台湾社会に衝撃が広がるカンボジアの“人身売買”、現場は「警察も手を出せぬマフィアの"治外法権"エリア」…日本に被害拡大の可能性は?
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 「出張で台北に来ているが、この1、2週間は連日ものすごい騒ぎだ。新聞も1面トップで報じ続けているし、テレビもこの話題でもちきりだ」。

 アジア情勢に詳しい、ジャーナリストの野嶋剛氏(元朝日新聞台北支局長、大東文化大教授)も驚きを隠せないと明かすのが、台湾社会を震撼させているというカンボジアでの人身売買問題だ。

■臓器売買、売春…“身代金”を払って帰国したケースも

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 台湾当局によれば、「高収入の仕事がある」と誘われて現地に赴いた人たちが監禁・暴行を受けたり、人身売買されたりするケースが相次いでおり、通報があった420件のうち、帰国できたのはわずか46人に過ぎないのだという。

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 「実際に連れていかれるのは男性の方が多く、それこそ売り飛ばされて殺害され、臓器を売りさばかれてしまうというケースもあるようだし、女性も売春の強要などの悲惨な目に遭うケースが多いようだ。

 ただ、これまで犯罪集団としても秘密裏にやってきたのだろうが、身代金の要求や行方不明者・死者など極端に悪質なケースが出てきたことで、当局や国会議員も本腰を入れ始めた。すでに空港ではカンボジア行きの便に乗り込もうとしている人に警察が呼びかけているし、特に騙されていそうな人については説得を試みるといった光景も見られるようになっている。

 今日(23日)も10人ぐらいの若者が台湾に帰ってきたことが大きく報じられていた。帰国にあたっては現地の犯罪集団に多額の“身代金”のようなお金を払ったということだが、そうでもしなければ帰してもらえないといくらい根が深く、簡単には手を出せないのだろう。全員を救出することは難しいかもしれないし、長期化する可能性もある。

 実際、去年以降、月に1000人くらいがカンボジアに渡っていた可能性があるので、現時点で分かっている被害も“氷山の一角”に過ぎない可能性がある。未確認のものも含めて様々情報が流れていて、どれだけ被害が拡大するのかと社会が戦々恐々としている」。(野嶋氏)。

■国交がなく、台湾側が救出しにくい状況に

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 同様の被害は他の地域でも発覚しているようだが、それでもカンボジア警察が介入しにくい事情があるのだという。

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 「低賃金に苦しむ若者、コロナ禍もあって仕事が見つからないというような若者に対して中国語のインターネットの広告、口コミなどで“数十万円の月収が保障される”といった甘言を弄して誘い込むのが基本的な手口のようだ。また、カンボジアの入国規制は比較的緩く、パスポートさえ持っていれば入れる状況だった。

 実際、犯罪集団は“パスポートもチケットも全部取ってあげるよ、現地までの交通費もいらないよ”という、いわば“至れり尽くせり”だったようだ。そしてシアヌークビルというエリアに着いた途端にパスポートを取り上げ、ビルの一室に押し込む。そこから無理やり特殊詐欺などに従事させ、帰国を要求しても許さない。

 これらは人身売買の“お決まりのパターン”ではあるが、台湾・香港だけでなく、東南アジアの他の地域でも被害が出ているとみられているし、“中国語で誘う”ということ、そしてシアヌークビルということがポイントだ。このエリアは中国政府が展開する“一帯一路構想”のアジアにおける最重要拠点で、この4、5年で中国企業が進出し、中国語が公用語のようになっていた。

 しかしコロナなどもあってホテルやカジノといったビジネスが上手くいかなくなり、そこに中国・台湾・香港あたりに根を張っているスネークヘッドといわれる人身売買集団、ヤクザのグループが手を組み、大掛かりな国際的犯罪シンジケートを作って入り込んできた。このようなマフィアが仕切っているエリアは“治外法権”的になっていて、カンボジア警察でも手を出せない。ましてや台湾とは国交がないので、在外公館のようなものもない。台湾で長く発覚しなかったのには、このように台湾側が救出しにくい状況にあったことも要因のようだ」(野嶋氏)。

■日本でも被害者が出る可能性が?

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 一方、中国の反応はどうなのだろうか。そして現時点では報道の少ない日本への影響は。

 「今のところ中国の責任を問うような話にはなっていないし、公式メディアからの報道もない。むしろインターネットでは中国人の被害者が出ているのではないかという情報も広がっている。あくまでも犯罪行為であって、一帯一路が起こした構造的な問題のもとで起きてしまった悲劇であるという受け止めではない論調に見える。

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 そして日本における被害も全くないとは言えないと思う。やはり低賃金、失業などで居場所を失ってしまった若者が甘い話に飛びつくという構造は台湾や香港とは変わらない。言語の違いはあるものの、甘言を弄して海外に連れ出し、酷い目に遭わせるという詐欺が日本に起きる可能性は低くはないのではないか」(野嶋氏)。(『ABEMA Prime』より)

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