「みんな年に一度、自分の職務経歴書を書いてみるべきだ」“伝説のヘッドハンター”妹尾輝男氏と田端信太郎氏が語る「ヘッドハント」の舞台裏…
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 企業の経営層や幹部人材をスカウトするヘッドハンティング。その熱い駆け引きの舞台裏について、ライブドアやZOZO、LINEなどの企業を渡り歩いた田端信太郎氏(オンラインサロン『田端大学』塾長)と、400名を超えるエグゼクティブのヘッドハントに成功した実績を持つ、世界最大の人材組織コンサルティング企業「コーン・フェリー」の元日本代表・妹尾輝男氏が語り合った。

【映像】伝説のヘッドハンター語る"人を見抜く術"とは

■“ロングリスト”の中から順に当たっていく

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田端:僕はライブドア事件後、なんとか経営が黒字化し、企業再生の目途がついた頃に『VOGUE』や『GQ』、『WIRED』を出版している外資系のメディア企業「コンデナスト・ジャパン」に転職したんですが、きっかけはヘッドハンターの方からの連絡でした。

こういう話をすると自慢みたいになってしまうが、実はそれまでも電話や封書、メールで転職の誘いはいっぱい来ていたが、どれも断っていたんです。そしてヘッドハンターというのは普通、どこの企業の案件なのかは明かさない。でも、この時は『BRUTUS』などを手掛けてきたスター編集者で、僕が高校生の頃から憧れていた斎藤和弘さんが代表を務めるコンデナストではないか、と直感しました。

そこで“もしかして、コンデナストではないですか?だったら行く気があります”と尋ねると、相手も"あっ…"と(笑)。そこからランチをすることになって、話が進んでいきました。剣豪同士の“おぬしやるな”みたいな、人と人の間合いのようなものがあると思います。

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妹尾:ヘッドハンターと聞くと、一匹狼のように声を掛けているイメージもあるかもしれないし、実際に30年くらい前の私もそうでした。しかし今は社内のデータベースが充実していて、世界中の潜在的な候補者のデータベースを持っているところもあります。経営幹部のリクルーティングに特化している大手外資系企業は日本に4社か5社ありますが、まず我々は、どういう人を探しているのか、依頼主の企業に話を伺います。

そして、どんな経験やスキルを持っていて、どんな性格なのか、さらには企業文化などについても質問させていただき、プロファイルをはっきりさせます。これを持ち帰り、リサーチ部門の人とリストを作成します。これが“ロングリスト”と言って、その名の通り、転職を希望していない人も含め、"良さそうだと思う人"を何十名か選んだものです。それを見ながら、優先度を決め、順に当たってアポ入れをします。

■“会社の不満”から語らせるヘッドハンターは大体ダメ

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田端:一般的な転職エージェントは、転職先の年収の3割くらいの手数料を取ると言われています。こういう成功報酬型だと、どんどん人を探してきて押し込まないと、仕事にならない。ところが、いわゆる“エグゼクティブ・サーチ”と言われるエージェントの場合、例えば半年にわたって探したけれど、結局1人も決められなかった、そういう場合でもフィーはもらえると聞きます。

妹尾:よくご存じですね。リテーナーと呼ばれるものですが、結果の如何を問わず頂く着手金のようなものです。転職が決まれば、やはり年収の3割くらいからリテーナーを除いた分を追加で頂く形になっています。

田端:だからヘッドハンター的なエージェントからの連絡があった時には、その人物が自分を無理に押し込まなくても、報酬が得られる人なのか、それとも押し込まないと売上がゼロという人なのか、そのモチベーションを見抜くことが、相手と付き合う時に重要になると思います(笑)。

リテーナーをもらっているエージェントの場合、“いろいろなタイミングがあると思うので、また”と言って、半年に1回くらいの頻度でフワッと連絡が来て、なんとなくホテルの中華とかでランチをする。

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妹尾:わざと堪えます(笑)。「また機会があったら」みたいに、余裕を見せる。そして逆にこちらから伺うのは、“今の仕事にワクワクしていますか”、あるいは“2年後、3年後、何をやっていたいですか”ということです。そうやってビジョンを語らせるのではなく、会社の不満から語らせる人は大体ダメです(笑)。

確かに、相手が切羽詰まっているという意味では転職の現実性がありますが、それが本当にクライアントの欲しい人材なのかどうかが分からないからです。ビジョンを語る中から本音が見えてきて、“本当はこういうことをやっていたいが、今のいる会社ではこういう理由ができない。そこにちょっと悩んでいる”という話が出たところに食いつく。

■秘密裏に動くため、パーティを企画することも

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田端:ヘッドハンターに依頼することが多い企業に、投資ファンドがあると思います。というのは、買収した企業の社長がイマイチだという場合、クビにする前に後任を探しておく必要があるからです。特に業績不振が続いているような企業の場合、待っていても社内からの改革には期待できない。これを立て直せそうなのは誰か、まさにロングリストを元に、この人だったらいいとか、実際に入ってくれる可能性を検討して、声を掛ける。つまり手前で高級なコンサルティングが入るわけですね。

妹尾:非常に良い例だと思います。特にプライベートファンドの場合、ヘッドハンティングがないと運用できないぐらいです。ただ、そこで難しいのは、まだ買収していないケース。いい人が見つからないと、買収した後で上手く行かない可能性がある。しかし雇われる方としては、まだ買収も済んでいないのに、そんな話に乗れるかということになる。まさにタマゴが先か、ニワトリが先か、という状況です。そういう時に、我々は勉強会のようなものを開いて、こういう会社の社長だったら興味はあるか、こういう会社のアドバイスみたいなのをしてもらえないかと聞く。

田端:インサイダーになるかもしれないし、現任者の耳に入ってしまえば“なんなんだ”となるので、そういう事態を避けるために、かなり秘密裏に進める必要があります。そこがヘッドハンターにとって、どれだけ“お手並み鮮やか”となるか。

妹尾:秘密裏に動くのには限度があるので、普段から色々な人に会って情報交換をする。そのためのパーティを企画することもあります。

■“自分の売りは何なのか”を日頃から意識すること

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田端:性格と能力のバランスはどう見ているんですか。

妹尾:基本的な評価項目については、成果を挙げるための実行力やリーダーシップという言葉で代用されるものです。コミュニケーションスキルや、人をマネジメントする能力も必要です。そして与えられたことをやっただけではダメで、新しいことにチャレンジできるとか、戦略を打ち出せる、といったポイントも大切ですね。

田端:有名なプロジェクトを立ち上げて、メディアにも華々しく登場して…という人でも、部下からしたら“アイツはクソだ”というケースもありますよね(笑)。そこでリファレンスというものがある。かつての部下や同僚、クライアントを何名か挙げもらって、エージェントが良い点、悪い点、あるいは企業とマッチしないようなリスクになる部分を聞いていく。

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妹尾:私たちの場合は、お友達みたいな人ではなく、実際にぶつかったことのある人を選んでもらうようにしていますね。そして本当のエグゼクティブのレベルになると、断られても“あの人もいいと思うけど、当たった?”と他の人を紹介されることも多く、そういうケースの成功率は高いですね。

田端:ライバルの評価は正確ですからね。“田端さんから見て、同じような業界の、同じような年代に、この方は、という人はいますか、もちろん、田端さんから聞いたとは言いませんので”と聞かれることもあります。自分もそうやって名前を挙げてもらっている気もします。“次の世代”を見つけるという意味では、業界のカンファレンスでプレゼンをしたり、本を書いたりしている人の場合、次のところを狙っているケースも多いですよね。

妹尾:私自身は、若い方が入社して3年以内に仕事を変えることについては、あまり賛成しません。ただ、本当にチャンスだと思えば転職するくらいの気持ちでいたほうがいいと思いますし、“自分の売りは何なのか”を日頃から意識することは必要です。私たちがレジュメと呼ぶ、職務経歴書みたいなものは年に一度、大晦日にでも書いてみるといいのではないでしょうか。その中身が変わっていなければ、自分が進歩していないということです。若い人たち同士のネットワークの中でも、そういうことを意識するといいでしょう。

■ヘッドハンターは“かかりつけ医師”みたいなもの

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田端:ファンドの友人が言っていたのですが、どの会社であっても、経営というのは9割が一緒だと。みんな“うちの業界は特殊だ”とか言うけれど、経営についてはほとんどやることは変わらないと。その意味では、実はエグゼクティブを探してくる方が楽な面もあるのかもしれませんね。

妹尾:“業界のプロ”ではなくて“経営のプロ”ですね。だからこそ、業界自体が変わらないといけない時には、違う業界の人を引っ張ってきます。そして、さっき“ワクワク”という言葉を使いましたが、そういうものを大事にして、周りをあまり意識せず、やりたいことに突き進むというタイプが求められているように思います。私は著書(『世界は悪ガキを求めているー新時代を勝ち抜く人の思考』)で“悪ガキ”と呼んでいますが、言い換えれば、個人としての強さ、自分の軸を持っている人、ということでしょうか。価値観が多様化し、変化も大きい時代なので、流されない人でないと、周りもついていけなくなる。

もちろん、そんな人が上司だったら、私も辟易すると思う(笑)。それでもヘッドハンターが必要とされるのは、天気で言えば青空ではなく、ゲリラ豪雨の場所だということ。そういう場所では、ただきちんとやってきたというだけの人では役に立たない。前例が無かったとしても試してみる。そして多少失敗してもめげない。下で働く人たちにとっても、“いい人”に任せて会社ごと沈没するのか、多少やりにくかったとしても、自分も学び、変われる人と生き延びていくか、そういう究極の選択をしなければならないということだと思います。

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田端:その意味では、ヘッドハンターというのは社会的に重要な仕事をされていると思います。人と仕事のマッチングの精度が上がっていくのは、本人の幸せにとっても経済にとっても大切です。加えて、大企業のガバナンスにおいては、株主が“おまえなんかクビだ”と言えるかどうかが重要です。しかし日本では“経営できるならやってみろよ、できないだろう”と経営が居直ってしまっている。そこでヘッドハンターが“いくらでも代わりの人を連れて来る”となれば、そこも健全になる。

だからヘッドハンターから声がかかったら、怖がらずに会うだけ会ってみてほしいと思います。大げさかもしれないが、いい意味で一生のお付き合いになるかもしれない、かかりつけのお医者さんみたいな存在になる可能性もあります。

妹尾:それは私もよく使う言葉です。絶対に必要なかかりつけの弁護士、医者だと。

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