ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授(組織行動学)が1999年に提唱、後にGoogle社が離職率や収益性との相関について調査したことで注目を集めるようになった「心理的安全性」。日本でも近年、職場においてこれをいかに担保するか、といった書籍や記事を目にする機会が増えている。
「心理的安全性アワード 2022」を開催する株式会社ZENTechの取締役で、『心理的安全性のつくりかた』の著者もある石井遼介氏は「組織やチームにおいて、地位や経験にとらわれずに誰もが率直に意見や疑問を言い合えることを心理的安全性と言っている。会議などで意見を言っても“現実的じゃないだろ”と言われてしまったりすることで諦めてしまう部分があると思うが、その“諦め”を打ち破る観点で重要な概念だ」と話す。
「コロナ禍によるリモートワークで、他の社員が何を考えているかが見えにくくなってきた。今までであれば、例えば新人が電話で話している様子を見て、“お客様とトラブルになっていそうだ”と感じることもできた。さらにDXがよく言われるように、変化が激しく、上の立場の人でも正解を知らない状況が生まれている。そこで“過去に意見を言った時に嫌な目に遭ったから”とならないようにし、テーブルの上にたくさんの意見を並べる。逆に言えば、“この場では言えないな”という人に無理やり意見を言わせようとするのは、むしろ心理的安全性が低い行動だと言える」。
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「褒め合う文化がある会社のメッセンジャーを見せてもらったことがあるが、誰かが何かを言う度に、みんなが”マジですばらしい”みたいな反応をしていた。そこまでいくと私はちょっとかったるいなと思ってしまったし(笑)、バランスが大切なのかなと思う。
ただ、心理的安全性が絶対に確保されていないといけない場面がある。それがハラスメント被害などにあった社員が告発をしようとする時だ。そこで“もっと気を付けられなかったのか”とか“誰でもそんなことは経験している”とか、“短いスカートを穿いていたからだ”と被害者を責めることが許されてしまえば、犯罪が表に出にくくなってしまう」と指摘。
これに石井氏は「さらに言えば、心理的安全性が確保されていれば、公益通報者保護制度のようなものが使われる前に、上司に対して“これはまずくないだろうか”“確かに”と改善が進むはずで、問題が表面化する、あるいは大きくなる前に“我々が間違っていたので改めよう”気付けると思う」とした。
■管理職は“弱み”を見せるところから?
「リディラバ」代表の安部敏樹氏は「良い報告よりも、ヤバい報告を早く上げられる組織の方が健全だ。そして仕事や体調が悪化してから分かるよりも、早めに“今、辛いっす”と言ってもらえたほうが、“仕事の量をちょっと減らそうか”“どうしたらいいだろうね”みたいな話ができる組織が強いと思う。だから僕も“心理的安全性”という言葉をことさらに使うことはなくても、重要視はしている」と話す。
「ただ、社内でよく使われているのを見ると、まだまだ心理的安全性が不十分なんだな、使われなくなるといいな、と感じている。やはり上の人が積極的に挑戦し、失敗している様子を見せることによって、“それでもいいんだな”といと思ってもらうことが大切だと思うし、意見を否定することはあっても、人格を否定することはない、という前提を作っておくことが必要だと思う。そして、例えば入社1日目の子にいきなり“この会社の資本政策はどうしていくべきだ”みたいな話をされても困る(笑)。そこは事前に情報やアジェンダの共有、会議の目的に適した参加者を選ぶことも必要だ」。
石井氏は「心理的安全性と聞くと、同意しているわけでもないのに“いいね”と言えることだ、というイメージで捉えられがちだ。そ本当はそうではなくて、テレビ番組で言えば“ここって視聴者からするとよく分からないよね”とか“こうしたらもっと良くなるよね”という、耳の痛いことであっても健全に衝突できるかどうかだと思う。そして、言いたいことを相手が受け止めやすいように投げること、相手も受け止めた上で“私はこう思います”、そして他の人が“この意見とこの意見をうまく組み合わせたらいけそうだよね”と言い合えることだと思う。
その意味では、“心理的柔軟性”という概念とセットで考えていただくといいと思う。この声掛けで相手はどう変わるだろうかとか、ただ凹んでしまうだけでは意味がない、という観点を持っていただくのも大切だ。一般的に、上司というのは“自分は課長なんだから、なんでもできなきゃいけない”みたいに鎧を着てしまう。しかし、“これちょっと苦手なんだけどお願いできる?と上司に頼られれば若手は嬉しい。ある意味で“弱み”を見せるところから始めるというのも、管理職の方々にはお勧めだ」。(『ABEMA Prime』より)
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