加藤元死刑囚の執行に「もっと早く執行すべきだった」「山上容疑者のことを思い出した」存置派、廃止派の弁護士に聞く
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 26日朝、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件で17人を死傷させた加藤智大元死刑囚の死刑が執行された。事件の発生からは14年、死刑の確定からは7年あまり。ネット上には「税金で何十年も生かし続ける意味はない」「人を殺してはいけないと言っている国が人を殺すのは矛盾を感じる」など、様々な意見が交錯している。

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 そこで27日の『ABEMA Prime』では、「人の命を奪う刑そのものに反対」と主張するNPO『CrimeInfo』代表の田鎖麻衣子弁護士と、「もっと早く執行すべきだった」と話す「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」事務局長の髙橋正人弁護士に話を聞いた。

■執行には“国家の意図”が存在するのではないか

加藤元死刑囚の執行に「もっと早く執行すべきだった」「山上容疑者のことを思い出した」存置派、廃止派の弁護士に聞く

 加藤元死刑囚の執行について、田鎖弁護士は「彼が、というところまでは予想していなかったが、“時期的に、そろそろ執行があるのではないか”と危惧していたので、やり切れないというか、残念な思いだ。参院選が終わり、臨時国会や内閣改造を控えた時期だ。おそらく古川法務大臣も交代になるということで、今のうちにもう一回執行するということが織り込み済みだったのではないか」との見方を示す。

 「もちろん刑事訴訟法475条2項では死刑の執行について“判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない”としているが、この規定は“訓示規定”といわれている。条文では続けて“但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない”と定めている。この但し書き”の部分が重要で、生命を尊重し、あくまでも慎重でなければならないということだ」。

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 一方、髙橋弁護士は「それは邪推で、たまたま時期が重なっただけではないか。そもそも法務大臣が恣意的に決められるものではなく、法務官僚が記録を改めて精査し、“間違いない”ということで大臣に上げ、そこでさらに精査するわけだ。ある程度の時間はかかっているし、慎重さもある。政権の意図は入っていないと思う」と反論する。

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 「また、訓示規定というのは“努力規定”だ。6カ月以内に執行しなさいと書いてある以上、執行しないといけない。但し書きについても、再審請求中の場合は6カ月以内に執行してはいけないという意味ではなく、6カ月を超えてもやむを得ないと言っているだけなので、再審請求中でもあっても6カ月以内に執行して構わない。

 ただ現実には様々な手続きが必要だし、左翼的な政権の場合、執行しないという法務大臣が出てくる。結果、106人もの確定死刑囚がいるという事態になってしまった。本来であれば、事件の内容や死刑囚がどういう人かに関わらず、確定した順に粛々と執行されなければならない。その意味では、判決確定から7年が経っての執行というのは、遺族の心情を考えれば遅きに失するものだ」。

加藤元死刑囚の執行に「もっと早く執行すべきだった」「山上容疑者のことを思い出した」存置派、廃止派の弁護士に聞く

 しかし田鎖弁護士は「ブラックボックスになっているわけで、前もって記録を読み込んで準備しているとか、何の意図もないと断言することはできないと思う。後にメディアを通じて法務官僚の証言が出てくるといったこともあるし、“見せしめ”という国家の意図はあると思う。改めて加藤元死刑囚の判決を読んでみると、自分は非常に不遇な環境に置かれていると考え、それを訴えて認められたいということで暴挙に出たというところで、私は何度も(安倍元総理の銃撃事件の)山上被疑者のことを思い出した」とした。

■“見せしめ”による抑止よりも“遺族の心情”だ

加藤元死刑囚の執行に「もっと早く執行すべきだった」「山上容疑者のことを思い出した」存置派、廃止派の弁護士に聞く

 様々な殺人事件で遺族側代理人として活動した経験を持つ髙橋弁護士は、死刑執行のインパクトが与える犯罪抑止効果よりも、この“遺族の心情”を重視すべきだと訴える。

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 「平成17年にできた『犯罪被害者等基本計画』でも、スタンスが社会秩序の維持のためだけではなく、被害者の権利利益の回復のためだとふうに変わっている。つまり被害者が区切りをつけて新たな一歩を踏み出すためだということだ。死刑判決というのは遺族にとっては通過点に過ぎず、執行されて初めて区切りが付くということだ。

 実際、被害者遺族からは、“抑止力は関係ない”という声も聞かれるし、今まで400人以上のご遺族と会ってきたが、死刑廃止を訴える人は1人しか知らない。やはり事件の最大の当事者が加害者と被害者である以上、まず両者の気持ちを聞かないといけないし、家族の命を奪われた被害者遺族からすれば、加害者にとって最も大切な命を差し出すことが償いだ、という気持ちを持っている人が大多数だということだ」。

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 田鎖氏は「“ご遺族”といっても、様々なご遺族がいる。死刑を求めることをはっきりとご主張なさるが多いことも承知している、時間の経過によって心情が変わっていくこともある。日本の場合、バッシングや嫌がらせを恐れ、ご遺族が発言をすることは難しい状況もある。

 また、そもそも殺人事件で加害者が死刑になるのは2%に達するかどうかという割合で、ほとんどは有期刑になる。加害者が起訴すらされない事件もたくさんあるし、加害者が事件直後や手続き中に病気や自殺の形で死亡してしまい、気持ちのやり場のない遺族もたくさんいる。やはり“遺族”という言葉で一括りにするのはとても失礼で、やるべきではない」とした。

■「死刑制度もやむを得ない」が8割の現状をどう考えるのか

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 犯罪抑止効果への疑問だけでなく、冤罪の可能性などから死刑廃止を訴える声は世界に根強く、死刑を採用する国は今や少数派だ。しかし日本では「死刑制度もやむを得ない」と答える人が8割を超えている(内閣府、2019年)事実もある。

 磯崎官房副長官も26日の会見で「国民世論の多数が極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えており、凶悪犯罪がいまだ後を絶たない。このような状況等に鑑みると、死刑を廃止することは適切ではないと考えている」と政府の立場を説明している。

加藤元死刑囚の執行に「もっと早く執行すべきだった」「山上容疑者のことを思い出した」存置派、廃止派の弁護士に聞く

 田鎖弁護士は「生命を奪い、その存在を消す死刑は、人の尊厳を否定することだ。人権尊重の考えが広がる中、自然と死刑廃止がメインストリームになり、いまや“事実上”も含め、3分の2以上の国が廃止国になっている。存置国である55カ国中、2021年に執行したのは18カ国だけだ」と説明する。

 「内閣府の世論調査でも、“将来、状況が変われば死刑を廃止してもいい”という人は全体の40%以上、“終身刑を入れたら廃止してもいい”という人も35%いる。つまり積極的に賛成しているわけではなく、全体的には消極的だということが言えると思う。

 私と一緒にNPOを運営している研究者の佐藤舞さんたちの調査でも、7割が“政府が死刑を廃止したら受け入れる”と回答していて、死刑維持のために戦う、という人は少数派だということが明らかになっている。やはり国際人権基準というのは、それなりに議論を重ねて確立されてきたものであって、合わないということは、本当はそんなにないはずだ」。

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 髙橋弁護士は「死刑制度というのは、その国の文化や宗教に関わってくるものだし、日本に対して廃止を呼びかけている国は治安に責任を負ってくれるわけではい。むしろそういうことを言っている国こそ、日本よりも治安が悪いのではないか。

 例えば欧米の警察官であれば、加藤元死刑囚を事件の現場で射殺していただろう。しかし日本では警察官が身の危険を顧みずに素手で捕まえ、じっくりと言い分を聞き、裁判を行って裁判員の意見も聞き、適正な手続きに基づいて死刑を執行した。我が国のほうが、よほど文化的で人権を尊重していると思う。現場射殺という世界の潮流に対して、適正な手続きを世界に広めていくべきではないか」。

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 これに田鎖弁護士は「欧州、あるいはニュージーランドなどでの警察官は基本的に丸腰だ。そういう国は2020年段階で18カ国あるようだが、そのうち死刑存置国は1カ国なのに対し、事実上の廃止国が2カ国、残りは完全な廃止国だ」と指摘。

 その上で「人の生命を奪うことは絶対にしてはいけないし、本当に酷な言い方だが、“あなたは存在する価値もない”と他者を根こそぎ否定するような権限はない。刑罰制度というのは、国家が、その人が何をしたのか、そして、それにふさわしい刑は何なのかを定め判断を下すと仕組みだ。遺族のケア、サポートをするのは当然のことだが、全てを刑罰制度の中でやること不可能だ。まずそれを認めることから始めるべきだと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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