三才ブックスの本を鳥取県が有害図書に指定したニュース。有害図書とは青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすとされた書籍のことで、鳥取県は対象の3冊を指定。これはネット事業者にも適用されるため、Amazonが書籍の販売を停止し、入手しにくい事態になった。
また先月、別の本をめぐってもある出来事が。事の発端となったのは、イギリス人フェミニスト学者の著書『美とミソジニー』。「美容行為を、男性支配と女性の従属を促進させる『有害な文化習慣』としてとらえ、西洋中心的・男性中心的価値観を痛烈に批判する」内容となっているが、その一方で、トランスジェンダー女性の差別的な内容があるとも指摘されている。
この本が発売された後、ある大手書店が特集コーナーの一角に陳列した。すると、訪れた客の1人が書店員に対し「こんな差別的な本を売るべきじゃない。取り下げろ」と訴えた。書店員は「本社の指示なので」と対応するにとどまったという。この出来事がTwitterに投稿されると、「差別本を扱うことも差別だと思う」「対応した書店員が気の毒だ」などの声があがった。
「差別的」とされる本を置く店、そして働く書店員にどこまで倫理や責任が求められるのか。14日の『ABEMA Prime』は議論した。
『美とミソジニー』の翻訳に携わった武蔵大学社会学部教授の千田有紀氏は「発売されると同時にSNS上でもすごく盛り上がっていた。サブタイトルは『美容行為の政治学』で、韓国の『脱コルセット運動』のバイブルと言われた本だ。一章だけ女装する男性に触れているけれども、基本的にはトランスジェンダーの本でも何でもない。読んでもないのに『こんな本は読む価値がない』『これは差別本に違いない』と言って抗議をされたことに疑問を持っている」との見方を示す。
書店の陳列について、ブックジャーナリストで本屋大賞理事の内田剛氏は「30年ほどナショナルチェーンの書店にいて店長経験もあるが、流通している本に対して書店側でバイアスをかけるほうが問題じゃないかということで仕入れは行う。ただ、店のどの場所にどう置くかは書店員の腕の見せ所で、置き方については注意をしている」と説明。
ライターの速水健朗氏は「魅力的な本屋さんの棚は担当者の個性が出るが、全ての本の中身をチェックすることは当然できない。内容の判断までの負担は書店員には無理なのではないか」と疑問を呈する。
内田氏は「年間7万冊、1日200冊ぐらいの本が出ていて、書店員が全て理解するのははっきり言って無理だ。担当者は、自分では無理な部分は編集者や営業の方、時にはお客様の話から棚を作っていく。嫌韓本が話題になった時もそういった本が圧倒的に増えて、棚に来る本は必然的に偏ってしまう。そこは書店員がバランスを取らなくてはいけないが、編集機能が働かなくて、お客様から『このお店は偏ってるんじゃないか』という意見をいただくこともある」と答えた。
パックンは「トランスジェンダーの方々が社会で生きづらい世の中なのは間違いなくて、それを改善するためにみんなの意識向上を目指すのはいいと思う。今では女性の社会進出が当然になって、誰も議論しないくらいだが、ひと昔前だったら、トランスジェンダーの方々が言われているようなことをフェミニストの皆さんも言われていたと思う。その時代に、この原作者が“女性はキッチンにいろ”と言われたら、“ふざけるな。そんなことが書いてある本をすぐ削除しろ”と怒ったと思う。ただ、問題ある発言や思想が反論もされずに流れるのも困るので、僕が書店員だったら異なる立場からの本を隣り合わせで展示すると思う」との考えを明かす。
千田氏は「名指しされた人が発言すること自体を問題視して、その人たちが発言する場所を奪っていくノー・プラットフォーミングや、“この人は差別主義者だから発言させたり本を書かせちゃダメだ”というキャンセル(カルチャー)が問題になっている。オバマ大統領も“キャンセルは問題で、そういう早急な解決をするわけではない、するべきじゃないんだ”ということを演説している」「私たちがオープンに差別や人を傷つけないで話し合うためには、どういう議論があるのかをまず知った上で、その素材となる本が必要だと思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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