自民党の埼玉県議団が6月の議会提出に向けて骨子案を取りまとめた、「性の多様性に係る理解増進に関する条例案」。
性的指向や性自認を理由とする不当な差別の禁止、本人の承諾なしのアウティング、性的少数者であることを第三者に暴露することの禁止を盛り込んだもので、自民党が昨年、国会への提出を検討するも“女性の権利を侵害する可能性がある”といった反対の声から断念していた法案と同様の主旨となっている。
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18日の『ABEMA Prime』に出演したフリーアナウンサーの宇垣美里は「去年の法案の内容は決して満足できるものではない内容だったが、それすらも通らない国なんだと感じた。“もしかしたら問題が起きるかもしれない”ということで括ってしまうことこそが差別なのではないかという気持ちでいっぱいだ。腹立たしい」と話す。
「LGBTQ理解増進PT」の事務局長も務める渡辺大県議(自民党)は「性的少数者の人権を保護するというのは普遍的な価値だし、不合理、不都合を解消していこうとなれば、結果的に党本部の法案に似てくるのは当然だと思う」と話す。
「埼玉県では去年2月、都道府県レベルでは全国初となる大規模調査『LGBT実態調査』を行っている。それによると、回答者全体の3.3%が“性的少数者にあたる”という結果になった。埼玉県の人口は773万人なので、20万人以上の方が大きな苦しみの中で生活をされている実態があるということだ。さらに“自殺を考えたことがある”が65.8%、“生きる価値がないと感じたことがある”も60.3%と、悩みを抱えられた方が非常にたくさんいらっしゃることがわかった。
加えて、自民党の県議団としても当事者団体の方から“自殺を考えてしまうほどの苦しみの中で生きている”といったお話を聞いた。もちろん議論を重ねている状況なので当然、賛否両論はあるが、我々としては困っている人がいたら救うのが政治だ、条例制定に向けて動くべきだということで活動している」。
■八木秀次氏「この内容では拙速なのではないか」
一方、麗澤大学の八木秀次教授は「私がフジテレビの番組審議会委員を務めていた時、とんねるずのバラエティ番組の中で同性愛者を揶揄する場面があった。制作側は“差別意識はありません“として全く問題視していなかったが、私は番組審議会の中で“そういうことじゃないから”と問題にした。そういう認識の人間だということを理解いただきたい」とした上で、条例化について次のように懸念を示した。
「特に問題にしたいのは、性自認という概念が社会制度の中に落とし込まれることで様々な混乱が生じかねない懸念があることだ。性同一性障害で戸籍の性別まで変えた人たちが約1万人いるが、この人たちといわゆるトランスジェンダー、性自認、つまり自分の性別は自分で決めるんだと言っている人たちとを切り分けていかないと、女性一般の権利が侵害されかねない。
例えば去年、アメリカのロサンゼルスでサウナでは、女性専用エリアに男性器のあるトランス女性が入ってきて、子どもと来ていた客が“出ていってほしい”と咎めると、逆にお店から咎められてしまったということが起きた。トランス女性の定義がなかなかされていない中ではあるが、お店としては性自認が女性であれば女性として扱わなければならないという州法に従い、トランス女性を女性専用エリアに入れなければならなかった。ところがよくよく調べてみると、その人は公然わいせつの常習犯で、過去に2回の逮捕歴があった。ただし“自称”だったのかどうか、それは心の問題なので客観的には判断ができない。
あるいは女性刑務所に入ってきたトランス女性がレイプ事件を起こしたという事例もある。日本において同様の事態が起きるとは思えないが、海外は“揺り戻し”も起きているわけで、そうしたことを踏まえた上で、より多くの人が幸せに生きられる社会を作るためにも整理を必要する必要がある。今の条例案では“性自認によって差別をしてはならない”という立て付けになっているので、全ての場面でトランス女性を女性として扱わなければ差別となるわけだ。この内容では拙速なのではないかということだ」。
こうした意見に対し、渡辺県議は「よく言われる懸念だが、誇大広告というか、過剰な懸念点なんじゃないかと思う。もちろん過渡期であるがゆえにルールが定まり切っていないというところはあるし、これから精査していくべき問題ではあるが、すでに三重県でも同様の条例が制定されているが、実際に懸念が生じているかと言えばそうではない。不安を煽っている状況もあるのではないかと感じる」と反論する。
「条文を見ていただければ分かるが、“不当な差別的取り扱い”となっている。八木先生も同様の事例は発生しないのではないかと仰っていたが、女性の人権に対する配慮も必要だが、一方で元に人権が制約を受けている性的少数者の方々もいる。ここを持ち上げつつ、バランスを公共の福祉で取らなければいけないということだ。結局、いま指摘されているリスクというのは犯罪を犯している方々のことで、それはやってはいけないことをあえて乗り越えてきている方々だということだ。それが今回の条例によって増えるのかということだと思う」。
■夏野剛氏「埼玉県の公立高では男女別学が残っている」
ロンドンの美大に通っていたモデル・デザイナーの長谷川ミラ氏は「学生の半分以上が多種多様で、猫に性的な感情がある子もいたし、お手洗いも男女で分かれておらず、全て個室だった。ただ欧米とは環境が違うし、例えば銭湯は文化でもあるので、日本人ならではなファシリテートをしなければ難しいと思う」と指摘。
また、近畿大学情報学研究所の夏野剛所長は「性犯罪の厳罰化といったこともセットで、もっと広い視野で議論しなければいけないのではないか」と話す。
「例えば埼玉県の県立高の中でもトップ校は男子校と女子校に分かれているではないか。まずそこから直していかないといけないのではないか。戸籍上の男でなければ男子高には入れないし、女でなければ女子高に入れないということは、トランスジェンダーの人たちはどうすればいいのか。一方、東京都立高では男女別の定員決められていることで、高い点数を取ったのに入れない女子生徒がいるということも聞くし、医学部入試の問題もあった。また、今回は条例なので罰則規定は緩く、姿勢を示すという効果もあるので良いと思うが、これがアメリカの州法のようになった場合、違法とされた場合や、悪用する人のことをどうするのか、真剣に考えなければならない」。
さらに3月まで渋谷区の男女平等・ダイバーシティセンターの運営委員長を務めていたジャーナリストの堀潤氏は「条例はあくまでスタートであって、担い手として魂を込めていくのかがポイントになってくると思う」と問題提起した。
「あるNPOからこういう相談が寄せられたことがあった。男性の外見の方々が建物内を行き来しやすい状況になっているため、暴力被害を受けた女性たちが相談に行きづらいと。そういうときに対立や分断を煽るのではなく、互いに歩み寄れるような環境作りができることが重要だ。例えば湾岸エリアにあるソフトバンクの建物内のトイレは、男女で分かれていない。代わりに利用状況をリアルタイムで掲示し、他のひとが使っていないタイミングに行くことができるようになっている。そのようにして、テクノロジーも活用しながらやっていくことも求められていると思う」。
宇垣は「懸念点は分かるが、不安に苛まれていたり、差別を受けていたりしている人たちに手を差し伸べるのはすごく大切なことだと思う。一歩踏み出すことが必要だ」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)