札幌市議会で6日、「動物園条例」が可決・成立した。人間の管理下にある動物の尊厳、動物の福祉を定めたもので、環境省によれば全国初のものだという。
制定のきっかけは2015年、市が運営する円山動物園で年老いたメスのマレーグマが若いオスに度々襲われ死亡するという事故だった。条例では管理体制が問われた反省から“適切な保護”を目指し、飼育方法だけでなく愛玩動物や家畜とふれあう施設を除き、餌やりなどで来園者が接することを禁止。さらに服を着せたり、写真やイラストに吹き出しを付けたりする“擬人化”についても禁じている。
■現場にとって酷な状況も…
条例について、逃げ出した巨大ヘビを捕獲したことで注目を集めた爬虫類研究家で白輪剛史氏は「ビックリしているというのが正直な気持ちだ。納得できるところもあれば、そこまで必要なのか、という部分もあった」と話す。
「マレーグマは国際保護動物にもなっている希少種なので、種の保存のための繁殖を果敢に試みなくてはいけない。そのために円山動物園はオスとメスを一緒にした。一緒にすればケンカもするだろうし、不幸にも狭かったために殺されてしまったが、そうでなくては繁殖までには至らない。私は事故当時、取材に対して“運が悪かった”と答えたところ叩かれたが、円山動物園の取り組みを否定してしまえば、オスとメスを一緒に入れることはできなくなってしまう。
そもそも動物園というのはネットもテレビも無い時代に始まったもので、“ゾウはこんなに鼻が長いんだ、ライオンはたてがみがあってカッコいいよ”という具合に、異国の動物を近くで見られるレクリエーションの場だったわけだ。一方、施設自体がそういう“見世物”の時代のままのところに、やれ保護だ、種の保存だ、教育だという具合に背負わせ過ぎてしまっている部分も出てきている。
当然、そういう中では事故も起きるし、動物たちが幸せに暮ら続けられるかと言えば、それは違う。やはりハード、環境は変えていかなければならない。それでも全ての事故について“管理責任だ”と短絡的に括ってしまったり、“そもそも動物園はいらない”という議論になったりしてしまうのは、現場にとって酷だと感じている」。
■飼育方法に変化も…
「日本動物園水族館協会」では2017年、“改善すべき点”としてゾウの単独飼育は望ましくないといった意見を提出している。また、体感型動物園「iZoo」の園長でもある白輪氏にとっては、仮に札幌市の条例が適用されれば、来園者が動物と接することが禁止されることになる。
「ライオンの飼育施設が狭いのは問題だと思うし、社会性があり、かつ人の生命を奪う危険な猛獣でもあるチンパンジーを擬人化して育ててしまうことにも問題があると思う。ただ、先程も言ったとおり、動物園というのは“見せる”ための施設であって、“繁殖させる”ために作られているわけではなかったため、飼育員の安全の観点からも、多くの動物園でメスだけが飼われていた。
つまり、“もともと増やすつもりがなかったから”と説明しなければならない。最近では群れで飼うのが主流になってきているので、施設も広くなければならない。逆に言えば、これから新たに生息地からゾウを連れてくるというのは難しくなっているということだ。
また、iZooの場合は、爬虫類と両生類に特化した動物園だ。接する機会が少ない分、怖い、気持ち悪いといったイメージを持っている人が多いので、近づいたり、触れてみたりすることで、実際は違う部分もあるということを感じてもらいたいと思っている。人間だって、話したこともないのに“嫌い”と言われたら、“もうちょっと接してくれよ”くれよと思うだろう。また、展示についても、“必ずしも見られるわけではない、習性で隠れている場合もあるので、2、3回のうち1回くらい見られるかもしれないよ”という飼い方、来園者への説明をしている。
やはりテレビやネットでは間近に見た時の大きさ、あるいは匂いというのは実感できない。節度を持ってやれば、とてもいい情操教育になるはずだ」。
■飼われるのは「かわいそう」なのか?
他方、動物愛護団体「アニマルライツセンター」の岡田千尋代表理事は、おととし、番組出演した際には「本能や“らしさ”とか、ライフサイクルが保障されない動物園の檻の中というのは“動物の福祉”を損なうものだと考えられる」と指摘した。
白輪氏は「人間であれば数日間ずぶ濡れであれば命の危険もあるかもしれないので“雨に打たれてかわいそう”などと言うが、雨宿りをするにしても木陰で休むくらいなのが野生動物だ。動物によって生態が異なるにも関わらず、人間の基準でひとくくりにして“かわいそう”と言ってしまうのは無理がある。
ただ、今までの動物園はネズミから鳥から猛獣やゾウまでを網羅し、“何でもいますよ”という百貨店のような施設だった。そういう時代はすでに終わったので、うちはゾウに特化している、うちは草食動物、中でもこの種類…といった具合に専門性を持ち、悠々自適に生活してもらいながら種の保存を図るというのがこれからの理想の動物園だと思う。
生息地が狭まったり、感染病や天変地異が起きたりして絶滅してしまう可能性もゼロではない動物を保護することによって種の保存を測り、場合によっては生息地に戻せるような状態を作る意味でも、動物園で分散飼育するのは大切なことだと思う」とした。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「佐渡島にあるトキの保護センターでは里山のような自然が再現されていて、見学する人間が逆に檻のような場所の隙間から生活を遠目に見る、という雰囲気がある。あるいは北海道の旭山動物園では自然の様子を見せる“行動展示”という試みで知られている。そのようにして、みんなで考えることをやっていけばいいのであって、いきなり動物園をなくす必要はないのではないか。
また、僕はかつてケアーン・テリアという種類の犬を飼っていた。もともとイギリスの寒い地方で穴倉などに潜り込みネズミを獲るのを習性にしていた種類なので、小さいケージに入れてあげた方が安心した様子だった。しかし知らない人の中には、“狭い所に閉じ込めて、ワンちゃんがかわいそうだ”と怒り出す人もいるだろう。ネコだって1万年くらい前から人間と暮らしてきたといわれているわけで、動物によっても何が幸せなのかは全く違う。やはり素人が何でも“かわいそう”というのではなく、専門家の意見を聞きながら考えていく必要があると思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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