参議院選挙の応援演説中に銃撃され亡くなった安倍元総理大臣の国葬について、政府は9月27日に東京・日本武道館で行う方向で最終調整している。
【貴重映像】当時行われた吉田茂元総理の“国葬” 会場には6000人以上の参列者(3:50ごろ~)
そもそも国葬とは、どのようなものなのだろうか。テレビ朝日・政治部の今野忍記者は「現在、厳密な意味における“国葬”は存在していない」と話す。
「国葬は、国家が喪主となって執り行う葬儀のことです。すべて国費負担のため、財源は国家予算になります。これまで明治天皇、大正天皇、初代内閣総理大臣の伊藤博文氏、大久保利通氏、軍人では東郷平八郎氏や山本五十六氏らが国葬されています。しかし、戦後の1947年、国葬の根拠法だった国葬令が失効し、日本国憲法が1947年5月に施行され、20条で国の宗教活動を禁止したため、現在は厳密な意味において国葬は存在していません」(以下、今野記者)
戦後は、昭和天皇と貞明皇后以外では政治家として吉田茂のみ国葬が行われた。これにより、安倍元総理は55年ぶりの国葬となる。国葬になることで、国民の生活にどのような影響があるのだろうか。
「特に国民への影響は何もありません。吉田茂元総理のときは、学校が休みになったり、役所が半休になったりしましたが、今回は取材する限り、国民の生活には一切影響なく、通常通りになる見通しです」
吉田茂元総理の国葬は、当時の佐藤栄作総理が「功績を踏まえて」と説明し、実施が決まった。国内外から約6500人の参列者、予算は1800万円(現在の金額にすると1億8000万円程度)だった。国葬令が失効している状況で、なぜ実施が可能なのだろうか。
「今回、安倍元総理の国葬を決めたのは岸田総理です。国葬は勝手に実施できません。そこで、内閣府設置法という内閣府の仕事を決めている法律の第4条『国の儀式』を根拠に、国葬が決まりました。岸田総理はかなり慎重な性格で、会見でもわざわざ『法的根拠が必要なので内閣法制局に確認した』と言っています。内閣の中にある法制局は、総理大臣などが何かを新しく決めるときに、法律について『こういう解釈でいいか』とおうかがいを立てる組織です。内閣の中にある“法の審判”で、あくまでここの解釈はクリアしていて、今後の閣議決定によって国葬が行われます。過去、吉田茂元総理の国葬も閣議で決定されました」
安倍元総理の国葬を実施する理由について、岸田総理は会見で「憲政史上、8年8か月の最長政権であること」「東日本大震災の復興、アベノミクスによる経済再生、外交実績」「白昼に演説中に凶弾に倒れ、国内外から哀悼・追悼が寄せられたこと」の3つを挙げている。
「政治なので表向きの理由は大事です。ただ、与党内を取材すると『保守派への配慮もあっただろう』といった声が多くありました。政治信条が合わなくても、岸田総理にとって、当選同期で頼りにもしていました。岸田総理はリベラルな派閥出身なので、今後たとえば防衛費予算を2%にするだとか、憲法改正だとかを考えたときに、これまで保守派の窓口だったのが安倍元総理です。長い時間をかけて、説得しなきゃいけないときに安倍元総理は頼りになる保守派のまとめ役だったのでしょう。だからこそ、ちゃんと国葬として扱わないといけません。保守派に『私は安倍元総理を大切にしてきました。だから今後、私とも仲良くしてくださいね』というメッセージでもあると思います」
今野記者によると、与党内では「中曽根大勲位と並ぶ合同葬という形でもよかったのではないか」といった意見もあるという。
「吉田茂元総理を除いて、政治家は合同葬が近年のトレンドです。合同葬は、大企業の社長さんが亡くなったときにも行われます。2019年11月に死去した中曽根元総理(当時101歳)は、政府と自民党の合同葬でした。国費と党で約1億円ずつ折半し1年後の2020年10月に政府と自民党の合同葬が、都内ホテルで行われました。今回、合同葬ではなく、国葬を選んだのは保守派からの強い要望があり、ここで岸田総理の“聞く力”が発揮されたのでしょう」