“宣伝になるから無償で取材”“報道だから事前チェックなし”はメディアのおごり? 『孤独のグルメ』原作者のツイートから考える取材と報酬のあり方
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 「最近いくつかの新聞社から『孤独のグルメ』についてのインタビュー依頼があったけど『今回は無償で』とか『報酬と著者校正はございません』っていうので断る。『宣伝してやるからインタビュータダでさせろ』っていうみたいな新聞社の態度は、時代錯誤で非常識」

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 こうツイートしたのは漫画『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之氏。10月からドラマの新シーズンがスタートすることもあって注目度は高まっているが、取材のあり方に苦言を呈した。

 Twitter上では「時間をもらっておいてあり得ない」「プロが相手なら対価を払うのは当たり前だろう」「記者って昔からこうだよね」と物議になっているが、実は新聞やテレビの世界では無償で取材をするという場面があるのが実情だ。

 これはメディアのおごりなのか。無報酬のインタビューはありなのか、なしなのか。21日の『ABEMA Prime』は議論した。

■“無償の取材=宣伝になる”は効果なし?

 個人スポーツジムを運営する加賀洋平氏は、報酬なしの依頼を受けたものの結局断ったことがあるという。「業界で結構知られている雑誌の取材だった。専門性のある知識を“タダで”と言われると、仲間に足元を見られたような、“同じ思いを共有してくれないのか”という寂しい思いをした」と話す。

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 SNSなどで“自分のメディア”を持てるようになった影響も感じているそうで、「独立直後は心配や不安があったので可能な限りメディアに出ようとして、“取材依頼が来た、ラッキー”と思っていた。今はSNSが盛んで、ありがたいことに私もそちらで名前が売れている。取材は天秤がつり合わないと感じた」という。

 “無償の取材=宣伝になる”という構図も疑問に思うところがあるといい、「SNSで『僕の記事が出るので読んでほしい』と宣伝しても、すでに私のことを知っている人が読むだけだ。媒体に出ることで信頼は高まるのかもしれないが、収入面にはあまりつながらないのが現実だった」と語った。

 記者歴13年、大手新聞社で働く鈴木氏(仮名)は「久住さんのおっしゃるとおりだと思う。メディア側からお願いしているので、報酬の話になるのは当然。その額を支払えないのであれば、“今回は別の企画にする”という判断もありだ。適切なビジネスコミュニケーションができればいいと思う」と指摘。

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 また、「ネームバリューのある方々はどんどん報酬を求めていくべきだ。そうすれば、謝礼を支払わないメディアはその人にアクセスできなくなる。逆に、インタビューされる側が替えのきく場合、メディアは無報酬で受けてくれる人に流れていく。どこかでバランスが取れるはずで、ビジネスの世界でもあるので綱引きのようなものだと個人的には思う」との考えを示した。

■記事の事前確認ができず炎上、訴えたいことと逆の発信がされることも

 記事の事前確認ができないことで被った不利益として、メディアアーティストの市原えつこ氏は「新聞社だと“報道だから事前チェックはない”と一辺倒で突き通されることもある。メディアに出るのは必ずしも宣伝になるわけではなくて、その記事が炎上した時にバッシングされるのは取材対象者だ。私自身、展示イベント中にあるウェブメディアから突撃取材をされて、新聞社のルールに則って事前チェックなしに記事が公開された。それが系列のウェブメディアに転載されて大炎上。私は自殺するかもしれないと思うくらいにボコボコになって、個別に謝罪はあったものの、特に補償はなかった」と説明する。

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 「記者独自の観点や偏見、バイアスがあった。自分は言ってないがそう言ってほしかったのだろう。書き変わっていたのが問題になった」とした上で、「無償で受けることはやぶさかではないが、チェックはさせてほしい。記者よりインタビュー対象のほうが知識を持っている分野であれば、明らかに解像度の低い情報がプロフェッショナルとして出回ってしまうリスクがある」と訴えた。

 JETBOOK作戦代表で、児童養護施設にいた過去をもつ山内ゆな氏は、「児童養護施設だとまだかわいそうとか暗いイメージを持たれている記者さんも多くて、それを前面に出される。そのイメージを変えるために動いているのに、そのために取材を受けたのに、全然逆の方向に動いてしまったことがある」と振り返った。

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 鈴木氏は「取材先との適切な、リスクヘッジのためのコミュニケーションができる記者もいるが、やらない記者も残念ながらいる。そこは業界全体の課題というか、現場教育が行き渡らない時にこうしたトラブルが起こってしまうのではないか」と推察した。

■取材報酬目当てに真実が歪む?

 ネット上では、「取材は無報酬が原則。金銭の介在により真実性が歪みかねない」「無償なら真実性の担保ができるって誰が保証してくれるのか」「著者校正なしのほうが、よほど真実性が歪められる」など、取材報酬に対して賛否の声があがっている。

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 過去には2008年、日本テレビ『真相報道バンキシャ!』が内部告発を基に岐阜県の裏金問題を報道した際、証言は虚偽であることが判明。告発者は、不正告発を呼びかけたサイトに謝礼金目当てに応募していたとされる。

 鈴木氏は「“タレコミ情報を集めている。ちゃんとした情報にお金を払う”と公言してしまうと、お金を目当ての人がどうしても出てきてしまう。メディア側から申し込んだ場合は報酬を支払う、向こう側から情報が来た場合は払わない、といった線引きをするべきだと思う」とした。(『ABEMA Prime』より)

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