アメリカのバイオテクノロジー企業「バーブ・セラピューティクス」が7月、ニュージーランドに住む血中コレステロール濃度が極めて高い患者に治験用の遺伝子編集の薬「クリスパー」の一種を注射で投与した。肝細胞の一部を永久に編集できるそうで、バーブ社の医療責任者アンドリュー・ベリンガー医師は「世界中の何百万人もの動脈硬化性心血管疾患の患者に新しい選択肢をもたらす。1人目の投与は目的達成への大きな転換点だ」と話している。
このニュースについて、遺伝子解析のベンチャービジネスを展開する株式会社ジーンクエスト代表取締役・高橋祥子氏に話を聞いた。
――これはどのような実験でしょうか?
「『クリスパー』というゲノム編集ツールで肝臓の細胞の一部(DNA の一文字)を編集すると、悪玉コレステロールであるLDLの血中濃度を一生下げられるのではないかという実験。初めて人で臨床試験を行った。この治験の結果、効果と安全性の両方が確認できれば、世界最大の死因である心疾患の“究極の予防法”になるかもしれない」
――遺伝子編集した薬を注射で打つことで、肝細胞以外に作用することはないのでしょうか?
「クリスパーというツール自体が特定のターゲットの遺伝子を狙ってカットしていくもの。他の副作用がないとは言い切れないが、基本的にそういったリスクは低い。そこも含めて安全性を確認していくところもある」
――ゲノム編集された人が子どもを産む場合、影響はあるのでしょうか?
「ゲノム編集には2種類あって、子孫にも影響する生殖細胞系の遺伝子編集と、特定の組織だけの編集で子どもには遺伝しないものがある。今回は後者で一部だけを編集するので、子どもに編集された遺伝子情報が伝わっていくものではない」
――「人間の遺伝子を操作する」というパンドラの箱を開けてしまうと、悪用される危険はないのでしょうか?
「技術的には比較的簡単に操作できるので、悪用されてしまうリスクもはらんでいる。技術的に何ができて、何ができなくて、できることの中でも『これはやっても良いが、これはやってはいけないよね』という法律やルールづくりが必要になってくる」
(『ABEMAヒルズ』より)