年収がピーク時の1000万円→650万円 50代前半で転職を決意、パチンコ業界から異業種を希望も“年齢とスキル”が壁に
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 超高齢化社会の日本では、中高年も転職市場に。パチンコホールを全国展開する企業に勤める木下みのるさん(仮名・50代前半)も転職活動の真っ只中だ。

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 転職を考えるのは、「業界自体の業績がだんだん下がってきている。本当に厳しい」という理由から。かつては35兆円近くの市場規模を誇ったパチンコ業界だが、今は約14.6兆円と半分以下にまで落ち込んでいる。斜陽産業とも言われ、木下さんの会社も業績が悪化している。

 ピーク時の年収は1000万を超えていたが、業績とともに下がり続け、現在では650万円ほどになったという。木下さんは単身赴任中で、離れて暮らす家族が住む家のローンがあと20年。さらに今年、長女が私立大学に入学し、どうしてもお金がかかる。これ以上の収入減は避けたいと業界に見切りをつけ、転職を決意した。

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 今年すでに600件エントリーしたが、面接に進んだのは20社ほど。「年齢もあるが、(職歴が)パチンコというところでなかなかヒットするところがない。異なる職種で通用するスキルが何かあるかというと、なかなかそれも。つぶしが全くきかない」。取材したこの日、偶然にも面接結果が来たが、結果は「誠に残念ではございますが――」。現実は厳しいようだ。

 去年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業には従業員が70歳まで働けるように就業機会を確保するなどの努力義務が課された。働く期間がより長くなる中で、中高年の「転職」はどのように考えていけばいいのか。『ABEMA Prime』では当事者の木下さんに話を聞きながら議論した。

■業種を問わずに転職活動、内定をもらっても“条件(収入)”が合わず…

 木下さんは以前にも転職活動をしていたというが、50歳という節目を超えたことで状況が変化した。「ここ6、7年は転職活動をしていて、内定も何社か頂いたが、当時は収入の面から大幅なダウンを覚悟しなければならないということで、家族を説得しきれなかった。ただ、もう50歳を超えたのでそうも言っていられず、手当たり次第に応募している状況だ」と話す。

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 転職を考える背景には、会社の人事方針への疑問もあるという。通称「窓際部署」を新設して社員を店の草取りなどの業務に当たらせたり、グループ企業の部長クラスの人に突然店長を任せ、業績を回復できなければ降格させたりなどするため、「この会社を出たい」と決意した。

 今回、3社からは営業で内定が出たという。木下さんの希望条件は現在の年収約650万円の維持か1割減までだが、営業ではベースが下がってしまうことから条件が合わなかった。

 「現状の収入と同等かそれ以上となると、非常に絞り込まれるというか。例えば、人事部長経験者、経理部長経験者というような絞り込みがされてしまう。そうなると、どうしても書類で落とされてしまう」

 大卒で今の会社に入って約30年、パチンコ業界一筋で働いてきたため、他業種で生かせるスキルや資格がないことに壁を感じると話す木下さん。そうした状況に対して、慶應義塾大学名誉教授でパソナグループ会長を務める竹中平蔵氏は「就職や生き方は個別の話だ」とした上で、「日本の給与体系からいうと、多くの会社で中高年になるほど本来の働き以上の給料をもらっているケースが多い。逆に、若い方には本来の生産性より低い給料を払っている。そこで、(中高年が)新しいマーケットに出るとなると、条件はすごく厳しい。家族も当然、“なぜ給料が下がるの?”となるので、マインドセットを変えていかないといけない。また、ある程度の時間をかけることが必要で、何かの資格を取っておこうとか、それで2年後に備えようとか、一種の計画性がいる。その2つが特に重要だと思う」との見方を示す。

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 業種を問わず転職活動をしている木下さん。「これをしたい」という仕事はあるのかとの問いに、「希望は特にない。今はパチンコホールだが、パチンコに特別興味があったかというと、正直ないままに今までやってきたということがある。できれば、今働いているところから遠い業界、遠い職種で考えているが、(収入の現状維持は)本当に厳しい。20代、30代の方々と同じところでのスタートになるというのは、応募して面接して感じているところだ」と明かす。

 これにリディラバ代表の安部敏樹氏は「木下さんにとって、今までの経験を使うのか・使わないのかは、かなり大きな意思決定だと思う。ただ、使わないとなった時、つまり新人ということは、20代の新卒や第2新卒くらいの人と同じということだ。吸収能力はこちら(若い人)のほうが高いとなった時に、この人たちよりも高い年収で転職して新たに経験を積んでいくというのは、理論的に難しい。この20~30年、若い世代の給料が伸びていない中で、そこと比較して年収650万とかその1割減で新しいキャリアを積みたいというのは、中途で採用する側からするとなかなか厳しい」と指摘した。

■中高年に求められるのは“経験を生かしてもらえるか”と“狭くて深いスキル”

 では、企業側は中高年の転職者にどのようなことを求めるのか。ミドル・シニアの転職を支援するシニアジョブ代表取締役の中島康恵氏は「50歳以上の方の転職は“どれだけ経験を生かしてもらえるか”というところで企業は見ている。もし年収面を担保したいのであれば、同業界、もしくはそのスキルが生きるような業界を選択するのがベストだと思う」との見方を示す。

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 中島氏によると、採用に困っているのは業績が上向いている中小企業。業績拡大により人手を欲している状況で、即戦力となる中高年層を活用したいと考える企業が多いという。また、中高年層が転職活動でアピールするとよい点について、「50歳以上の転職になってくると、経験がたくさんあることよりも、経験が1個でそのスキルが深いこと。もちろん、広く深いのがベストだが、浅いのであれば1個のことだけを深く。そういうほうが市場として需要は高いと思う」と説明する。

 このアピールの仕方について、安部氏は採用側の視点から「実際そうだと思う。何ができるかというのは正直な話、採用してみないとわからない。仕事をやりながら、得意なことだったり、期待値と違ったというのがわかる。あれもこれもできると言っている時はかなり怪しいと思って聞いてしまうので、“これだけはできる”“ここだけは絶対できる”というのがわかっていると採りやすいというのはあると思う」と同意した。

 こうした意見を踏まえた上で、米・イェール大学助教授で半熟仮想代表の成田悠輔氏は「パチンコ業界と他の企業に移った場合とを比べたら、今がそんなに悪い職業ではないのでは?という気もする。今の業界に残るという選択肢はないのか」と木下さんに疑問を投げかける。

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 木下さんは「そこは面接を受けると当然のように聞かれる。やっぱりこれから回復の兆しが見えないところと、5年後に本当に会社があるのかというところ。あと、残ったとしても、極端な話、お店のスタッフからやり直して下さいという雰囲気を感じる。それが入社した時に20年後、30年後として描いていた姿なのかというと、考えさせられるところは大きい。であれば、スタートは下がってでも上がれる要素があるところを目指したい。現役も残り少ないが、もう一度だけ挑戦したいという気持ちは強くある」と答えた。

■“もう今転職しなければ”という退路が断たれた状態は選択肢が狭まる

 ミドル・シニアがそれまでと全く異なる業種や職種に転職する場合、有利になるスキルや資格を取るなど準備をしておいたほうがいいのか。

 女性向けのキャリアスクール事業を展開するSHE代表取締役の福田恵里氏は「退路が断たれた状態で“もう今転職しないといけない”という状態だと、選択肢がせばまってしまうと思っている。例えば、SHEにいらっしゃっている方は、今の仕事を続けていけば普通に収入はあるけれども、精神的にも資金的にも余裕がある状態で今のうちに学び直しをしておいて、きたるタイミングでキャリアチェンジする方が多い。ギリギリにならない、前の段階でちゃんとリスキリングに目を向けることが、中高年も若年層もすごく大事だと思う」との見方を示す。

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 また、安部氏は「農業系の人などにいろいろ話を聞いていると、中高年、50代くらいでいきなり“会社を辞めてきました。農業をやります”と言って、飛び込んでくる人がけっこう多いらしい」と説明。その上で、「そういう人たちは退路を断ってきているが、当然手前で準備をしていない。農業は難しくて、地域のコミュニティに突っ込んでいかなければいけなかったり、協力を得ながら水を回してもらったりしながらやっていく必要がある。退路を断ってきた時、関係性が作れなかった場合に非常に悲惨になるという話をよく聞く。準備を手前でしておくという話はきっと大事なのだろう」と述べた。(『ABEMA Prime』より)

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