安倍元総理銃撃事件から2週間が経ち、山上徹也容疑者の供述から事件の背景が徐々に見えてきた。
【映像】父逝去、母の献金は約1億円…山上容疑者の経歴(画像あり)※1分40秒ごろ〜
「仕事を辞めて、所持金が尽きた。死ぬ前にやろうと決心した」と供述している山上容疑者。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」に対する恨みだけではなく、警察が山上容疑者の就労状況を確認したところ、事件の1カ月前に大阪府内の派遣会社を自己都合で退職。以降無職で事件当時は数十万円の借金があり、経済的に困窮していたことが分かった。警察は旧統一教会への恨みのほかに、生活の困窮も犯行に繋がった可能性を視野に捜査を進めている。
そんな山上容疑者に対し、Twitter上で寄せられているのが「無敵の人」といった声だ。「無敵の人」は、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏が使い始めた、社会的に失うものがなく、犯罪を起こすことに躊躇がない人を意味する、いわゆるネットスラングだ。
「無敵の人」と私たちはどのように向き合っていけばいいのだろうか。ニュース番組「ABEMA Prime」に出演したひろゆき氏は「花火を違法としない限り、同じような武器が簡単に作れてしまう」と話す。
「政治家が、こうした犯罪をできないようにしようとしても、黒色火薬は花火に入っている。今回も合法な形で薬きょうを手に入れて、火薬を詰めて、そこに鉄球を入れたものだ。普通に合法で手に入るし、もしそれを止めようと思ったら花火を禁止にするくらいしかない」
凶行に及んだ山上容疑者の状況をどのように見るべきなのか。加害者家族や犯罪に巻き込まれた人の支援を行うNPO法人「ワールド・オープン・ハート」理事長の阿部恭子氏は「問題は孤独だ」と分析する。
「私も実際、加害者や塀の中に入ってしまった人と話をする機会がある。やはり、この問題を突き詰めていくと“孤独”が問題だと思う。ただ、山上容疑者が孤独をどれだけ認識できていたのか。これが疑問だ。加害者になった人たちは『実は僕は孤独だった』『SOSを求めていた』と認めるのには、とても時間がかかる。だから、怒りで表出する。本人が弱音をどういうふうに出すことができればよかったのか。これはすごく感じている」
ひろゆき氏が「孤独であることを認めたとしても、お金もないし友達もいなければ、誰も近づいてこない。『孤独だった』と認めても、余計に絶望が深まるだけだと思う」と話すと、阿部氏は「事件を起こした後、更生の過程でしか私もなかなか関われない。どのように予防に繋げていくか。正直、答えはいま出しにくい」と答えた。
ひろゆき氏は「ネット上でいろいろな強い言葉で書いていて、男性の友達がいなそうな人はいっぱいいる。そういう人が外から見て『いや絶対こいつ加害者でしょ』と思っても、無理やり警察に連れていくわけにはいかない。攻撃性をすでに出している人がいても、関わるのをやめようと先に周りが離れていく」と指摘すると、阿部氏は「過去に『事件を起こすぞ』と言っている息子さんとご家族で面談したことがある」と話す。
「ご家族が『うちの息子が非常に物騒なことをいつも言っている』と。お話を聞いて『怒りはどこからくるの?』と聞くと、なかなか友達ができづらかったり、とてもプライドの高い方が多かった。人に頼る選択肢がなかなかない。『見下されたくない』と思ってしまう人が多い。この場合は家族がいたからSOSを出して繋がったが、完全に一人だけだったら難しい」
自殺や虐待の相談窓口は複数あるが、自身の加害性に悩む人に向けた専用相談窓口はない。実際に関わっていく相談員やコストの問題があるのだろうか。
ひろゆき氏は「たとえばキリスト教では、牧師さんに相談できるシステムが内包されている。『実は殺人を犯しました』と懺悔する人がいても、その牧師さんは警察に言わない。宗教的なものや守秘義務のある人がカウンセリングに乗るのも難しいのだろうか」と阿部氏に質問。
阿部氏は「今の自殺対策窓口にも、対応できる相談員がいないことはないと思う。私も自分の領域しか申し上げられないが、全相談のネットワークで『こういう相談ありませんか』と聞いたら、何件かはそういった相談が来ていると思う。そこのデータを積み重ねて、ニーズをちゃんと分析してみたい」と答えた。
ジャーナリストの堀潤氏は「たしかに、虐待の通報ダイヤルなどは『子どもを虐待してしまいそう』と思ってしまう父親や母親の相談も受け付けている。公的な取り組みの一つとして、加害側の方の相談も受けることはできるだろう。僕も事件に関しては、被害者よりも加害者側の取材をすることが多い。ある意味、加害者側の立場に寄り添うという言い方が適当か分からないが、対等な目線で話すこと自体が、なかなか社会から理解されづらかったりして、まだまだ理解促進が必要なのかなと感じる」と述べる。
阿部氏は「私はNPOをやっているが、加害者家族は非常に人気がない支援だ。子供や、今は高齢化社会なのでお年寄りとか、いわゆるマイノリティ、弱者のキーワード、そういうところに支援は集中する。だから、いろいろな支援のところから、溢れている人たちであることは間違いないと思う。弱者は、性別や生まれながらの属性だけでは決められない。そこを再定義し直さなければいけないのではと思っている」と語った。
「無敵の人」にならないために社会ができることはないのだろうか。米・イェール大学助教授で経済学者の成田悠輔氏は「印象論だが昔は今よりも“会社での無意味な飲み会”など理由のない不条理な人間関係が存在していた気がする。『何者でもない人が自分を語れたり説教出来たりする場所』みたいなものが社会から消えている。そういう誰もが人と繋がりながら生身の人間に語れる、昔の社会っぽい、昭和な感じのものを取り戻すのがいいのではないか?」と述べた。
これに対してひろゆき氏は「みんな忙しいので、『誰かの人間の負担を強いないとこの問題解決しない』という解決策はこの時代無理だと思う」と反論。山上容疑者が供述で経済的困窮を上げていたことを念頭に「生活保護を受給しやすくするとかのほうが、犯罪に走らないのではないか」と主張した。(「ABEMA Prime」より)
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