げました、新たな法律を国会で作りました、それが報道されました、そのことによって一般の人々が“ああそうなのか”となる。そしてきちんと捜査が行われて捕まり、裁判で判決が出て作用することになる。あるいは“あおり運転”の場合、ドライブレコーダーが普及したことで証拠収集がしやすくなったという側面もある。

 そして社会において刑事処罰できる量というのは捜査能力と裁判の処理能力とで決まってくる。そもそも侮辱罪というのは告訴によって訴える親告罪だし、あまりにもたくさんの人が告訴してきたら、警察は対応できないだろう。結果、最初は効果が上がったように見えても、やがて緩やかな放物線を描くようなグラフになってしまう可能性がある」。

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 元警察官僚の弁護士で、現在はNPO法人「Think Kids子ども虐待・性犯罪をなくす会」代表理事の後藤啓二氏は「刑罰というものは、その行為の悪質性や被害の重大性を法的に適切に評価したものではなくてはならない。その意味では、懲役1年に引き上げるというのは“厳罰化”というよりも“適正化”に過ぎず、むしろ低いのではないかという見方もあるだろう」と話す。

 「侮辱罪の法定刑も、ネットで人の心をズタズタにしてしまったり、自殺に追い込んだりする悪質な行為であることを前提に考えなければならない。例えば遺失物横領罪、つまり落とし物をネコババした場合は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料だ。それよりも軽いというのは、どう考えてもおかしいのではないか。

 ただし、どういう行為を何年にするのか、という基準作りはものすごく時間がかかる。その観点では、今回の政府案は妥当ではないかとも思う。もちろん、石塚先生がおっしゃるように、きちんと運用がなされないとダメだというのはおっしゃる通りで、私の警察時代にもストーカー規制法の制定や飲酒運転の罰則引き上げなどがあったが、やはり効果があるのは警察の運用があるからだ。法改正があれば、警察も少なくとも2、3年は力を入れる。侮辱罪についても、政府として啓発活動を行うだろうし、効果は出ると確信はしている」。(『ABEMA Prime』より)

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