今週に入り大詰めを迎えている、令和4年度の最低賃金の引き上げ額をめぐる中央最低賃金審議会の小委員会での議論。25日の8時間半にわたる話し合いは労働者側と経営者側が引き上げ幅などについて折り合わず、結論は27日以降に持ち越されている。
政府は現在の時給930円(全国平均)に対し1000円を目指しており、ここで決められた額が地方最低賃金審議会、さらに都道府県の審議会で各地の最低賃金として決定されていくことになる。2021年は過去最大となる28円が上がって930円になったが、地方によってばらつきが見られるのはそのためだ。
■「すぐに転職するという気概を持たないといけない」
元大蔵官僚で慶応義塾大学大学院の小幡績准教授は「最低賃金制度に従わなければ違法になるので、影響力がある。政府としては政治的な見せ方として加重平均で1000円を超えたいという思惑があるので、都心部が上がれば全国で1000円に乗る可能性はある。2022年が大チャンスだと思う」と話す。
「ただ、上げ過ぎると失業が増えてしまうということで、どこまで余力があるかを各県ごとに細かくデータを取って計算し、調整している。東京はいくらでも上げようと思えば上げられるが、地方との格差があまりつきすぎるのも問題なので、そのあたりを慮って揉めているんだと思う。
とはいえ、最低賃金で働いている人がいっぱいいるという問題もある。例えば僕たちはアシスタントを雇うことがあるが、その時給は文部科学省や慶應義塾大学が決めることになり、ほぼ最低賃金だ。だからゼミ生に頼もうとしても、みんな自分のビジネスで忙しいし、“小幡さんの手伝いは1040円だからやっていられない”と言われる。
もちろん雇用する側にとっては時給を上げることは負担につながるわけだが、上げてやれよと思う。つまりガソリンには文句を言えないが、人間であれば“そんなに払えないよ”と言えるから押し返そうとするということだ。逆に言えば、そういう立場の弱い人を法的にサポートしてあげようというのが最低賃金制度だ。
一方で、働いている側にも原因がある。なるべく賃金を払いたくないのが経営者だ。世界的には同一労働・同一賃金という原則があるが、非正規雇用が増加している日本では実質的にそれを破り、バイトやパートに正社員と同等の仕事をさせて、支払うのは最低賃金ということを続けている。正社員の方も労働組合の組織率が下がり、会社の景気も良くないからと、“正社員として雇い続けてくれるなら…”と賃上げ交渉をしなくなってきた。
そう考えると、政府のせい、景気のせいということではなく、ちゃんと働いているし、価値もあると思うんだったら賃金をもぎ取らなくてはいけないし、それもしない、転職もしないというなら自分が悪い。アメリカでは、すぐに転職する。そういう気概を持たないといけない」。
■「ネゴシエーション以上にマクロ経済的で科学的な手法を」
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「2つ大きなポイントがあると思う。一つは、こういう会議に出てくるのが、労働組合系の人だということだ。労働組合があるのは全体の20%しかない大企業だけで、しかも最低賃金よりも高い時給を支払っていることが多い。一方で、多すぎる中小企業やその経営者に対する様々な優遇制度があるという問題もある。そういう中で、“労働者の代表”が連合(日本労働組合総連合会)の人でいいのか、ということは考えないといけないと思う。
もう一つが、“対前年比”という、ベアアップのような議論になっているということだ。そうではなく、物価上昇率や、この時給で8時間×20日働いた時に、生活保護制度で受けられる額よりも多くの稼ぎが得られるか、という観点から最低賃金は決められるべきではないだろうか。逆に言えば、この物価高の中で20円上がった、30円上がった、といった議論をしていても意味がない。
その意味では、ネゴシエーション以上にマクロ経済的で科学的な手法で自動的に最低賃金が決まるような仕組みにしないといけないと思うし、全労連や全労協の“全国一律1500円へ”というのも、経済学的な根拠に基づいて議論されるべきだ」。
一方、自身も中小企業を経営する時事YouTuberのたかまつなな氏は「人を雇いたくても社会保険料の負担を考えると躊躇してしまい、アルバイトや業務委託に、という判断をしてしまいがちだと思う。結局のところ、“この人を正社員にしたほうがいいよね”というくらい非正規雇用の方々の賃金を上げないと、企業の自助努力だけでは難しいと思う。
その結果、経営が切迫する企業が出てきても、それでいいと思う。様々な補助金も受けているわけだし、最低賃金が上がったからといって経営ができない企業は、申し訳ないが潰れたらいいし、そうでなければ大きいところと合併して成長を目指すなどして、流動性を高めていく方がいい」。(『ABEMA Prime』より)
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