■3年前、E-1韓国戦のピッチで味わった悔しさ
スコアレスドローに終わった中国戦で、62分に投入された相馬勇紀は、停滞気味だった左サイドを活性化させた。
「相手のブロックを打開する策はドリブル。1人を剥がすとチャンスが生まれる。試合を見てそう思ったので、仕掛けるところを意識しながら入りました」
このEAFF E-1サッカー選手権は会場が、かつて所属した鹿島アントラーズと現在所属している名古屋グランパスのホームということで、国際大会といっても、慣れた環境を利用しながらアピールできるのは大きなメリットだ。ただ、豊田のピッチコンディションが現在あまり良くないなかで「やっぱり球際のところがすごく大切になってくる」と語る。
特に次の相手は韓国。前回大会は相手のホームで敗れて目の前で優勝を決められ、相馬もピッチで悔しさを味わった。その時に感じたのも、球際の大事さだったという。
「3年前の韓国は球際の部分が本当に強くて、どの選手もフィジカルが高かった印象です。今年も似たようなチームなので、球際のところでどれだけ上回れるか。最後は個のクオリティが高まってゴールにつながるかだと思います。その2つを意識しながらやっていきたいです」
今回のEAFF E-1サッカー選手権における韓国と日本の大きな違いとして、招集されている主力選手の人数にある。韓国といえば、ソン・フンミン(トッテナム)のような欧州で活躍する選手や、カタールでプレーしている選手、さらにクォン・ギョンウォン(ガンバ大阪)のようなJリーグの選手など多くの海外組がいる。
しかしその人数は日本よりも少なく、ベースはKリーグに在籍する”国内組”だ。今大会に招集されているメンバーも、キャプテンのキム・ジンス(全北現代)やキム・ジンギュ(全北現代)、クォン・チャンフン(金泉尚武)、ナ・サンホ(FCソウル)、オム・ウォンサン(蔚山現代)など、大半はA代表の常連で、4年前のW杯経験者も多い。
一方の日本は今回、国内組でも森保監督が公表していた大迫勇也(ヴィッセル神戸)、長友佑都(FC東京)、酒井宏樹(浦和レッズ)に加えてGKの権田修一(清水エスパルス)がメンバー外となり、唯一の前回W杯経験者だったFWの武藤嘉紀(ヴィッセル神戸)も合流前のケガで辞退となった。
結局、今回のメンバーで3月のアジア最終予選に招集されていたのは、谷口彰悟と山根視来(ともに川崎フロンターレ)だけ。6月シリーズを含めてもGKの大迫敬介(サンフレッチェ広島)が加わるぐらいだ。佐々木翔(サンフレッチェ広島)や、スペイン2部のウエスカに移籍が決まった橋本拳人(ヴィッセル神戸)、畠中槙之輔(横浜F・マリノス)など、2次予選で招集されていたメンバーもいるが、経験値を比べると韓国とは大きな差がある。
国際経験だけではない。韓国はパウロ・ベント監督が就任して4年目になるが、戦術的な共有が進んでいる。良くも悪くも、Jリーグからの寄せ集めチームである日本とはベースが違う。何より4カ月後に控えたカタールW杯に直結するメンバーが多いので、当落戦上の選手もよりサバイバルの現実味は強い。
日本は6月シリーズで28人が招集されていた事実を考えても、上記の谷口と山根を除けば、26人のメンバーに入ってくるのは多くて3人程度。もしかしたら0人かもしれない。そうした極めて狭き門であることを選手たちも認識して、それでも日本を背負う気持ちで、優勝を目指しながら、個人のアピールも続けているわけだ。
■ほぼベストメンバーの韓国を相手にカタールW杯への狭き門を突破できるか
そうしたEAFF E-1サッカー選手権の日本代表チームにあって、相馬はカタールに最も近い選手の一人と筆者は見ている。「爆発的なスピード、球際、走力の部分では誰にも負けないというか、負けたくないと思っている」と語る通り、個人で局面を打開できる能力がある。攻守の強度はフルメンバーの基準で見ても高い。何より勝利のために、周りの選手に遠慮なく要求していけるメンタリティと発信力は目を見張る。
カタールを目指す上で、左サイドには三笘薫という強力なライバルがいる。しかし東京五輪のように、三笘と相馬といった個人能力の高い左のアタッカーが二人揃っていれば、どちらかをスタメンで起用し、もう一人はジョーカーとして起用できる。実際に東京五輪でチームを率いていた森保監督も、起用法をイメージしやすいだろう。
「客観的にも現実的にも、今の自分が当落線上よりもさらに下の位置にいることは認識しています。そのうえで、最後に必要だよねとなるのは得点に絡める選手であり、自分で点が取れる選手だと思う」
開幕前にそう語っていた相馬だが、まさしく韓国戦はゴールに直結する仕事でチームを勝利、そして優勝に導けなければ、先の道も開けてこない。カタールW杯への”狭き門”を相馬が突破してくること。それは日本が躍進するための有効なピースを加えることを意味するはずだ。
文/河治良幸
写真/高橋学