これから夏休みを迎える学生には、旅行や行楽などの予定を入れて心を踊らせている人もいるかもしれない。一方で、そんな学生などをターゲットとした、さまざまな組織や団体による「相手の心理状況を悪用した勧誘」が活発化するおそれがある。
そこで、ニュース番組『ABEMAヒルズ』ではマインドコントロールや洗脳といった心理的な支配による勧誘への注意すべきポイントについて、臨床心理士で明星大学心理学部准教授の藤井靖氏に話を聞いた。
「最近、手口としてはSNSが増えている。コロナ禍を経てオンライン化が進んでいるが、新しい手口にはいくつかある。1つは、自分から行かないパターン。僕は「助けて式勧誘」と呼んでいる。SNSで、何かについて『教えてください』『答えてほしい』などと悩みを相談するような発信。例えば、大学生であれば『どの授業がいいですか』、主婦であれば『生活上の困りごと』みたいなものを挙げる。あるいは、個人の悩みに答えてもらって、そこから引き込む」(臨床心理士/明星大学心理学部准教授・藤井靖氏)
藤井准教授によると、“顔見知り程度の関係の人にリモート飲み会に誘われて参加したら、ほとんどがその組織の人たちだった”という、オンライン化が進んだコロナ禍ならではの手口もあるようだ。そもそも、マインドコントロールや洗脳の入り口はどのようなものなのだろうか。
「宗教やカルトと呼ばれる団体、マルチ商法など色々なものに共通しているが、初めは正体を隠して近づいてくる」
初めにターゲットに近づくのは1人でそこから登場人物が増えていく「勧誘のABC」を基本に、相手を信じ込ませていくケースが多いようだ。
「ABCは(A)アドバイザー、(B)ブリッジ、(C)カスタマー を指す。ブリッジ役の人がカスタマーに近づき、そこで関係を作る。『あなたに会ってほしい人がいる。この人はすごい人だから、1回話を聞いて考えてみたらいいよ』という感じで、アドバイザーに会わせる。心理学では間接話法と呼ぶが、ブリッジとカスタマーに関係ができているので、すごいと言われている人(アドバイザー)から話を聞くとその人のことを信じやすい。そういう心理学的な特性を利用している」
藤井准教授によると、狙われやすいのは“真面目で心理的に孤独な人”。夏休みで空き時間が増える学生は、これからのシーズンで「特に注意が必要だ」と語る。
「大学生くらいになると、『もう自分は子どもじゃないから、親や周りの人に色々言われないでやりたいことや道を自分で決めたい』というふうになる。勧誘する側はそういう若者の心理を熟知しているので、割と周囲から引き離しやすい」
勧誘を防ぐ手立てとしては、そうした心の隙間に付け入る相手の手法をあらかじめ理解しておくことや、過去に起きたマインドコントロール事件について知っておくことが大切だという。また、藤井氏は現在も活動している組織・団体について何らかのきっかけがあって関わる際には「注意が必要な場合もある」と話す。
「アプローチをするときは、『これは危険でやばい集団だ』という前提で見に行く。初めはそういう(勧誘の)話が全くないので、ギャップを感じて『なんか全然大丈夫じゃん』みたいな評価に変わってしまう。しかし、気づかない間にどんどんディープな話に入っていくので、いつのまにか自分がそこに取り込まれているという状況が起こりやすくなる」
興味本位で調べはじめて近づくと、気付かぬうちにその集団に取り込まれてしまう危険性も――。一度信じ切ってしまうと、本人の力では解くことが難しい「マインドコントロール」。そのため、藤井氏のもとに相談に訪れるのは、家族など周りの人が多いそうだ。
「力づくは逆効果だということを前提にする必要がある。結局、マインドコントロールをしようとする組織や集団には『あなたを否定する人は敵だ』と刷り込まれている。やめることを押し付けられると、必要以上に反発して逆に盛り上がって、さらにはまり込むことも多いので控えるべき。だからといって、放っておけば覚めるということもほぼない。そういう団体・集団には近づかないようにするのが究極の予防だ。早めに気づくこともすごく必要だが、いずれにしても『否定する』『無理やり引き離す』『家族としての強い感情をぶつける』といった方法ではなかなかうまくいかない。違う方法を考えたほうが良い」
実際、家族が藤井氏の元に相談に訪れた際には「①ある程度の長期戦は覚悟して、本人が気づくためにはどうすれば?を考える、②「やめる」「やめない」の2者択一に固執せず、生活を変えることを目指す、③本人が戻る居場所は確保しておく」といったポイントを挙げ、支援を進めていくという。
藤井氏は「家族の問題は相談しづらいものだが、専門家含めできるだけ早めに外に助けを求めるのも一案」とした。
(『ABEMAヒルズ』より)
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