安倍元総理の“子会社”発言をどう見る?インフレ率2パーセントの達成は?…岩田規久男・前日銀副総裁に聞く
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 第2次政権で、物価上昇率2%の目標(インフレ・ターゲット)を掲げ、デフレ脱却へ向けた政策を日銀に要請した安倍元総理。

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 先月9日、大分市内での講演で「日本銀行というのは政府の子会社だから、60年の返済満期が来てこれはもう基本的には返さなければいけないが、ずっと満期60年が来たら借り換えている。返さないで借り換えていく。何回だって借り換えたって構わないわけだ」と発言、波紋を広げた。

 この発言について、5月25日の衆議院本会議で立憲民主党の重徳和彦衆議院議員は「明確に否定することはできるか」と問われた岸田総理は「一般論として、政府は日銀に対して出資はしているものの議決権はなく、日銀には日本銀行法において金融政策や業務運営の自主性が認められていることから、会社法でいうところの子会社にはあたらない」と答弁している。

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 上智大学・学習院大学名誉教授で、日銀の前副総裁でもある岩田規久男氏は「子会社という言葉が一人歩きしている感じがする。根本的なところに立ち返って、こういう言葉が飛び交うという状況を改めて欲しいと思っている」と苦笑する。 

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 「日銀が政府と協定を結ぶとき、数値目標があれば達成しなかった場合の説明責任が発生する。また、その手段については安倍さんや政府の意見は聞かず、独立して決めるという建前になっている。海外では毎年数値目標を見直している国もあるが、日本では日銀法などの枠組みができるまでは“デフレ脱却”“物価の安定”といった曖昧な言葉だけだった。

 安倍さんの言う“子会社”というのは、このように目標を一致させ、協定によって強制するという意味だと捉えればいい。一方で、黒田総裁は安倍さんが何を言おうがブレない。国会でも金融政策の分かっていない議員たちが盛んに“円安になった”とか、“アメリカの金利が上がっているから日本も上げろ”とか勝手に言っているが、それでもブレない。ここは黒田さんの偉いところだ」(岩田氏)。

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 では日銀がインフレ率2%を堅持している理由は何なのだろうか。

 「インフレでもデフレでもないのが0%ということになるが、先進国では2%を目指している国がほとんどだ。やはり金融政策で0%を維持するのが難しく、デフレになってしまう可能性があるからだ。物が売れなくなると売上高が落ち、企業が賃金を引き下げようとし始める。ところが日本の場合、正規社員の賃金はなかなか下げられないので、非正規社員の人件費を押さえようとする。

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 そこで緊縮財政や消費増税などをやってしまうとデフレになってしまうということだし、戦後にデフレになったのは世界で日本しかない。しかも30年も続いたので、脱却するのが非常に難しい。その点、インフレ率が2%ぐらいで落ち着いていると金利を引き下げる余地が十分にあって金融政策が非常にやりやすくなる。

 アベノミクスの金融緩和政策によって就職氷河期なんてものはなくなり、新卒はみんな就職し、正社員は150万人も増えた。収入も実は上がっている。ただ、その実感がないのは保険料率や税率が上がったことで可処分所得が十分に上がってないからだと思う。ただしインフレ率2%になるためには企業が銀行からお金を借りて設備投資などをしなければならないが、デフレが来たからそうなっていないというのが現状だ。金融政策で需要を増やそうとしているのに、財政政策で増税をやってしまえば需要が減ってしまう」(岩田氏)。

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 原油高に伴う物価高を受け、4月の消費者物価指数は対前年同月比で2.1%上昇している。

 「今の物価の上がり方は良いことではない。人手不足になれば良い循環が働くが、今はコストが上がることによるインフレだ。ただ、アメリカと同じように金利を上げようとすれば、ますます需要や設備投資が落ちて経済を引っ張る力がなくなり、デフレになってしまう可能性が高い。原油価格の上昇は輸出主導型の企業にとっては非常にマイナスだが、これは長期的なトレンドではなくウクライナ戦争が落ち着けば終わると考えられるので、ここは少し我慢のしどころだ。

 むしろ金融緩和による円安で輸出産業を支えている部分があるので、ここで金利を上げてはダメだ。ウクライナの情勢やコロナといった外的要因が無くなったとしても、需要不足は解消されていないと思う。だから金融政策は同じように続け、財政も黒字化を急がない。そうすれば2%のインフレに向かっていき、需要が増えて2018、19年のように人手不足になり、人件費も上昇していく。生活が大変だという人に対しては現金給付や消費税増税分の払い戻しなどのセーフティネットで対応すべきだろう」(岩田氏)。

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 政府が取りまとめる財政運営の指針「骨太の方針」で、これまで「2025年度」となっていた基礎的財政収支=プライマリーバランス(PB)の黒字化の目標年度が明記されないことが判明。この方針にも自民党内で“積極財政派”とされる安倍元総理の影響があったようだ。

 「岸田さんの“新しい資本主義”の具体策はまだ分からないが、“2025年の国と地方の基礎的財政収支の黒字化の方針を堅持する”という文章が削減されたことは素晴らしいと思う。その時点で経済が安定していてインフレ率も2%あり、成長もしている前提で“じゃあプライマリーバランスの黒字化に向けて”という話をするなら分かる。しかし、いつ何が起こるか分からないのに、ここまでに黒字化しようとして財政を緊縮にしていたら、ますますデフレ脱却できなくなり、日本はおしまいだ」(岩田氏)。(『ABEMA Prime』より)

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