「命を救いたい。だから行政には、あえて“事後報告”で」北海道からの自粛要請を受けた国内2例目“赤ちゃんポスト”運営者が思いを語る
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 先月10日、北海道当別町に開設された「ベビーボックス」。熊本市の慈恵病院の取り組みによって知られるようになった、理由があって育てられない赤ちゃんを匿名で預けられる、国内で2例目の“赤ちゃんポスト”だ。

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 ところが北海道は運営団体「こどもSOSほっかいどう」に対し、二度にわたる自粛要請を行っている。理由について鈴木知事は先月27日の会見で「当別町をはじめとして警察、児童相談所、医療機関等との事前協議を一切行っていない」と指摘。また、安全面で不十分な点があるとしている。

 8日の『ABEMA Prime』では、「こどもSOSほっかいどう代表」で獣医師・公認心理師の坂本志麻氏と、漫画『コウノドリ』医療監修も務めた今西洋介医師(新生児科・小児科)に話を聞いた。

■“あえて事後報告を取った”

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 坂本氏は「北海道では過去3年で3名のお子さんの命が奪われてしまっている。命を救いたい、悲しい事件を二度と起こしたくないという願いのもとで設置させていただいた」と説明する。

 「当別町の隣の札幌市で起きた乳児遺棄事件を受け、妊婦さんや母子が深夜であっても駆け込める場所が必要だと思った。慈恵病院の取り組みについても見てきたし、熊本市の検証報告書にも全て目を通した。また、1例目のお子さんを育ててらっしゃる里親さんのことも存じ上げている。

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 スイスではNICU併設の大きな医療機関には新生児匿名受け入れ窓口が設置されているように、日本でも孤立出産で生まれてきた赤ちゃんを受け入れる仕組みを大きな医療機関に設置していただきたいと切に願っている。ただ、現状ではどこの医療機関であっても、必ず行政からの自粛要請を受けてしまうと思う。

 実際、慈恵病院が始めて以降の15年間、手を挙げた医療機関や助産師さんのグループが自粛要請を受け、“二番手”が実現できていないのが現実だ。慈恵病院の内密出産に関しても法整備がなされている段階だし、行政からの許認可を得て運営している法人では、やはり難しいと思っている」。

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 すでに7名の子どもの親から相談を受けているというが、団体の常勤スタッフは代表とその夫の2名のみだ。また、設置に関して、自治体に対しては“あえて事後報告を取った”という。

 「試験運用を始める4月1日以前からホームページ上では“匿名で受け入れる”ということも公表させていただいていた。事前協議を重ねてからの運用となると、実現は100%できないと思ったからだ。ただ、今回のベビーボックスも含め、私の様々な活動について、行政は非常に協力的だ。

 私たちの実力に欠けている部分に関しては、北海道、当別町、消防、警察、保健所、医療機関も救急搬送について動いてくださるということで協議が進んでいる。札幌市の隣とはいえ、当別町というのは地元の人から見ても田舎だ。いわゆる診療所や小児科も車で5分の範囲にはあるが、中核病院や新生児医療ができる病院は30分、1時間という距離にあるのが現実なので、救急車で搬送していただけるのはありがたい」。

■“赤ちゃんを救うものでなければならない”

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 一方、今西医師は「周産期医療をしていると、事件になっているのは氷山の一角で、同様のことを起こしかねない状態の女性はいっぱいいると感じている。また、成育歴の中で虐待を受けた経験を持つお母さんもいっぱいいる。

 しかしTwitterなどを見ていると、遺棄してしまったお母さんを逮捕し牢屋に入れればいいという、最も危険な議論もある。やはり妊婦さんを社会で見守ることが必要だ。その意味で、まず坂本さんに言いたいのは“赤ちゃんを救ってくれる活動を始めてくれてありがとう”ということだ。慈恵病院も含め、全国で有意義な活動が始まっていると個人的には思う。動きがあることは決して否定してはいけないと思っている。

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 ただし、これはお母さんを救うものであると同時に、赤ちゃんを救うものでなければならない。その意味では、医療機関との連携がないというのは危険が伴う。例えば僕たちは妊婦健診を受けていない方を受け入れて内緒で管理する“飛び込み妊婦”という対応を行っているが、やはり低体温や低血糖といったリスクがある。特に低血糖の場合、脳が溶けて後遺症が残ってしまうことにもつながる。また、僕たちは外見だけで週数を診断することができる“デュボヴィッツ法”という技術を持っているが、そのようにして早産児を診ることができなければ厳しいだろう。

 加えて、小児科医としては点では終わらない。ただ受け入れるだけでなく、15歳までは発達を見ていくことになる。その過程では“出自を知る権利”など、子どもの人生の中が様々な問題が出てくることになる。そうしたことも含めて議論することが必要だ」。

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 こうした指摘もあることから、坂本氏は“一時預かり”も考えているという。

 「慈恵病院さんにおいても、パニック状態のお母さんが預け、後で引き取りたいという連絡があったケースもあると聞いている。北海道でも救急搬送、警察による確認、そして児童相談所への連絡という対応マニュアルを作成していただいているが、児童相談所の管轄に入ってしまうと、お母さんのところに容易に戻すことができない現実がある。熊本でもそこは慎重に対応しているので、私たちも親との信頼関係を築いた上で“一時預かり”とすることも考えている」(坂本氏)。

 今西医師も「新生児医療の中では、育児の環境の問題から“一時的にどうしても”ということで預けたけれど、やっぱり後悔して乳児院に迎えに来るというお母さんもいる。坂本さんがおっしゃったのは大事な視点だと思うし、より多くの人がこの問題について知って、議論をし、法整備をしていくことだと思う」と話していた。

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 パックンは「日本では3.8万人の子どもたちが児童養護施設で暮らしていると聞いた。一方で、アメリカでは養子縁組が年間13万件だ。そこのハードルが高すぎると思う」、AKB48柏木由紀は「ニュースで事件のことを見る度に、赤ちゃんポストのような施設があれば救われたのかなと思っていた。ただ、坂本さんのような人たちが先頭に立たないといけないのか、とも思った。自治体や医療機関がもっと協力してバックアップすることはできないのだろうか」とコメントした。(『ABEMA Prime』より)

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