「お母さんへ。22年間、ずっと私を育ててくれてありがとう。投資詐欺の件でたくさん迷惑を掛け、心配を掛けてしまってごめんなさい」
【映像】「なんで? ハハハ」お金を振り込ませた男との会話(音声あり)
大学の同級生から紹介された男に「暗号資産」の運用をうたう投資に誘われ、150万円を支払い、命を絶った川上穂野香さん(22歳)。
穂野香さんが投資を持ち掛けられたのは、2年前の8月末。きっかけは、大学時代の同級生からInstagramに来たメッセージだった。穂野香さんが何気なく返信すると、話が一気に進んでいったという。
同級生は「紹介したい人がいる」と、LINEを通じて男を紹介。当時のやりとりの一部始終が残されている。
愛娘を失った母・佐永子さんは「その日のうちに、すぐにグループLINEを強制的に作られて。リーダー格の男にいろいろLINEで説明されていますね」と話す。
穂野香さんが「所謂マルチですかね?」とLINEで質問すると、男は「マルチとかネズミでは無いです」「借入理由は引越しで60ー70万円くらいって言えば40ー50万は1社で借りれるから、そこから50.50とか借りたらいいよー!」と返信した。
最初は疑っていた様子の穂野香さん。男は、考える間を与えないためか、LINEで100件にも及ぶやりとりを繰り返し、「新事業の9月1日までの入金の方は、レバレッジ4倍なんで。正直、今やるのを強くおすすめしております」と入金を催促する内容もあった。
穂野香さんが2歳の時、両親は離婚。決して裕福とは言えない暮らしのなか、穂野香さんは母の苦労を見て育った。穂野香さんは、大学の奨学金として借りた300万円以上の返済がまもなく始まる予定だった。
穂野香さんは、男から指示された通り、消費者金融3社から50万円ずつ借りて、合計150万円を支払っていた。しかし、穂野香さんが手を出した投資話の実態は「モノなしマルチ商法」だった。
「モノなしマルチ商法」とは、暗号資産など実態の不明な投資を持ち掛けて金を集め、さらに友人らを勧誘させて投資を拡大する手口。しばらくすると、穂野香さんの様子に変化があったと母・佐永子さんが明かす。
「亡くなる2週間くらい前に、元気がないというか。家でもソファに寝転がって、携帯をずっと見て。全然笑わずにボーッとしていました。『どうしたん?』って聞いても『いや、なんでもない』とか言って。『どうしたん?全然言ってよ』と言ったらポツポツ言い出して。『ジュビリーエースみたいなんに大学の友達から言われて』と、経緯をポロポロ言い出して。『お金を借りて入れてしまった』という感じでした」
このとき、穂野香さんは体調も悪化し、うつ病の診断も出ていたという。娘を心配した母親は、旅行に行くよう勧めた。
交際相手との九州旅行。旅行先の写真では、穂野香さんも笑顔を見せていた。
旅行から帰ってきてすぐ、交際相手の男性とともに投資話を持ち掛けてきた男に会いに行った穂野香さん。
投資話を持ち掛けた男は、返金を求める穂野香さんに対して、こう笑い飛ばした。
穂野香さん「誰が誰にお金を渡して……」
お金を渡した男「(投資先の)会社がやっていることなので」
穂野香さんの交際相手「こいつの150万円、返してほしい」
お金を渡した男「なんで?ハハハ」
交際相手「僕からしたら(投資を)止めたい」
お金を渡した男「ハハハ」
交際相手「(お金が)どこに行ったか分からない」
お金を渡した男「入金したら、返金はできない」
穂野香さん「誰が誰にお金を渡して、どういうルートで……」
お金を渡した男「(投資先の)会社がやっていることで、僕ら一切関わりない」
投資先の会社に穂野香さんのお金を渡しただけで、自分は関係ないと言い張る男。そんな男にまで、穂野香さんが気遣う場面もあった。
穂野香さん「ごめん。時間がだいぶ過ぎたけど、大丈夫ですか?」
お金を渡した男「ヤバいですね。大丈夫ではない。ハハハハ」
穂野香さん「解散しましょう。ごめんな、しょうもない話に付き合わせてしまって。ありがとうございました。ごめんね」
この翌日の2020年10月1日、穂野香さんは、投資話の被害相談をするため母親と警察に行くと約束をしていたが、大阪府内のホテルで自ら命を絶った。
母・佐永子さん「もう怒りと後悔ですかね。こんなことに誘われなかったら、絶対に死んでないと思いますし、何歳くらいで結婚すんのかなとか、そんな話とかも、私ともちょこちょこしていました。こんな話がなかったら、今も元気に楽しく過ごしていると思います」
穂野香さんが亡くなって2年後の今年7月、穂香香さんを勧誘した20代の男は「詐欺罪」ではなく「金融商品取引法違反」で、罰金70万円の略式起訴となった。
穂野香さんが投資した会社「ジュビリーエース」の首謀者とみられるメンバーも、去年11月に金融商品取引法違反の容疑で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決になった。出資者から集めた金額は、650億円にも上る。
現場を取材したテレビ朝日・社会部デスクの染田屋竜太記者は、こう話す。
「大学を卒業し、社会人としてこれからだった女性が命を絶った一方、女性を騙した男性は罰金70万円の略式起訴しか受けませんでした。本当にこれでいいのだろうかと、やるせない気持ちを持ちながら、取材をしていました」(以下、染田屋記者)
穂野香さんの遺影を持って「被害者の会」の会見に出席した佐永子さん。今回、佐永子さんが顔と名前を出し取材を受けてくれた理由について、染田屋記者は「最初は匿名で取材を受けていただく予定だった」と経緯を語る。
「ただ、取材を重ねるにつれて『自分の娘に起きたことは、今後絶対に起きてほしくない』とのことで、穂野香さんの写真を含め、取材に協力いただけることになりました」。穂野香さんのお母様の話では『投資をしてみたい』というよりは『懐かしい』といった気持ちで気軽に返信してしまったとのことです。大学時代の同級生が『紹介したい人がいる』といって、男性との3人のLINEグループが作られて、会話をしたようです。あくまでも穂野香さんは、詐欺グループの一味だと思っておらず、懐かしい友人の一人としてやりとりしていました」
実際に「所謂マルチですか?」と最初は疑っていた穂野香さん。男は「全員が得をする形」「絶対儲かる」「9月1日までに入金すれば」と、畳みかけるように入金を急かしていた。
「LINEで男が否定していますが、仕組みはまさにマルチ商法だといえます。お母様の話では、お金を渡した後、ジュビリーエースを検索して『詐欺に引っかかってしまったのではないか』と気づいたようです」
騙されないために、私たちはどのようなことに気をつければいいのだろうか。
「弁護士さんの言葉を借りるなら『自分は詐欺に引っかからない』と思う人が大半だそうです。しかし、これからは『自分は引っかかるかもしれない』と思わないといけません。一方で、今は企業名や暗号資産の名前など、ネットですぐに検索ができます。日本において暗号資産の取引は、完全許可制度です。金融庁の許可がないと営業ができません。本当に金融庁で許可をもらった会社なのか、調べることができます。お母様によると、穂野香さんが『詐欺かもしれない』と気づいたのは支払いをしてしまった3日後で、あと3日早ければ被害を防ぐことができたかもしれません」
国民生活センターのまとめでは2011年は1767件だった「モノなしマルチ商法」の相談件数が、2021年には4727件に増加。増えた分の8割が20代だという。
「SNSで情報が拡散され、関心を持って反応してしまう若者が増えています。弁護士さんによると、過去は『お金を持っていないから』と詐欺師に相手にされなかった若者が、スマホで簡単にキャッシングできてしまうことで、お金を借りることができてしまう。若者が狙われているともいえるでしょう」
投資話からわずか1カ月。帰らぬ人となった穂野香さん。発見されたホテルには、母親や友人に宛てた6通の遺書が残されていた。
「私もお母様宛の手紙を読ませていただきましたが、最初は丁寧に書いていたのに、後半、字が乱れていくのを見て、どのような気持ちでこれを書いていたか。胸が痛かったです。特に、遺書の最後、印鑑が押されていたのですが、2個押してあったんです。1個目はかすれていて不完全だったんです。お母様とも『これはなんでしょうね』と話して。きっと『1個目がかすれてしまったから、ちゃんと押さなきゃ』と思って、2個目を押したのだと思われます。亡くなる直前までそんなことを考えていた人がなぜ……。納得がいかない部分でもあります」
希望していた教育関係の仕事に就き、社会人として歩み出したばかりだった穂野香さん。母に残した手紙には、最後までお金を心配する言葉がつづられていた。
「ごめんなさい。本当にありがとう。服とかは売ってね。多少のお金にしかならんかもやけど」(穂野香さんの遺書より)
(ABEMA NEWS)