これは合宿か、それとも集中講座か。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Dリーグ第2試合、チーム天彦とチーム稲葉の対戦が6月25日に放送され、チーム天彦がスコア5-2で快勝、予選1位通過を決めた。熱戦も多く見応え十分の試合だったが、とにかく特徴的だったのが全7局、戦型が全て「相掛かり」だったこと。プロの間で近年、飛躍的に指されることが増えた人気の戦型に、解説の棋士からは視聴者に向けて「微妙な違いがわかればプロ」というコメントまで飛び出した。
▲2六歩、△8四歩、▲2五歩、△8五歩…。居飛車党のプロの対局を多く見ているファンからすれば、もうすっかりおなじみの出だしだろう。藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)をはじめ、トップ棋士の間でも非常に多く指されるようになった居飛車の戦型・相掛かり。矢倉、角換わりといった人気戦型もあった中、序盤から選択肢が多く、激戦になりやすいことから、指しこなすのが難しいとも言われていたが、将棋ソフト(AI)による研究の成果もあってか、ここ数年で一気に相掛かりを指す棋士が若手を中心に増えた。チーム天彦、チーム稲葉の計6人はいずれも居飛車党。数ある戦型の中でどれが選ばれるかというのが注目ポイントだったが、その結果はまさかの「7局連続相掛かり」だった。
第1局、第2局と2局続けて相掛かりなところまでは、まだ誰もそこまで違和感を覚えていなかったが、第3局あたりから少しずつ何かを感じ始める棋士、視聴者が出てきた。第4局も相掛かり。そして第5局前の作戦会議でチーム稲葉の出口若武六段(27)が「相掛かりシリーズが続くのか…」とこぼすと、言葉通り第5局も相掛かりに。解説を務めた井出隼平五段(31)が対局開始早々に「これは相掛かりですね、またも」とつぶやくと、聞き手の小高佐季子女流初段(20)も「5回連続ですね…」と笑って返した。
もうここまで来れば、指す側も見る側も覚悟を決めるしかない。井出五段は「微妙に王様の位置が違うんですね。似て非なるってやつです。その違いがわかればプロです」とおもしろがると、小高女流初段も「マスターですね」。再び井出五段は「相掛かりマスターを名乗れますよ。微妙な違いで使い分けられたら。我々も視聴者の方も、チームのみなさんも、みんな相掛かりマスターです」と付け加えた。
このやり取りに視聴者も「相掛かり勉強会」「適当なことをw」「やった!僕も指せる」「ダブルでボケる夫婦漫才」と反応すると、さらに第6局、第7局まで進んだところでは、もはや相掛かり以外は許されない、というような雰囲気まで流れ、最終的に全局相掛かりでコンプリート。中には公式戦でもまだ使われていないような最新形、研究手順も使われており、この7局を詳しく見れば、トップ棋士同士のタイトル戦を見る上でも参考になる、そんな濃密な相掛かりシリーズとなっていた。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)