シルバー民主主義、投票率低下とおさらば? 「“くじ引き”民主主義」は気候変動や格差など中長期的な課題解決にも効果あり
【映像】議員は選挙ではなく「くじ引き」で選出…世界が取り組む民主主義改革
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 シルバー民主主義、若年層の投票率低下と政治離れなど、政治と選挙の在り方が問われている今、選挙の在り方に一石を投じる驚きの方法が一部の政治学者や専門家の間で注目を集めている。それは、不公平や不均衡を解消する“くじ引き”による選挙だ。

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 投票の義務化を訴えている東京大学法学部のディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク教授は「民主主義の原点に立ち戻るという意味では、とても有意義な提案ではないか」と主張する。その理由についてディミトリ教授は「社会の本当の鏡ができるという意味では、大変意味の大きい改革になるのでは」と私見を述べる。

シルバー民主主義、投票率低下とおさらば? 「“くじ引き”民主主義」は気候変動や格差など中長期的な課題解決にも効果あり
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 そんな中、昨年11月には『くじ引き民主主義』なる本も出版された。この本のサブタイトルは「政治にイノヴェーションを起こす」だが、著者である同志社大学政策学部の吉田徹教授は「くじ引きの方が平等な条件で意思決定に参加できる。アメリカでは8割以上の市民が『議会を信頼しない』と回答した調査もある。今の民主主義は機能不全を起こしている」など、同著の意義について語る。

 “くじ引き”と聞くと、突拍子もない方法に聞こえるが、吉田教授によると、選挙制度の弊害を是正する古くて新しい理論になり得るとのことで、吉田教授をはじめとする新進気鋭の政治学者たちが本格的に研究を開始している。

 では、なぜ“くじ引き”なのか――?

「人口構成に沿うようにランダムにくじ引きで抽出した方が、より民意をバランスよく政策に反映できる」

 吉田教授が指摘するように、日本の国会議員の約8割は男性となっており、アメリカでも議員が白人男性に偏ることが問題視されているが、これがくじ引きなら、ランダムで多種多様な人材が選ばれ、くじ引きだけに、文句のつけようもない。この発想だと、多すぎる世襲議員、少なすぎる女性議員、供託金が高くて貧しい人が選挙に出られないといった問題なども改善することになる。まさにイノヴェーションといえるのだ。

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 くじ引き民主主義には、不公平、不均衡などを解消する以外のメリットもある。そのことについて吉田教授は「選挙に当選するために耳障りの良い政策を並べる必要がなくなり、受けが悪くても誰かがやらなくてはいけない長期的な課題にもじっくり取り組める」と述べ、目先の票集めや当選にとらわれない、中長期的な現実に即した政策を戦わせることもできるのではと主張する。「政治とカネ」「業界との癒着」といったよく耳にする問題も一切無縁となる。

 しかし、政治をくじ引きで選ばれた素人に委ねていいのか? という懸念もあるが、さまざまなところに目を向けてみると、死刑判決に関与する裁判員制度や桜を見る会で有名になった検察審査会、さらに国会の総理大臣の指名も同票ならくじ引きで決めると議員規則に定められている。

 多数決より、完全に平等な「運」に託した方が明るい未来が描けるのでは……。この「運」について吉田教授は「政治にどの程度参加できるかも本人が選択できない環境や条件に左右されている」「人生は運から無縁ではいられない」とも話す。

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 一連の問題にジャーナリストの青山和弘氏は、“くじ引き”民主主義は突拍子もない議論ではないと主張すると「河野太郎さんの秘書さんが『あなたも当たるかもしれない、「くじ引き民主主義」の時代へ』とする本を出している。つまり、国民に関心を持ってもらうことプラス、生活に密着したテーマであれば、こういうのも面白いというのは考え方としてはある」とする一方「外交防衛など、大所高所から機密情報に触れるとか、政策によってはなかなか素人というか、責任をもって決めなければならない問題もある。お互いを補完し合うような形ができれば、アリだと思う」と理由を述べた。

 改めて“くじ引き”民主主義について説明を求められた吉田教授は「選挙に基づく民主主義には色々な問題がある。どうしても議員さんが任期の間しか活動できないので、選挙で勝とうとすると、任期の中で実現できるような争点しか扱わないことになる。参議院なら6年、衆議院なら4年、実際にはそれよりも短い。なので、中長期的な課題。気候変動や格差の問題などについては、選挙に拠らない形で取り組まないといけない」と説明。

 また「先進国はどこも政治家とか政党不信が高い。日本でも意識調査をやるとおよそ7割から8割の人が議会や政党、政治家を信用できないという。信用できない人を選んでいるから、民主主義が空洞化してしまう」とも続けた。
 
 最後に吉田教授は「政治家になるには地盤看板カバンが必要になる。今回の参院選でも比例区で立候補するには600万円も必要になると一部の限られた人しか政治家になれない。民主主義であるにもかかわらず、万人が平等に政治に参加できないことにシステムの問題がある」と付け加えた。

 現在、参議院選挙が行われているが、投票率は低下の一途をたどっている。そんな中、全体で48.80%であるのに対して、20代の投票率は30.96%。つまり、これから日本の未来を担っていくはずである若年層の民意が、そこにはあまり反映されていない。この問題を解消するために投票の義務化も議論されているが、この“くじ引き”民主主義もまた、日本の未来を変える手段の一つなのかもしれない。(ABEMAABEMA的ニュースショー』)

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