全額国費負担で9月27日に日本武道館で執り行われることが決定した安倍元総理の国葬。政府は安倍元総理が憲政史上最長の8年8カ月にわたりその任にあったこと、経済再生・外交の分野で大きな実績があったこと、国内外から多くの哀悼の意が寄せられていることを理由に挙げている。
一方、野党・立憲民主党の泉代表は「説明や審議を我々としても求めてきたが、そういったものも何もない。私は賛同しかねる」、共産党の小池書記局長は「法的根拠なしに国会の審議すらせずに閣議決定で行う。これはまさに民主主義を踏みにじるようなやり方ではないか」と慎重な姿勢を示している。
安倍元総理との交流もあった元航空幕僚長の田母神俊雄氏は「安倍元総理がやられた政策に全て賛成というわけではないが、歴代の総理と比べて大きな功績があったことは認めざるを得ないと思う。長期にわたり総理を務められ、日本という国を世界にアピールした。すでに120以上の国と地域から元首の立場にあるような人たちが参加すると言っている以上、国を挙げてそれに応えるのは当然ではないか。なぜ、国葬にこんなに強く反対するか理解できない」と話す。
「今までの総理の場合、国葬にすべきだという声は上がらなかった。しかし安倍元総理についてはそういう声が上がっている。あまり難しく考えることではないと思うし、原則的な基準がどうこうではなく、時々の国内外の情勢を見て判断すべきだ。すでに国民の半数以上が国葬を支持している。全員が賛成するということはあり得ない。閣議決定でも決まった。それで十分で、国会で審議するような話でもないと思う」。
■「圧倒的な納得感がなければならない」
これに対し、立憲民主党の小西ひろゆき参院議員は「国葬とは国家が行うお葬式だ。そして国家には私たち国会議員も国民の皆さんも含まれる。なぜ安倍元総理のお葬式をしないといけないのか、ということについての圧倒的な納得感が国家の構成員になければならない」と反論する。
「岸田総理は漠然と“日本経済の再生”と説明していたが、安倍元総理自身が“アベノミクスは道半ば”と言っていたように、日本だけ賃金が上がっていない。しかも円安と“岸田インフレ”によるダブルパンチの物価上昇だ。戦後の焼け野原から今の豊かさの基盤になる高度成長時代を作った池田勇人元総理ですら国葬ではないのに、なぜ安倍元総理が国葬なのか。また、安倍政治の下では森友学園問題の決済文書の改ざんという、憲法に基づく国政調査権の発動を邪魔した行為もあった。しかも我々が官僚だった時代には見られなかったような“答弁拒否”も横行している。
岸田総理の基本的な経済政策はアベノミクスそのものであり、また自身も答弁拒否を連発している。安倍政治に乗っかった上で政治だし、自民党の最大派閥である安倍派の人たちの支持も得なければいけない。そういうことを考えてのことだろう。やはり社会の中で最も厳粛な行為であるお葬式を政治利用しようとしているのではないか。
もしそうでないと言うのであれば、立憲民主党が要求している通り、どういう基準で考えたからなのか、国会で説明しなければならない。しかし岸田総理はそれを全くしないままに、いきなり先週の金曜日に閣議決定してしまった。それどころか、政府で作っていた紙を閣議決定が終わるまで国会議員に出さなかった。やはり憲法と法秩序、そして議会政治を破壊した政治を行った安倍総理の国葬は、やってはいけないことだと思うし、国家的な都合で特定の政治家の国葬をすること自体、民主主義社会のあり方として問題があるのではないか」。
さらに小西議員は、吉田茂元総理の国葬(1967年)の例も踏まえた上で、次のように指摘する。
「吉田元総理の国葬は佐藤栄作内閣の下で行われたが、実は佐藤内閣は以前から“国葬をするためには法律が必要だ”という政府見解を作り、条文まで作って国会に提出する準備をしていた。しかし佐藤元総理はそれを破棄し、吉田元総理が亡くなった当日に“国葬をやるぞ”と言い、3日後には閣議決定した。このことは私が国立公文書館で確認してきたことだが、吉田茂元総理の国葬も法律の根拠を欠き、非常に乱暴な形で執り行われたということだ。そして岸田総理はそれと同じことをやっている。
また、田母神さんのお考えは、実は歴代の自民党政権の考えにも反している。近年は内閣、自民党葬が慣例として確立しており、政治家に対してやらない。国葬法も必要ないというのが自民党も含めた姿勢だった。もちろん、昨年の中曽根総理の時のように議論は当然あると思うが、その形であれば、少なくとも国会、国民のお葬式ということではなくなる」。
■国民の支持が得られるよう努力すべきだ
二之湯国家公安委員長は28日、警備体制について「我が国の威信をかけて、葬儀の執行に伴う警備に万全を期すべく警察庁を指導していきたい」としている。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「何十年も時間があったのに、国葬のため法律を作ってこなかったのは国会議員の問題ではないか」と指摘。さらに「国葬に値するといわれるような元総理を簡単に銃撃できてしまうほど警備の緩い国であることを世界に知らしめてしまった。このまま世界の要人が日本に集まってきたら、それこそ狙い放題ではないか。そう考えれば、国が責任を持つ国葬の方が万全な警備体制を敷くことができるし、外交上も安心ではないか」と話した。
また、EXITのりんたろー。は「税金を使う以上、賛成している人がたくさんいるんだから議論しなくてもいいということにはならないと思う」、兼近大樹も「賛成している人たちも反対している人たちも、結局は政治利用ではないか」。さらにYouTuberでピン芸人、現役京大生のわっきゃいは「法解釈の問題と、税金やコストの問題、そしてプロセスの問題など、いろんな話がごちゃごちゃになっている。正解と最適解は違うと思うので、国益のためにより良い方向性を与野党一緒になって見出してほしい」と訴えた。
東洋経済新報社の山田俊浩氏・会社四季報センター長は「そもそも叙勲制度が存在しているし、内閣支持率が落ちた時の浮上策として使われてきた国民栄誉賞もある。ただ、これらは生きている人なら拒否することができる。しかし今回の国葬はそうではない。岸田さんは国葬にすると言った以上、後は国民の支持が得られるように努力すべきだし、なるべく税金を使わなくて済むよう、クラウドファンディングにしてもいいと思う」と提案していた。
28日には各省庁の幹部ら30人で構成される「葬儀実行幹事会」の初会合も行われ、森昌文総理補佐官は「ご遺族のご意向なども踏まえ、厳粛かつ心のこもった国葬儀となるよう鋭意準備を進めていきたいと考えている」と述べている。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側