時速194キロで死亡事故 なぜ“過失運転”?大分地検の判断に専門家「危険運転致死罪で起訴をして裁判の場で問うべき」
【映像】原型をとどめていない被害者の車
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 大分市の一般道で去年2月、当時19歳だった元少年が時速194キロで右折車に激突し、死亡させた事故。大分地検が元少年を“過失運転致死罪”で起訴したことに対して、遺族がより刑罰の重い“危険運転致死”を適用するよう求めて署名活動を始めた。

【映像】原型をとどめていない被害者の車

 ぐしゃぐしゃになった車体――。これは衝突死亡事故の加害者の車だ。運転していたのは当時19歳だった、元少年。事故を起こしたときには時速194キロを出していた。そして、被害者の車も原型をとどめていない。この車に乗っていた小柳憲さん(当時50歳)は出血性ショックで死亡した。

 現場となったのは大分市内の一般道で、右折しようとした小柳さんの車に法定速度60キロの3倍以上という猛スピードで直進してきた元少年の車が激突。事故から2カ月後、大分県警は危険運転致死容疑で元少年を書類送検した。

 しかし、1年3カ月後――。小柳さんの姉が会見を開き、大分地検が「危険運転致死罪」での起訴を見送ったと明らかにした。大分地検が適用した罪名は過失運転致死。危険運転致死罪の最高刑は懲役20年だが、過失運転致死罪では懲役7年と全く重さが違う。

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「どれだけスピードが出るのかを見るためにアクセルを踏み続けたこと、そしてその結果起こした事故が不注意による過失犯とは思えません」(小柳憲さんの姉)

 大分地検の次席検事は「捜査の結果、危険運転致死の立証には至らなかった」と説明。危険運転で起訴できない理由について、担当の検察官は小柳さんの姉にこう話したそうだ。

「加害者は衝突するまでまっすぐ走れている。例えばカーブを曲がり切れなかったというのなら危険運転の証拠になるが、直線道路での走行を制御できていたということになるので危険運転にはあたらない」(小柳憲さんの姉)

 危険運転致死傷罪が適用される要件のひとつが、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」。この進行を制御することが、困難な高速度のハードルが非常に高く設定されていると、福岡大学法学部(法社会学)の小佐井良太教授は指摘する。

「危険運転致死傷罪を作った際には刑の乱用を戒めるような形で、単に速度が制限速度をはるかに超えているというだけではそれを認定できない形にあえてしている」(小佐井良太教授)

 具体的には、大分地検の検察官が説明したように、どんな高速度であったとしても直線道路を真っすぐに走れていた場合には「制御が困難」だったと認定されにくいというのだ。

「道路から逸脱するとか、カーブを曲がり切れずにはみ出ちゃうとか、その高速度によって運転を制御できなくなる、そういうことなので、単にスピードの出し過ぎによって事故が起きました、の場合には要件には当てはまらないと(考えられている)」(小佐井良太教授)

 納得がいかない遺族たちは上級庁である福岡高検や最高検に、危険運転致死罪を適用するよう求める上申書を提出。さらに署名活動を始めた。

 小柳さんの姉と共に署名活動を行う人の中には、1999年、東名高速道路上で起きた、飲酒運転のトラックによる追突炎上事故で娘2人を亡くした井上郁美さんの姿も。

 井上さんらは悪質な交通事故への厳罰化を求め署名活動を展開。事故から2年後の「危険運転致死傷罪」創設につながった。その危険運転致死傷罪がうまく運用されていないことに、井上さんはもどかしい思いを抱いている。

「結局各地の検察庁が、なかなかその法律を潔く使ってくれてないという風なことに遺族が苦しめられてる」(井上郁美さん)

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 100メートルをわずか2秒弱で走り抜ける猛スピード。時速194キロというのは、本当に「制御が困難な高速度」ではないのだろうか。小佐井教授は大分地検の判断に疑問を投げかける。

「本来検察の判断というのは、必要な時には起訴を行う。これが本当に罪に問えないのかということを裁判の場で問うていって、それに対して裁判所はこう判断をしたっていうものがあって初めてそれが議論できるわけですけれど、それがない」(小佐井良太教授)

 つまり時速194キロが「制御困難な高速度」に当たるかどうか、まずは危険運転致死罪で起訴をして裁判の場で問うべきだという。

「解釈の幅を広げてあるいはそれに必要な証拠を固めて、問うていくってことがやっぱりないと、この規定(危険運転致死傷罪)は生きてこないということなのかなと」(小佐井良太教授)

 死亡した小柳さんの姉は、大分地検が事故の十分な検証を行ったのか疑問を抱いている。

「検察官には、加害者の視野は高速度によりどれほど狭くなっていたのか。弟から見てどのぐらいの光が見えたのか。いろいろと疑問をぶつけましたが、そのような検証は全くしていないようでした」(小柳さんの姉)

 それでも井上さんは、今後の展開について期待を持っている。

「もし危険運転致死罪が、訴因が変更されてまっとうな裁判が開かれたら、『ほらやっぱり法定速度の3倍を超えるような速度を出して、事故を起こしたらいくら何でも危険運転だよ』って一般市民の感覚と裁判所とか法律家の感覚が少し近づくかなって。この裁判はそういった意味でも大きな意味を持つと思っています」(井上郁美さん)

 署名は既に7000人分近く集まっていて(9月27日時点)、遺族たちはさらに活動を続けていくつもりだ。(『ABEMAヒルズ』より)

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