将棋の里見香奈女流五冠(30)が挑む棋士編入試験第2局が9月22日、東京渋谷区「将棋会館」で指される。第1局は徳田拳士四段(24)に敗れ黒星発進。残り4戦で3勝を目指し、第2局では岡部怜央四段(23)を試験官に戦う。史上初の女性棋士誕生となるか、歴史的な挑戦の舞台に立つ里見女流五冠の素顔を、実妹で女流棋士の川又咲紀女流初段(26)が語った。
川又女流初段は、2016年4月に女流2級としてプロデビュー。2021年9月のマイナビ女子オープン本戦1回戦で姉・里見女流五冠と対戦し、女流公式戦史上初の姉妹対決として大きな話題を呼んだ。棋界きっての仲良し姉妹としても知られ、昨秋に行われた第2回女流ABEMAトーナメントでは、里見女流五冠が自軍メンバーに川又女流初段を指名。勝利して控室に戻ると、里見女流五冠が妹の頭を優しくポンポンして迎える様子も見られ、視聴者からは「頭ポンポンかわいい」「美しい姉妹愛」と、里見姉妹に魅了される声が続出していた。今年3月には結婚を発表。以来「川又」姓で活動している。
川又女流初段の結婚前までは、大阪市内で数年間、姉妹で同居をしていた。姉との関係は「“異常に”仲がいいです(笑い)」といい、友達のような距離感だという。
「姉が奨励会在籍中は将棋の部分は触れてはいけないというのがあったので、以前はそんなに頻繁に話すこともなかったんです。別々に住んでいる時もよく連絡は来ていたんですけど、私は一人が好きなのであんまり行かなかったんです。私から誘っていいのかと気を使っていたのもありました。
私が大阪に出てからは、姉からすごく心配されているというのもあって『一緒に住もう』と言われてからは会う機会も増えました。そこからは、一緒に住んでいるのに一緒にご飯食べに行ったり遊びに行ったりしていたので、グンと距離が近くなりましたね。今もビックリするくらい姉から連絡が来ます(笑い)」
里見女流五冠は、女流タイトル獲得数歴代1位の49期のほか、棋士を目指し奨励会にも挑戦した。2011年5月に奨励会1級で入会。翌年1月には女性で初となる奨励会初段に昇段、さらに2013年12月には三段昇段と着実に階段を上った。2014年4月から三段リーグに参戦するも、里見女流五冠を体調不良が襲う。休場を経て5期参加したが、プロ入りには届かず2018年3月に年齢制限による退会となった。
「奨励会時代は本当に将棋のことしか考えないし、本人も将棋のこと以外考えたらダメ、考えているようじゃダメ、くらい思っていたと思うんです。一番苦しそうに見えたのは三段リーグ時代です。だめだった時の後ももちろん苦しかったと思いますが、三段リーグ時代は今とは人が変わって見えるくらいで…。休場中はそんなに感じませんでしたが、どちらかというと在籍中の方が『大丈夫かな』というのがありました。
ここ数年、姉は見た目も変わったと思うんですけど、雰囲気も柔らかくなりました。将棋以外のことを絶対に出来ない環境に自分で自分を追い詰めている環境から抜け出して、ちょっと経って気持ちが慣れてきたからいろんなことに挑戦してみたりとか。変わらないといけないと思っていたのか、変わりたいと思っていたのかはわかりませんが、今はすごく楽しそうに日常を過ごしていているように見えます。
もちろん将棋は一生懸命やっていますが、将棋がすべてという感じではなくなったので、将棋もやりつつ、他のことも取り入れているんだと思います。楽しみながら気分転換しながら。今が一番楽しそうにやっていますね」
まるで自分のことのような表情を浮かべ、ホッとしたように笑顔がこぼれた。友達のような距離感とあれば、会話は仕事のこと、日常の生活のこと、もちろん“恋バナ”も。
「一緒に住み始めたころは全部相談していました。言わなくても『何かあったでしょ』と言われるので、本当にエスパーかなと思うくらいでした(笑い)。
結婚後にあの辺に住もうと思うんだよねとか、あの物件見てきたとか、苗字も今のままで行こうかどうしようかとか、結婚が決まる少し前までは、結婚したらどうしようかなとか、世間話のような感覚で、お姉ちゃんだったらどうする?とか何が変わるかなとか、本当に友達のような感覚で全部しゃべっていました」
里見女流五冠にとって大一番となる編入試験第1局を控えた数日前のこと。川又女流初段は長かった髪をバッサリとショートボブまで切り、大変身した。理由はヘアドネーション。3年に渡る長き“ミッション”を成功させ、「中継コメントでも『長すぎる』と書かれていましたね。自分でもそう思っていました(笑い)。今はシャンプーが1回で終わるんですよ!頑張りました~」とケラケラと笑った。
「髪切って2日後くらいに会ったんですけど、姉にすごい笑われました。小学生の時にはこれくらいの長さだったんですけど、それ以降はずっとロングだったので、『え、小学生!?』って(笑い)。私が最寄り駅まで車で迎えに行ったんですけど、運転しているのにずっと頭ポンポンされて、『やめて~』って言ったのに、面白かったのかずっとやっていましたね」
約1ヵ月前の編入試験第1局から、第2局は目前に迫る。里見女流五冠はその間にも数々の公式戦に女流タイトル戦で全国を飛び回り、目の回るようなスケジュールをこなしてきた。「普段は姉の対局日も知らない」というが、この大一番は川又女流初段にとっても特別な思いがあるという。
「何が何でも絶対にプロになってほしいというのは違うんです。将棋に対する変化とか、姉のすごく落ち込んでいる時期とか、すごく楽しそうな時期もずっと見てきたので。いろんな思いがあって今回挑戦することになったのは間違いないので、そういうのを全部知った上で見ているので…。
皆さんは勝って受かるのが一番という感覚だと思いますが、私からすると姉が満足する結果だったらそれでいいんです。もしだめでも、力が発揮できて姉が清々しい気持ちで終わってくれれば受けてよかったと思いますし、それがプラスに向いたらいいなと常に思っています。
奨励会に入ってずっと目指していたプロというものに改めて挑戦するという、今までとは全然違った一番になると思うので、私も緊張しちゃいますね。やっぱり…」
注目の第2局は9月22日、東京・将棋会館で午前10時開始を予定。試験官は岡部怜央四段が務める。