「家を破産させられた。もともと宗教団体のトップを殺すつもりだった」。安倍元総理を銃撃した山上徹也容疑者の供述が明らかになるにつれてクローズアップされている世界平和統一家庭連合(統一教会)。
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11日に会見を開いた日本教会の田中富広会長は山上容疑者の母親が会員であることは認めつつも、「月に一度、いろんな企画に関わっているからといって高額な献金が要求されるということはないと自覚している」と主張。ところが翌12日、霊感商法被害の根絶や被害者救済に取り組む弁護士会「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の代表世話人・山口広弁護士は「あまりにも事実に反すると」と厳しく批判している。
食い違う両者の主張。12日の『ABEMA Prime』では、『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』の著書もある北海道大学大学院の櫻井義秀教授(宗教社会学)、そして世界平和統一家庭連合の2世信者で、団体とは2年前から距離を置いているという鈴木さん(仮名、19)に話を聞いた。
■“エバ国”日本が資金調達し、“アダム国”韓国に捧げる
櫻井教授は説明する。「旧統一教会というのは、1954年に文鮮明という人によって作られた韓国生まれのキリスト教系新宗教だ。いろいろな教派に分かれているキリスト教を“統一する”、あるいは宗教と科学を“統一する”という意味合いがある。日本では1964年から活動していて、当時は学生運動が華やかなりし頃だったこともあり、ひとつの“思想運動”という形で学生たちに受け入れられ、広がっていったという歴史がある。今も日本国内に5~6万人くらいの信者を有しているとみられる。
また、“家庭をベースとして新しい世界を作っていく”ということで『世界平和統一家庭連合』に名称を変更したのは日本では2015年のことだが、文化庁宗務課が申請をなかなか認めなかった。やはり“統一教会”という名称が社会問題化しているということもあって、名称変更を考えたのではないかなと推測している」(櫻井教授)。
その“社会問題”とはどういうものだったのだろうか。
「布教、勧誘の際に団体名や活動内容を明かさず、人間関係ができた時に明かす。それから“姓名判断”“霊感占い”だ。壺や数珠、多宝塔といった“霊感グッズ”を、50〜100万円ほどで売っていた。“聖本”が3000万円だというのは本当だが、霊感グッズについては、相手の懐具合によって変化させていることも特徴だ。こうしたことが後に損害賠償請求に繋がり、多くのケースで敗訴しているし、全国の弁護士会への被害相談は昨年も今年もある。
問題視されている献金については、韓国などの熱心なキリスト教会では“十分の一献金”というのは一般に行われていることだ。ただ旧統一教会の場合、“神様のご計画に合わせた摂理献金”だと言って、都度50万円、100万円といった金額を要求してくる。そして応えなければ立場が悪くなる、あるいは罪になるといったレッシャーをかけられるので、献金せざるを得ない。結果、自己破産した人は去っていく。要するに、お金のある人、マンパワーを提供してくれる人にしか用がなく、それができなくなったら“要らない”と捨てられるからだ」(櫻井教授)。
■先祖や水子の霊や祟りといったレトリックに弱い、“流行る土壌”
日本においてトラブルが多いことには理由があるのだろうか。
「霊感商法、そして訴訟関係は日本を中心として起きていて、アメリカや韓国では起きていない。これは日本の旧統一教会だけが、いわば違法な形で資金調達をし、それを韓国の本部に送り届けるというミッションがあるからだ。旧約聖書にアダムとエバが禁断の木の実を食べたという話が出てくるが、エバが先に食べ、そしてアダムに渡したとされている。これが旧統一教会の教義では、アダム=韓国で、エバ=日本だということになっている。つまり“エバ国”である日本の支部が資金調達をし、“アダム国”である韓国の本部に捧げる。そして韓国がアメリカなど各国の支部に配分し、世界的な布教戦略を展開してきたということだ。
人事においても日本は韓国の支配を仰ぐという従属関係が教義として定められているし、ここには女性の方が一段低いというジェンダー差別の問題もある。また、この“エバ国”の教義とは別に、日本には先祖や水子の霊、祟りといったレトリックに弱いという、霊感商法が流行る土壌がある。私は元“霊能師”役の人にインタビューをしたことがあるが、信者でない人に霊言を説くのは、一緒の演技であるという。私がアメリカの国際学会でこの話をした時に、“信じられない。日本人はfoolじゃないか”と言われたが、アメリカではこのレトリックはまったく通用しないようだ」(櫻井教授)。
鈴木さんも、両親が“十分の一献金”のほかに礼拝ごとの献金をしていたこと、“願いを書くと叶う”という札に高額な値段が付いていたという記憶があるという。
「活動に熱心だったり、現世でいっぱい良いことしたりすると“天界”という、天国の良いところにいけるという教えがあるので、そのために両親も活動しているんじゃないかと思う。金額までは聞かなかったが、壺も2、3個あったと思う。報じられている山上容疑者の家庭のように家計が危ういというか、破産するまで、という感じはなかったが、やっぱり貧しい感じはあった。
例えば高校・大学受験のために塾に通えなかったり、私立の学校には行かせてもらえなかったり。大学に進学してからも、学費や生活費は全て自分で賄ってねと言われていた。それどころか、僕にお金を借りるということもあった。“どうしてお金がないの?”ということを聞いたこともあるが、“いろんな支払いがあって、最終的に足りなくなるんだよ”と答えるばかりで、宗教活動にこれだけのお金がかかっているから生活が苦しい、というような話はなかった」(鈴木さん)。
■安倍元総理に強いコミットメントがあったとは思わない
山上容疑者は取り調べに対し、「安倍元総理がビデオレターを投稿していることなどを見て殺害するしかない」と思ったと供述しているという。
これについて世界平和統一家庭連合の田中会長は「当法人と友好団体(UPF)の区別がついていなかったのではないか」と主張している一方、全国霊感商法対策弁護士連絡会代表世話人の山口広弁護士は「今回の選挙でも、あるいはその前の選挙でも、特定の自民党の候補者を組織推薦候補として応援してきた。それに信者組織は動員をかけてやってきたということを私共は事実として認識している」と反論している。
櫻井教授はこう話す。
「様々な企業体や政治団体も擁しており、その中の一つがこの『UPF』(天宙平和連合)だ。旧統一教会はアメリカでも1965年から活動していて、同国でのプレゼンスを確保しようとしていた。そのために保守的な政治家や学識経験者を招いたカンファレンスを開催してきたという経緯があり、その中の一つと見なすことができる。ただ、同じ信者がやっている団体である以上、(旧統一教会と)同じものだと見なしても不思議ではないし、区別しないというのも当然だ。信者にとっても同じだし、(田中会長の主張には)大いに違和感がある」。
その上で櫻井教授は、山上容疑者は「岸(信介)元総理が旧統一教会を日本に招いたと思い、その親族の安倍元総理を狙うことにした」と供述しているという点について「安倍元総理に強いコミットメントがあったとは思わない」との見方を示す。
「日本に旧統一教会を創設するという時期、安倍元総理のお祖父様である岸信介元総理たち保守的政治家、あるいは笹川良一氏といった右派の方たちの間には韓国・台湾とともに共産主義に対抗していかないといけない、反共産主義の同盟関係を結ばないといけない、という思惑があった。そこで世界反共連盟という国際会議が開催されたり、反共産主義のための政治団体である国際勝共連合が設立されたり、日韓両国で旧統一教会が使われたりした」。
■私設秘書を無償で派遣してもらっていた自民党議員も
韓国への送金を担わされている旧統一教会の日本支部と日本の“保守政治家”たちが関わるという現実に矛盾はないのだろうか。櫻井教授も、「まったく矛盾している」と話す。
「日本の植民地支配に対するある種の“恨み”がベースにある、“韓国が第一”という韓国ナショナリズムである旧統一教会の教義と、自民党の保守的な政治家たちの考える、神道や日本文化を中心とした日本ナショナリズムの思想とは根本的に相容れないはずで、互いの立場をはっきりさせれば、対決せざるを得ないぐらいの関係だ。それでも互いに保守的で反共産主義であることお互いに利用しあえるということで野合していたというのが実態だ。しかし冷戦体制が崩壊すると、1991年には文鮮明が北朝鮮を電撃訪問して金日成と握手し、北朝鮮に投資するという話をしている。
結果、自民党の政治家と関係を結んできた背景にある“反共産主義”は無くなったけれども、岸さん以来のラインはあったということだろう。だから私は安倍元総理が旧統一教会に対して個人的に強いコミットメントをしていたとは思わない。ただ、他の自民党の政治家の中には、旧統一教会から私設秘書を無償で派遣してもらったり、選挙期間中にスタッフを派遣してもらったりしていた人はいる。その意味では、“便利に使える団体”というふうに思っていたところもあるかもしれない」。
鈴木さんも「UPFという名前は知っていたし、大きな統一協会という括りの中にあると聞いていたので、櫻井先生がおっしゃっていたとおり、(旧統一教会と)同じ団体だという認識だった。そこに対して安倍元総理がビデオメッセージを出していたということは知らなかったが、自民党と旧統一教会には深い関わりがあるということは感じていた」と証言した。
■行政や議会の宗教団体に対する特別な便宜、あってはならない
安倍元総理への銃撃事件によって注目を浴びる政治と宗教、そして日本社会と宗教。櫻井教授は「政治家が信仰を持ったり、宗教団体の支援を受けて選挙に出たりすることは現実にあるわけだし、それ自体はよろしいことだと思う」とした上で警鐘を鳴らす。
「ただし行政や議会が宗教団体に対して特別な便宜を図ったり、問題のある宗教団体について審議会や公聴会で調査すべきだという意見が出た時に数で揉み消したりするようなことがあってはならないと思う。旧統一教会はそういう点において、自民党に守られてきたという経緯がある。政治家は自分たちと宗教団体の関係を他の人に説明できるように公明正大にやるべきだし、旧統一教会の方も自民党の政治家との関係を持つ際には、そこのところをはっきりさせなければならない。
また、宗教に関しては自己責任と言えば自己責任だが、ギャンブルも含めた依存症について、行政は教育や配慮をしているはずだ。しかし日本の宗教法人法には宗教団体を所轄するとか行政指導するといった権限が規定されていないために、文科省も文化庁も現実的にはできない。オウム真理教の場合は宗教法人の認証を取り消したが、旧統一教会の場合は取り消されてもいない。残念ながら許容されているということだ。
そして日本人はもっと知らなきゃいけないと思っている。日本がもともと持っている宗教文化や新宗教も含む外来の宗教文化について知らなければ、信仰している人たちと接することもできないし、勧誘を断ることもできない。天皇が持つ威厳、象徴性と民主主義体制との関わりについてもしっかりとした認識が無ければ、いろんな団体に突っ込まれてしまう。“宗教リテラシー”と私は言っているが、誰かに“真理”を教えてもらうんじゃなくて、自分の頭で考えて判断して、責任を持つためにも、知識が必要だ」。
■苦しんでいる人がいっぱいいるということを理解してほしい
世界平和統一家庭連合の記者会見を「リアルタイムで見た」と話す鈴木さん。「やっぱり、言っていることに間違いが多いというか。ぼやかして、あやふやにしていることもあるんじゃないかと思った。統一教会とUPFが実際はほぼ同じ団体というところもそうだし、確かに献金は強制ではなく任意だけれど、“しなければ救われない”という風潮があることもそうだ」。
さらに「犯行自体の肯定はしないが、家庭が破綻して、でも宗教の問題なので周りには相談できず孤独を感じて、ということが積み重なっていったということについては同情する部分はある。僕も“避けられたら…”と考えると、仲の良い友達にも相談できないし、旧統一教会の人にも“悪魔に支配されてるんじゃないか”と言われる気がして、一人抱え込んでいる部分がある。社会に望むことは、僕のような二世信者や山上容疑者のような信者の子どもには苦しんでいる人がいっぱいいるんだよということを理解して欲しいし、現役の信者や、過去に関わりがあった人に対する無意味なバッシングもやめてほしい」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
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